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片 恋  作者: 由卯
3/12

彼女2

朝一番に彼の姿を探すのが、私の日課になった。

 どうやら、今日は外勤らしい。

どうりでいつもよりシックな出で立ちだ。

主任がいつにもなくハイテンションなのが、気になる。

机の上で、ごそごそと準備をしながら、隣の席の子にさりげなく聞いてみた。


  「今日は、どこにプレゼンなの?」

  「外資系の会社らしいよ。

  主任のあのハイテンションぶりを見れば、分かるわ。

  結構、いいが揃ってるって噂よ。

  男って、みんな美人が好きなのよねっ」


 顔を歪めながら、そういった隣の子の語尾には、殺気が籠もっていた。

 準備をする手が、少し震える。


 −彼も、やはり可愛い子がいいのだろうか。−


 不安がどしりと彼女の上に覆い被さり、気分が次第にどんよりとした曇空に変わっていった。


 彼のいないオフィスは、蝉の抜け殻がごろごろと落ちている昼下がり公園ような、そんな寂しさがある。

先ほどの会話が、頭の中を走馬灯のように、ぐるぐると回っていた。

些細なことなのに、気にしている自分がもどかしい。


 −どおって事ないわ。−


 強がってみても、頭の中は、今朝の話で一杯だ。

頭を冷やそうと、オフィスを出て、長い廊下を歩き、休憩室に向かった。



 偶然、廊下で彼とすれ違った。

主任が何やら嬉しそうだ。プレゼンが成功したのだろうか。

それとも…


 重苦しい気持ちで一杯になりそうな気分を紛らわすため、濃いめのエスプレッソのボタンを押した。

珈琲の湯気がゆらゆらと上っていく。

いつもよりも珈琲が苦い。

気分で、こんなにも味が違うなんて、初めての経験だった。


【彼2】へつづく

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