彼 1
気怠い土曜の出勤。
眠い目を擦りながら、ベッドから起き上がる。
時計の針は、今丁度、七時を指そうとしていた。
枕元に置いてあった目覚し時計が、けたたましい音で鳴り始めた。
ライターを擦り、煙草に火をつける。
目覚めの悪い朝の、覚醒剤。
次第に視界が開けてくる。
冷蔵庫から牛乳パックを取り出し、一気に飲み干す。
窓から入る日ざしが眩しい。
今日も天気が良いらしい。
今日は、取引先に出向いての説明のため、小奇麗な格好をしてこいと、主任に言われたのを思い出し、とりあえずクローゼットから白いシャツを取り出した。
アイロンはしていないが、皺加工がしてあると言うことにしておこう。
パンツは無難な黒っぽいやつにした。
「これなら文句はないだろう」 と、洗面所の鏡の前で、髭を剃りながら、呟いた。
土曜出勤は、何だか気怠い。
エレベータを下りると、長い廊下の突き当たりにオフィスがある。
ずらりと並んだパソコンが、まるで墓石のようで、少し気味が悪い。
席につく前に、案の定、主任に捕まる。
「いいんじゃないの、白いボタンダウン。
タッパがあると、何着ても似合うから、羨ましいわ」
何やら、いつもよりも気合いの入っている主任の出で立ちに、顔が歪んだ。
「今日、行く会社。
あそこ、良い娘が揃っているのよ。
特に、社長秘書。
バイリンガルで、凄い美人らしいわよ」
−やっぱ、主任も一端の男だったってわけですか?
まずはそのお姉言葉を、どうにかしろって話だよ。−
まとわりつく猫をかわすように、ひらりと身を交わし、自分の席へ向かった。
壁ごしに、ちらりと彼女の姿を探す。
まだ、出社していない。
軽くため息をつき、資料の準備を始めた。
【彼女2】へつづく