某自動販売機 ―公園にて―
「……あそこにさ。自動販売機、あんだろ。俺さぁ、アレ、なんか苦手なんだよな」
「……はぁ? ……自動販売機に苦手もクソもねェだろ」
「イヤ、な。まぁ聞けよ。……これは俺が小学生の頃の話なんだけど……」
「おっ。“怪談話”が始まりましたぞ、と」
「いいから聞けって。……あのな。確か小四くらいん時だと思うんだけどよ。俺、友達とこの公園で遊んでたんだよ」
「うん」
「そんでな。しばらく鬼ごっこやったり、かくれんぼやったり……ドロケイやったりなんかしてさ」
「俺らの方ではケイドロだったぞ」
「そんなん今はどうだっていいんだよ! ……んでな。遊んでたんだけどよぉ。俺、ふと自動販売機の方に目をやったんだわ。したらさ、その自販機の裏に、“子ども”がいたんだよ」
「“子ども”?」
「うん。いたんだ。ハッキリと見た。隠れるようにして、顔だけ出してるんだわ。……最初は無視してたんだけどな。なんかチラッ、チラッ、てそっちをたまに見ると、絶対こっち見てんだわ。俺と目が合うと、パッ、って引っ込むんだけどな。髪の短い、男の子だったんだ」
「へぇー……。ほいで?」
「んでな。年下っぽかったんだけど、俺ら遊んでたのは近所の連中で、歳とか関係なかったんだわ。だから俺、ずっと見てんだったら一緒に遊べばいいのにって思って、自販の方に行ったんだわ」
「うん」
「でな、行ったんだけど……行ってみて気付いたんだ。その自販の裏、人が入れるような隙間なんて、無かったんだ」
「……マジで?」
「マジ。ピッ……タリ、壁にくっついててさ。子どもでも、入れないんだ。絶対に」
「なるほど……んでそれが、“幽霊”だったってワケ?」
「……わかんねェ。でも確かに言えるのは、ハッキリそれを見た、ってことだ。間違いない。“子ども”はあそこにいたんだ」
「んー……」
「……後から聞いたんだけど……あそこにさ、交差点あるだろ? ……あそこの交差点でさ、俺の親が子どもの頃、交通事故があったらしいんだ。……その時事故にあったってのが、小さな男の子だったらしい……」
「……つったってなぁ。……子どもの頃の話だもんなぁ。……見間違いなんじゃねぇの?」
「……そう言われちゃうと、まぁそんな気がしないでもないんだけど……。もう、何年も前の話だかんなぁ」
「…………ヨシッ! 俺が今からあの自販機で、なんか買ってきてやろう!」
「アハッ! マジか!」
「“奢り”はしねぇけどな」
「……」
「……で。何飲みたい?」
「コーラ。…………これ、百五十円」
「…………よし。待ってろ――」
「うん」
「――――――」
――チャリリン――チャリリン
――ピッ
――ゴトトンッ
――ピッ
――ゴトトンッ
「………………」
「――――ッ! ゥワァ!」
「! どうしたァ!」
「――――――――ッハァ、ハァ、ハァ、ハァ、ハァ…………ヤベェわ…………マジビックリした……」
「どうしたんだって」
「いや…………ハァッ…………あのな、コーラ押したんだよ。…………二本。…………んでな、取ろうと思って、プラスチックのカバー開けて……取り出そうとしたら……」
「……」
「何か……冷たくて柔らかい、“子ども”の手みたいなのが……! 俺の手を、ギュッて……! 中で……! 掴んだんだ……‼︎」
「…………マジかよ……」
「うん……。(――プシュッ)……ビビったぁ……(――ゴクッ、ゴクッ、ゴクッ)……ッハァ……」
「…………俺のは」
「……えっ?」
「俺のコーラは」
「あっ……」
「……」
「……」