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野獣の住む城  作者: 依槻
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02.魔城と野獣

 コノハが森を駆ける音だけが耳に届く。何処まで走っても辺りは木がうっそうと茂るだけ。獣の気配も、ましてや人の気配など全くしない。けれど、それは突如目の前に現れた。何故、今まで気付かなかったのかという程に存在感を放つ、漆黒の闇に包まれたそれは、まさに城だった。

 城の巨大な門の前まで来ると、コノハは足を止めた。

「ここに、父様がいるの・・・?」

セントレスの森は深い。けれど、こんな城があるなど聞いたこともなかった。少しは魔術をかじったからわかる。この城には魔法が掛けられている。何の為に、誰が?

 疑問は潰えない。けれど今は、父の安否を確認することが先決だ。そう自分に言い聞かせ、ルイは門を叩こうと手を伸ばす。すると、ルイが触れる前に門が開いた。けれど、誰かが中から出てくる気配はない。

「・・・入れって事?」

ごくり、と唾を飲み、一歩を踏み出す。一寸先は闇。怖じ気づきそうになるが、勇気を振り絞ってさらに一歩を踏み出す。すると、まるでルイを導くかのように灯りが灯る。まるで、その道を進めというように。

「父様はそちらにいるの?」

誰にともなくそう問いかけ、ルイは進む。ただ、父の無事だけを祈り、恐怖を押さえ込む。 螺旋階段を下りていき、灯りに導かれるまま、さらに暗い、暗い道を進んでいく。そして、灯りが止まった。

「とう、さま・・・。」

「ルイ・・・!?」

父は、檻の中に捕らわれていた。鉄格子の向こうにいる父に慌てて駆け寄る。必死に手を伸ばし、その顔に触れ、父の無事を確認する。擦り傷のようなものは見られるが、大きな怪我はない。生きている。その事に、心底ほっとする。

「ルイ、何故ここに!?一体どうやって!?」

「コノハが家に帰ってきたの。だから、コノハにお願いしたの。父様の元へ連れて行って欲しいと。よかった。父様、無事で良かった・・・!」

ぽろぽろと涙を流す末娘を鉄格子越しに抱きしめる。だがすぐに、娘の危険を感じ、ハウゼンはルイの肩に手を置き、引き離した。

「父様?」

「ルイ、ここにいてはダメだ。あいつに見つかる前に、早く逃げるんだ!」

「あいつ?」

「今日は客人が多いな。招待したつもりもないというのに。」

ため息と共に呟かれた低い声。目の前のハウゼンの顔が青ざめる。

「とう・・・?」

「この子には手を出さないでくれ!」

鉄格子を掴み、必死に訴える父の姿に、ルイは身の危険を感じ、振り返る。

「あなたは、誰、ですか・・・?」

目の前にいたのは、ライオンでも狼でも、猪でもない、その全てが混ざり合ってしまったかのような生き物。「野獣」と呼ぶにふさわしいものがそこにいた。

「お前が知る必要はない。」

「何故、父を牢に?」

「秘密を漏らされては困るからです。」

野獣がいるのとは別の方向から声が聞こえ、そちらを見れば、臙脂色の髪をした細身の男が人好きのする笑みを浮かべていた。

「この城は誰にも知られてはいけない魔法の城。ハウゼン伯爵は本当にたまたまここに辿り着いてしまった。いや~、不運でしたね。」

「なら、私がここにいます。」

「ルイ!?」

「私がここに残ります。もし父が、この城の事を話したら、私を父の目の前で殺してください。」

一瞬驚きの表情を浮かべた臙脂色の髪をした男は再び笑みを浮かべ、野獣に視線を向ける。

「だ、そうですよ。」

「馬鹿な娘だ。・・・いいだろう。娘、俺と契約を結べ。」

「契約?」

「命尽きるその時まで、この城で暮らす事を誓え。」

まるで、喉元に刃を突きつけられているかのような感覚。それだけ野獣の瞳は鋭く、声には威圧感があった。

「あなたが、父に、家族に手を出さないならば。」

「約束しよう。」

「ありがとうございます。」

恭しく頭を下げ、ルイは父に振り返った。

「ルイ、お前・・・。」

「お父様、ルイはここにいます。姉様たちには上手く誤魔化してください。ね。」

「ルイ。」

「ルイは大丈夫です。これでも結構、図太いですから。」

ね。だから、そんな顔をしないで。微笑む末娘の姿にハウゼンは涙を止めることが出来ない。何よりも、何よりも愛しい娘の代わりに自分は生きるのか。

「ハウゼン伯爵。もし、この城の事を明かせば、娘の言った通り、お前の目の前でこの娘を殺す。その後に、お前の愛しい娘2人も殺す。いいな。忘れるな。」

野獣はハウゼンにそう言い残し、牢獄を出て行った。残ったのは臙脂色の髪の男とハウゼンとルイだけ。男は牢屋に近づくと、鍵を一本取りだし、牢の鍵を開けた。そして、ハウゼンに暖かそうなコートを羽織らせる。

「父様!」

「ルイ!」

牢から出てきた父をルイは力一杯抱きしめ、ハウゼンもまた、末娘を力強く抱きしめた。

 「ハウゼン伯爵。主との約束、忘れませんように。」

「わかっている。」

従者の再三の忠告に、ハウゼンは苛立たしげに返事をすると、男の横に立つルイに寂しげな瞳を向ける。

「ルイ・・・。」

「行って、父様。夜が明ける前に、帰ってあげて。」

「すまない。すまない、ルイ・・・!」

ハウゼン伯爵は愛馬、コノハに乗ると走り出した。その父を追うように光が飛んだ。

「今・・・。」

「城の話が出来ないよう、魔法がかかったのです。」

「そう・・・。」

これで、退路は断たれた。

 今日からこの城が、私の家。野獣の住む、この魔城が。

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