彼2
プレゼンから帰ってから見た時の、彼女の様子が気になる。
大テーブルで、資料の準備をしていると、彼女がオフィスに入ってくるのが見えた。
薄手のカーディガンにカットソー。
シンプルながらも楚々とした感じが清潔感を漂わせている。
確か、自分よりも幾つか年上だと、他の女子社員が言っていたのを思い出した。
しかし、あどけなさが残る彼女の笑顔を見ると、自分の方が些か歳を食っているよう見える。
「おはようございます」
明るい挨拶に、心が踊る。
今日も一日頑張ろうと、そういう気持ちが沸き上がってきた。
「やっぱ、外資系は綺麗どころが揃ってるわ」
紅潮した頬で、嬉々と話す主任の顔が面白い。
まるで、シンバルを叩く猿の人形のようだ。
「ねえ、どの娘が良かった?やっぱ、社長秘書?
タッパ的にはお似合いよね」
「タッパ的ですか…でかい同士じゃ、それこそ目立つでしょう。
俺、あんまし目立つの好きじゃないし」
「ほんと、つれない男ね」
そう言いながら、会話にならないと悟ったのか、主任はエレベーターから見える景色を眺ながら、
「土曜日に出社なんて、面白くも何ともないわ。
早く週休二日制にならないかしら」
ぶつぶつと小言のように呟いた。
−しゃべんなきゃ、結構、いい男なのにな。
そう思いながら、綺麗にプレスされたスーツを眺めた。
この会社に入社して、この人に色々な事を教えてもらった。
今の俺があるのも、この人のお陰だと、感謝すら覚えるけど、この人のハイテンションにはどうしてもついていけない。
時々、若者らしさに欠けると、よくこの人にハッパをかけられるけど、俺は俺のペースでしか動けない。
無理に合わせようとしても、駄目なのは、俺自身が分かっている。
ほんと、この人には、かなわない。
自分はまだまだだなと、苦笑いが込み上げてくる。
エレベーターから下りると、彼女と廊下ですれ違った。
ぼんやりとした暗い表情が気になった。
どうしたのだろうか。
【彼女3】へつづく