彼 6
主任から来たメール、その内容は…
読み進めるうちに、携帯を持つ手が、怒りとも何とも言えない感情で、わなわなと震えだしそうだった。
メールの内容は、 こうだ。
二人で寛いだ時間を過ごしていることでしょう。
大変申しわけないけど、今夜はよんどころない事情により、行けそうにありません。
取り合えず、7時半にこ洒落たレストランを予約しておきました。
しっかりとエスコートして下さいねっ。
諒より
―誰が、 諒なんだぁ。
よんどころない事情って、何だよ。―
震える手で携帯を握りしめた。
してやられたという怒りで、頭の中が真っ白になった。
「主任、 何て?」
彼女が屈託のない顔で、俺を見つめる。
―ここは場所を変えて、頭を冷やさないと。―
無言で伝票を握りしめ、急いで出口に向かった。
別に急ぐ理由なんてなかったが、何故だかこの場から立ち去りたかった。
重たいドアを開け、表に出た。
ひんやりとした夜風が心地好い。
怒りが次第に薄れていく。
「待って」
彼女の必死に呼び止める声で、我に返る。
いつの間にか、ずんずんと一人で歩いていたらしい。
カフェの明かりが、だいぶ遠くに見えた。
「何かあったの?」
息を切らしながら、心配そうに見つめる彼女の顔を眺め、俺は自分の不甲斐なさに呆れていた。
―こんな事で、 彼女を手放すのか。
しっかりしろ―
自問自答しながら、俺は腹をすえた。
主任に何と言われようと、構わない。
深く息を吸い込み、心を鎮めた。
「ご免、ちょっと考え事しちゃって」
俺の表情が柔らかくなったのを感じた彼女は、安心した顔でこくりと頷いた。
そして、
「今夜はちょっと冷えるわね」
と、肩をすぼめる彼女の背中に、俺は左手を回した。
びっくりする彼女の顔を見下ろしながら、
「これで少しは凌げる。
さっ、 行こうか」
俺は微笑んだ。
長い間、お読みくださり有難うございました。
「片恋」はまだまだ続きます。
あなたの側にも、ほらっ…