彼 3
少し日差しの強い休憩室で、彼女は外の景色を眺めていた。
先ほどの彼女の表情が気になり、資料をテーブルに置くと、そそくさとオフィスを後にした。
動揺を隠すために、煙草に火をつけながら、さり気なく休憩室に入る。
珈琲の深い香りに混じって、 ほんのりと甘い香りがした。
彼女の香水の香りだろうか。
彼女は俺より後ろ斜め気味に立ち、外の景色を眺めていた。
顔の表情は、ここからは見えない。
煙草を吸いながら、彼女の後ろ姿をぼんやりと眺めていた。
このまま時間が止まればいいと思った。
ガラス越しの景色と彼女の影が溶け合うように、昼間の日ざしは強く照りつけていた。
俺は目を細めながら、そんな消え入りそうな彼女の細い肩を眺めていた。
―暑い。
本当に今、11月なのか?―
部屋の空調が壊れているぐらいの暑さを感じながら、額にはうっすらと汗が流れ始めていた。
煙草を吸いながら、この場をどう切り抜けようかと考える。
―やはり、話しかけるべきなのか…。―
そう思いながら、燻り始めた短い煙草を消し、彼女の方へと近づいた。
「あら、お邪魔だったかしら?」 と、いいタイミングで主任が入ってくる。
俺の顔色をちらりと覗き、ずかずかと二人の間に割りこんできた。
主任が入ってきたのと同時に、彼女はきびすを返し、休憩所から出ていこうとしたが、主任の手がそれを遮っていた。
主任が彼女と話している間、気が抜けた俺は、またぼんやりと外の風景を眺めていた。
主任に急に胸を小突かれた時、何が起こったのか察しがつかなかった。
いつものように、独りでしゃべっていたのだろう。
主任が休憩室から出ていったのを見送り、休憩所から出ていこうとした彼女を引き止めた。
【彼女4】へつづく