第四話 魔族って、魔族って(前編)
「アルクくん。改めて聞きたいんだけど、どうやってここに戻って来たんだい」
ひさびさにお会いした魔族の神様である邪神様に、どうやってここに来たのか問われたものの、僕自身、何が起きたのかよくわかっていない。
そこで、朝食のときに起きた出来事を、自分がわかっている範囲で説明することにした。
「――と、いうことがあったのです」
「なるほどね」
「邪神様、僕は帰れるのでしょうか」
一通り説明した後、お嬢様のいる元の世界へ帰れるのか聞いてみた。
恐らく邪神様の力があれば、僕を元の世界に戻すことはできるはず。ただ前回は転生だった。もう一度、生まれたときからやり直しとなってしまった日には、お嬢様の執事としてお役に立つことができなくなる。それだけはなんとしてでも避けたい。
「うん。今のまま帰すことが可能だよ。転生前と違ってキミはもうあの世界の住人だからね。世界に魂がなじんでいるから問題ないよ」
僕の心配をよそに、あっさりと答えが返ってくる。どうやらこのまま戻れるらしい。
帰ってもお嬢様の執事として働くことができる。ほっとしたせいか、自然と安堵のため息がもれる。
「安心してくれたようだね」
「助かりました。ありがとうございます」
「うん、まーかせて。で、話を戻すけど、スープを飲んだら倒れて目が覚めたらここにいた。それで間違いないかい」
「はい、もう何がなんだかわかりません」
「うん? スープ、スープ……ああ、あの世界の魔族のスープね。あー、だからここに戻ってくることができたのか」
何やら納得した顔をされる邪神様。
邪神様は、魔族のスープについてご存じらしい。
「お嬢様が泣き出された原因に何か心当たりがあるのですかっ」
僕の求める答えを持っていそうな邪神様に、詰め寄りそうになった。その勢いを見た邪神様は、苦笑している。
「アルクくんの可愛いご主人様のことかい。うん、心当たりがあるよ」
「それはどのような原因なのでしょうか」
「じゃあ、なぜそうなったのか説明しようか。アルクくんには『前世の知識』を渡してあるから原因はすぐわかると思うけど」
話からすると、どうやらいただいた知識の中に答えがあるらしい。原因さえわかればお嬢様を泣かせるような事態はなくなるはずだ。
邪神様の言葉に耳を傾ける。
「今回の件は、キミのご主人様だけの問題じゃないんだよ」
「と、いいますと」
「アルクくん。ほとんどの魔族は味覚オンチなんだよ」
「……味覚オンチ、ですか」
「そう。味覚障害といってもいいかな」
味覚には甘味、塩味、酸味、苦味、うま味の要素がある。
味覚障害とは、おおまかにいうと食べ物の味がわからなくなる状態のことだ。何を食べても味がしない、味が薄いといった症状などがある。
「味覚障害とお嬢様にどんな関係があるっていうんですか」
「まぁ、そう焦らない、焦らない」
焦りのあまり声を荒げた僕の様子に、邪神様は、まあまあと片手を振って落ち着くように促す。背中にある二対の白い翼が動き、僕に涼しい風を送ってくる。生まれたばかりの優しい風が僕の頬をすぅっと撫でていった。
その心地よさに、気持ちを落ち着かせた僕は、自分の放った無礼な物言いに、「すいませんでした」と頭を下げる。そんな僕に、邪神様は笑みを浮かべつつ、「気にしないで」と軽く手を挙げた。
お嬢様のことになるとついつい力が入ってしまう。
いつも冷静であることも執事として大切なことなのだ。
これも執事長の受け売りだが。
「順に説明しようか。魔族は、大気中の魔力を吸収して活力を得るよね」
「はい、魔族学で習いました」
「そして、その魔力だけでは足りない分を食事に含まれる魔力で補っている」
「そのとおりです」
「ところが、それ間違っているんだ」
「へ?」
「正確には、一部正しくないかな。魔族は、大気中の魔力と食事からの魔力を吸収して成長する、と言われている。正しくは、大気中の魔力と食事からの魔力“と栄養”を吸収して成長する、んだよ」
栄養……そうか栄養素か。
そういえば魔族学では栄養素について全く触れられていない。いや、食事に興味のない魔族の世界ではこれが普通なのか。
「栄養素のことなんてすっかり忘れていました。今は前世の記憶がありますからわかりますが」
「魔族は、食事の重要性をないがしろにしているからね」
「するとお嬢様には栄養素が足りてない可能性がありますよね」
「あ、それは気にしなくていいよ」
「どうしてです」
「魔族の離乳食には、栄養素の概念が少なからず伝わっているんだよ」
「えっ。伝わっているんですか」
「正確には、魔力が吸収しやすい食材としてね。で、それがたまたま栄養学的にも合致しているんだよ。例えば、母乳などの乳類だね。ほかにも、ある食材は魔力の吸収がしやすいと伝えられ、離乳食に適した食材としても愛用されている」
「それはどんな食材なのでしょうか」
そんな食材はあっただろうか。全く思い出せない。
悩む僕の様子に、助け舟を出してくれたのは邪神様だ。
「赤い実だよ、今日の朝もあったはずだ」
「あっ。そういえばよく食卓に並んでいますね」
「栄養があるからじゃなくて、魔力の吸収がしやすいって認識が魔族らしいんだけどね」
栄養素のことも魔力と勘違いしてるのが魔族らしいよね、と苦笑される。
「あの赤い実に、名前はあるんですか」
「魔族がつけた名前はないよ。今のアルクくんならわかるでしょ」
赤くて丸くて手のひらよりも大きい実……ま、まさか。
「も、もしかして、あれって、リンゴですか」
「当たり。ちなみにこっちの人族にもリンゴと呼ばれている」
「ええっ。前世と同じ名前なんですか」
「そうだよ。この世界にある食材のほとんどはキミと同じ国から来た人がつけたんだよ。いやぁ、なつかしいね」
えっ? 今、とんでもない発言があった……よね。
“この世界にある食材のほとんどはキミと同じ国から来た人がつけた”、と邪神様は確かにそう言った。
「じ、自分以外にも、この世界に来た人がいるんですか」
「うん、いるよ。そんなにたくさんじゃないけどね」
「その人たちは、どこに……」
「まぁ、それは秘密かな。それに前世の記憶はほとんど消しちゃってあるし」
「そう……ですか。ちょっと残念ですね」
「今のキミは魔族のアルクくんだってこと忘れないでね」
邪神様の言うとおりだ。前世の記憶のせいで混乱気味だが、今の僕は魔族であり、アルクであり、お嬢様の専属執事(見習い)なのだ。
(僕はもう人ではなく、魔族として、お嬢様の執事として生きていくんだ。いまさら前の世界のことなんてどうでもいいじゃないか)
改めて自分の気持ちを固め、床の上に目を落としていた僕は顔を上げる。
その拍子に例の『ランタン』が目に入る。やはり光は明らかに暗くなってきている。周りを照らしている範囲も狭くなっているようだ。あの光が消えるとどうなるのだろうか。
「話がそれたね。まとめると、魔族は大気中の魔力を吸収すれば、ある程度活力が得られる。だから補助にすぎない食事に関しては、ほとんど気にしない。気にしないから栄養についても意識しないし、料理に興味を示さない。興味がないから味に関しても全くの無関心となる。料理の文化もほぼ壊滅しているね」
邪神様は、魔族は味に無関心とおっしゃるが、果たしてそうだろうか。
毎日の食事に困っている貧民ならともかく、味について無関心などあり得ないはずだ。誰しも美味しいものが食べたいはずだ。そこに人も魔族もないだろう。
「ですが、うちの料理長は、きれいな料理を作りますよ」
「うん、見た目重視の魔族らしい料理だね。でもそれは料理文化が発達している人族とは方向性が全く違ったものなんだよ」
邪神様の話は続く。
「人族は年を重ねるごとに味に対する感覚が鈍くなって、味がわかりにくくなる。『前世の知識』を持っているアルクくんならわかるだろう」
「はい、わかります。老化現象のひとつですよね」
「それが長命な高位魔族となれば……どうなると思う」
「……っ」
人族の十倍以上の寿命を持つ魔族だが、年をとらないわけじゃない。ましてや長命な分、味に対する感覚が人以上に鈍くなるのだろうか。もしかしたら千年以上生きている魔族の場合、何を食べても味を感じなくなるのではないか。思わず僕は身を震わせる。
「ただ魔族の場合、老いによる味覚の鈍化だけが問題じゃないんだよ」
「えっ。違うのですか。何かほかに原因がある……のですか」
長生きする魔族ほど味がわからなくなる。そう話していたはずの邪神様は、自らそれだけではないとおっしゃる。味覚障害のほかにも何か問題があるのだろうか。
邪神様は、先ほどよりも真剣な目つきで僕を見る。
「むしろ今から話すことのほうが圧倒的にまずい。非常にまずい。だって老いによって味覚が鈍るのなら、魔族の子供は普通に味を理解できるはずだよね」
そういえば侯爵御夫妻や執事長はともかく、イーラさんも首を傾げていた。イーラさんは僕とほぼ同い年。老いによって味覚が衰えるような歳ではないのだ。それにいくら年齢によって味覚が鈍ったとしても、子供の頃の味の記憶は早々なくなるものじゃない。
「キミも気がついたみたいだけど、魔族は子供の頃から味を理解していないんだ」
「だとすれば、魔族の味覚は……」
「味覚そのものが退化している。ようは遺伝子レベルで味のわからない、生まれながらの味覚オンチ。それが魔族だね」
「い、遺伝子レベルで味がわからない……ですか」
飛躍する話に度肝を抜かれたが、魔族とはそういう種族であると邪神様は言う。
「そう。例えば、動物とさほど知能が変わらない下位魔族ってさ、生肉をそのまま食べているでしょ。腐った肉でもおかまいなしっていうのがいるくらいだもの。味がわからないからなんでも食べちゃうのさ」
人も動物も魔族も、舌にある味蕾で味を判断する。
この味蕾だが、人よりも草食動物のほうが何倍も数が多く、味に敏感らしい。それは草に含まれる毒を避けるためだ。肉食動物の場合、毒を持たない動物などを食べるため味蕾の数が少ない。
「下位魔族はそうですね。でもさすがに僕らは腐った肉を食べたりしません」
「そりゃあ、貴族に多い高位魔族や中位魔族は、見た目重視の料理を好むし、何より臭いはわかるからね」
「そもそも腐った肉なんて食べられないですよ」
「いやいや、勘違いしちゃいけない。もちろん高位魔族や中位魔族は、腐った肉なんか食べやしないよ。けれど、だからといって食べられないわけじゃないんだ」
「えっ。食べられるんですか」
「ホント、魔族って身体丈夫だよね」
そういって肩をすくめながら呆れたように首を左右に振る。
その腐った肉を食べても平気な魔族の神様が貴方です、というツッコミはあえて言わないようにした。
「それに、味のことで問題になるのは、なんといっても料理長だよ」
「料理長ですか……あっ」
「そう。侯爵家の料理長は幽霊族、ゴーストだろ? 味見はできないんだ。でも料理長が悪いわけじゃないよ。今まで味の良し悪しなんて魔族には不要だったんだ。だから味見なんて必要なかったんだよ。アルクくんもここに来る前は、味なんて気にしなかっただろ。試しに今日の侯爵家の朝食を思い出してごらん」
邪神様に指摘されてようやく気がつく。
そうだ。お嬢様や侯爵様たちだけじゃない。邪神様に言われたとおり、僕も味を気にしていなかった。さっき僕が言った“料理長は、きれいな料理を作りますよ”なんて、料理の味を評価していない。
前世の記憶が戻ったせいか、人だった頃の記憶と魔族の記憶が混ざって混乱気味だ。
「そういえば今までの僕も美味しいとかまずいとか感じたことが……ありません。それどころか、美味しいとか、まずいとか、言葉すら忘れていました」
自分自身のことにいまさらながら驚く。
前世の記憶が戻った今なら、僕も味を理解している。だが記憶が戻る前の自分は味に対して何の感情もなかった。
(僕は今まで何を食べていたんだろう)
そう考えただけで背筋が寒くなる。
更に邪神様の指摘で思い起こした侯爵家の朝食のメニュー。
その内容を思い出し、がく然とした。
――――
“侯爵御夫妻の今日の朝食は、柔らかくふっくらとした『白いパン』と、『鮮やかで、きれい』な具材がたっぷり入った温かい『黄金色』のスープ。『新鮮な青々とした葉』の野菜サラダに、軽くあぶられた肉、デザートの『赤い実』が食卓に彩りを添えている。
平民よりはマシなものの、メイドたちが当番制で作っている我々使用人が食すような、『黒いパン』や葉っぱと干し肉の『半透明』なスープなど、いつも同じ食事とは違い、『絵画のように色鮮やかで美意識あふれた侯爵家にふさわしいメニュー』である”
――――
パン以外、使っている材料が何一つわからない。いや、パンですらどんな食材を使って作ったパンなのか知らない。料理を評価しているのは、見た目、色、匂い、形、それに食感くらいだった。
食事とは、口に運ぶだけの作業。
口に入れて飲みこむだけ。
これが前世の記憶が戻る前の僕の食事に対する認識だった。
(なんてことだ)
「思い出したかな。魔族のキミは、見た目や色でメニューを評価していたはずだよ。味については微塵も考えていなかったはずだ。本来、味とは、食べ物の腐敗や毒を識別するためにも重要なことなんだよ。酸味は腐敗を、苦味は毒を、ってね」
言われてみればそのとおりである。
味覚は、美味しい、まずいだけを判断するのではない。安全かどうかも味で判断することだってあるのだ。
「魔族が味覚オンチであることはわかってもらえたかな」
「ええ。嫌になるほど」
「その上で、アルクくんのご主人様について気になることがある」
「それはなんでしょうか」
「うん。恐らくだけど彼女は、魔族には珍しい正常な味覚の持ち主、いや、それ以上に鋭敏な味覚か絶対味覚を持っている。そして……」
一拍おいてから邪神様が言った言葉に、僕は息を詰まらせる。
「そして、魔族としては致命的な欠陥を持つ存在であると同時に、魔族世界としては新たな文化を生み出せるかもしれない貴重な存在の一人だろう」
(致命的、だって)
「ち、致命的な欠陥って。ど、どういうことですかっ」
「まあ、落ち着きなよ。追って説明するから」
致命的な欠陥ってなんだ。
まさかお嬢様の身体に何か問題があるのだろうか。
(ま、まずは落ち着こう。きちんと話を聞かなくては)
僕は深く息を吸い込んだ後、肺の中の空気をゆっくりと吐き出す。落ち着いてきたところで、目の前にいる邪神様にその意味を聞いた。
「致命的とおっしゃった意味をお聞かせいただけますか」
「落ち着いたかい。では続きを話そうか」
僕はうなずき邪神様の言葉を待つ。
「今回のような騒ぎが起きたのは、アルクくんの可愛いご主人様が魔族のスープを飲んだときだったよね」
「声をあげて大泣きされていました」
「恐らく魔族の料理を食べるたびに同じことが起こるはずだ。それに今後、彼女は今のままの魔族料理は食べないだろう」
確かに奥様のスープを一口飲んだだけであの騒ぎだ。
だがここで疑問が浮かぶ。
邪神様は先ほど、“今のままの魔族料理は食べない”とおっしゃった。
なぜお食べにならないのだろうか。それに、なぜ邪神様は食べないという言葉を使ったのだろうか。
その理由がわからない。
「邪神様。お嬢様はなぜ魔族の料理をお食べにならないのでしょうか。食べられないとは違うんですよね。それにあのスープを飲んだお嬢様が見せた強い拒否反応についてもわかりません。あそこまでの反応をされる理由はなぜなのでしょうか……」
僕の言葉に、邪神様がため息をひとつ。
「今のキミなら、帰ってからもう一度あのスープを飲めばその理由もわかるけどね。でも本当ならキミは飲むべきものじゃないんだよ、アレは。どうしてもっていうなら、ほんの一舐めだけ試してみるといい。でも、それ以上は命の保証はしないし、次はないかもしれない」
「えっ。それはどういう意味――」
今、背筋が凍るような不穏な発言がなかったか。
――命の保証はしない
喉元に鋭い刃物を当てたような嫌な予感が脳裏をよぎった。
「彼女が強い拒否反応を起こした理由も、今の魔族の料理を食べない理由も、原因は同じなんだ」
ますます言っておられる意味がわからない。
だが嫌な予感はどんどん強くなっていく。
「さっきも言ったけど、魔族の料理人が作る料理は、基本的に見た目重視の料理しか作らない。味を理解していない魔族が一番重視しているのは、見た目のよさやバランスだからね」
邪神様が言葉を紡ぐたびに僕の背筋に悪寒が走る。
心臓の鼓動が自然と早くなったように感じられた。
「それにアルクくんの可愛いご主人様や侯爵夫妻と違い、アルクくんには耐性がないんだよ」
「……耐性」
「そう、耐性。ほとんどの高位魔族が持っているものさ」
高位魔族が持っている耐性……でも僕にはない耐性。
いったいそれは何のことだ。
「今のアルクくんなら、カエンタケ、ベニテングダケ、ニガクリタケって何のことかわかるよね」
ドクンッ。
心臓の鼓動がひときわ大きくはじけた。
今の僕にはわかる。理解できてしまった。
前世にもあった特別な成分を持つモノたち。
「ま、まさか。それって……」
わかってしまっても確認せずにはいられない。
「そう。例のスープの中に入っていた『色鮮やかな食材』は、『きれいな色をした毒キノコ』なんだよ」
あのスープに入っていたのは毒キノコだった。その衝撃のあまり、息が止まりそうになる。毒キノコ一種類でも危険なのに、その毒キノコが三種類も入ったスープを飲んだのだ。しかもどれも猛毒の類だ。
「それどころか魔族が使っている色鮮やかな食材の多くには毒が含まれている。アルクくんの可愛いご主人様が強い拒否反応を起こしたのは、毒が原因なんだよ」
「ぶはっ」
なおも続いて明かされる恐ろしい事実。
魔族が使っているきれいな食材の多くは、毒がある。
僕を含めて、いったい魔族は何を食べていたのだろう。
「では邪神様が先ほどお嬢様についておっしゃった、“今のままの魔族料理は食べない”というのは……」
「うん。毒があるからだよ」
毒があるから食べない。当然のことじゃないか。
「味が全くわからない、なんでも食べる味覚オンチの魔族の子供だったら、こんな問題も起きなかったんだよ」
悲しげな目をしてつぶやくように言った。
確かにそのとおりなのだ。
これが普通の味覚オンチの魔族であれば魔力と栄養さえあればどんなにまずいものでも口にできる。それこそいざとなれば腐った肉であっても食べるだろう。
「だから“魔族として致命的な欠陥”って言ったんだよ」
なるほど、致命的の意味はなんとなくわかった。
(食堂でお嬢様がおっしゃった“きけんなのー、だーめなのー”は、毒のことだったんだ。ん? だとすると……)
「で、では、僕がここに戻ってきたのは……まさか」
「一種の仮死状態だね。半分死んでいるようなものさ。スプーン一杯分のスープだったからギリギリってとこかな」
――どうやら僕は死にかけたらしい。