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魔女の剣は墓標となりて  作者: 1.5m
一章:剣は黒く
2/4

2.

 電子時計は06:59と表示している。もうすぐ七時になると、荷物を担いだ。急ぎ足で玄関へと足を向ける。

「行ってきます」と、誰もいないアパートの部屋に声を投げた。当たり前でしかないが、返事はない。少しばかりさびしげな気持ちになりながら、ドアを閉め、それのカギを閉める。アパートの階段を下りていくと、アパートの001号室に住む大家さんが、そこの玄関前を掃除していた。

「こんにちわ」と柔らかな笑みを浮かべながら、大家さんがいう。この星では珍しい焦げ茶色の髪とい容姿である。おとなしい髪の色をしている大家さんは、相変らず若々しく、定年を迎えたとは思えない。彼女が妙齢の女性といわれたら、私は信じてしまうだろう。

「こんにちは」会釈を交えて、大家さんに挨拶を返す。

「今日から学院ですわよね……。忘れ物はないかしら?」大家さんが優しげな笑みを浮かべていう。

「大丈夫です。なんども確認したので」いったいなんど確認したことだろうかと、苦笑いを浮かべながら答えた。

「そう。あなたはしっかりしているものね……」大家さんが困ったような表情を浮かべる。「野暮だったかしら?」

「いえ、そんなことはありません」軽く微笑んで、頭を下げた。「心配してくださってありがとうございます」

「あらあら……。やっぱりあなたはしっかりしてるいわねぇ……」上品に、手で口を隠しながら、大家さんがいう。「じゃあ、いってらっしゃい」

「はい。いってきます」もう一度、頭を下げた。そして、学校へと足を向ける。

 私の住むアパートは、大通りから入った路地を少し歩いた先にある。多少迷いやすく入り組んでいるが、覚えてしまえば問題はない。

 学院までは徒歩で、約一時間かかる。私のアパートの近くから学院へのバスは出てはいるが、やはりお金がない。行き返りで六百も取られるのは、痛いどころの話しではない。二日で千二百、三日千八百とねずみ算式に増えていく。単純計算で月に約一万八千もなくなるのだ。実際には学院の休みが入るから、もう二千から三千ぐらい安くなるのだろうが、それでも痛い出費である。バスに乗るのは、来月からになるだろう。来月からなら、お金に余裕ができるはずだ。

 

 

 ◆

 

 

 相変わらず、この星の人たちは目が痛い色彩をした髪をしていると、学園の校門をくぐりながら思う。統率のない色の塊に生理的に拒否感が出てしまうのは、過去三回の人生で、一度も赤や青の髪をしている人の群れに出会ったことがないせいだろうか。思えば、一度目の人生も、二度目の人生にも鮮やかといえるまでの赤い髪や青い髪をした人間を一人も見たことがない。三度目の人生では、染色という行為で髪の色を変える人間もいたが、ここまで違和感のない色はしていなかった。これまでの人生とはやはりなにかが違うのだろうかと、どこか不安に思う。

 話しは変わるが、国立アスティーズ高等学院は、モスティアに建つ学校の中でも飛びぬけて、質のいい人間を排出していることで有名らしい。人伝(ひとづて)(といっても大体の情報源が大家さんなのだが)に聞いただけなのだが、超能力が弱くとも、デスクワークが優秀であるとか、現場のサポートが飛びぬけてうまいとか、とにかく仕事ができる人間が多いらしい。ここを出た人間はあちこちの企業が、喉から手が出るほどほしいのだと、大家さんが笑っていない目をしながらいっていた。

 学院の玄関まで歩くまでのあいだに、部活動の勧誘をしている在校生の姿がなんども視界に入った。新入部員を獲得しようと必死になっている姿は、どこかしら滑稽に見える。まるで三度目の世界であった、選挙という|政≪まつりごと≫似ているなと、少しだけ笑いが込み上げた。

 部活動の勧誘に一度も引っかかることはなく、玄関にたどり着く。十五歳にしては身長が低いせいなのか、容姿が異様であるせいなのかわからないが、一人も話しかけるどころか、近づいてさえこなかった。少し異物を見るような視線を感じたが、そこまで気にはならない。なんにせよ、面倒事はなかったのだ。うれしいことだろう。

 しかし、こんなに大きくする必要はなかっただろうと、この学校の校舎を見るたびに思う。見上げるたびに、首が痛くなる。

 アスティーズ高等学院の校舎は、地上七階、地下三階の計十階層の建物となっている。内部構造は、地上二階から最上階の七階までが普通教室および特別教室だ。地上一階は、教職員室や校長室、生徒指導室等となっている。地下は二階までが、超能力の訓練場。中は広大で、おそらく学校敷地内の三分の二以上はあるだろう広さとの、大家さんの情報だ。最下層である地下三階は、学校の備品置き場となっているとのことだ。これらもまた、大家さんが情報を仕入れてくれた。

 それにしてもと、様々な情報を仕入れ、私に教えてくれる大家さんには、頭が上がらない。なにをするにしても、どこからともなく私がしていることを耳に入れて、力を貸してくれる。今回の、アスティーズ高等学園についての情報も、パンフレットには載っていない情報ばかりを集めてくれた。大家さんには本当に頭が上がらない。だが、なぜここまでしてくれるのかがわからない。私は、大家さんとは七年ほどの付き合いしかないというのに、どういうことなのだろうかと、感謝の思いが浮かぶと共に、その疑問が湧いてくる。様々な情報を仕入れてくれる大家さんが、ときどきなにものなのか、と疑問に思ってしまう。

 玄関に入ると、下駄箱はなく、「我が学校は土足で入る校風なのだ」と主張するかのような広い広間がそこにはあった。その広間には、木製のパーテーションがあり、それに組の割り振りが印刷された表が、画鋲で張り付けられている。その目の前に、目が痛くなるような極彩色の人の群れがうごめいていた。

「来る時間を間違えたかしら……」と十五年経てど慣れない色彩を見て、疲れた目をほぐしながらつぶやく。「いったん外に出ましょうか……」

 広間を引き返して、玄関の出入りの邪魔にならないように、玄関の横に移動する。

 どうやら私と同じく、広間の人間が少なくなるのを待つために外にいる人間が少なからずいるようだ。理由は私とはまた違うのだろうが、どことなく彼らに親近感がわくのは仕方ないことだろう。

 腕時計は08:12を指している。登校時間は08:30までだ。玄関の広間を覗くと、いまだに人が減る気配はない。この調子だと、時間に間に合うかどうかわからないだろう。

 耳を澄ませば、「同じクラスだね!」や「まーたお前とかよ……」といった発言ばかりが聞こえてくる。どうやら人が減っては増えているようだ。これでは人数が減ることはないし、私が入っても人の波に流されるだけだろう。人が減るのを待つしかない。

 

 

 ◆

 

 

 腕時計は08:20を指している。

 玄関の広間を覗くと、目に見えて人が減っていた。私でも問題ない人数だと判断して、広間へと足を向ける。

 人の群れをかき分けながら、パーテーションに張られている表の前へと向かう。荷物から取り出した入学証明書と表を交互に見る。

 私の名前を見つけて、それ続く字を追う。

 

「エリス・ルェアータ 受験番号:0098 1.01A.04」

 

 表によると、私は01A組の04番のようだ。

 ふと、表の一番下に、表の内容とは関係のない文字を見つけた。いったいなにが書いてあるのだろうと目を走らせる。

 

「一年生の教室は七階だよ! エレベーターがあるけど、それでも階段で行くって人はガンバッテ!」

 

 無視するのが一番だろうと、視界からそれを外す。

 アスティーズ高等学院の組分けは、座学が得意か、実技が得意かによって、AとBとに分けられている。A組は座学。Bは実技となっている。

 実技というのは、簡単にいうならば超能力の行使することを中心とした授業のことだ。超能力をどれだけうまく扱えるかで、実技は評価される。それ以外でも、殺傷能力を持つ超能力者は、演習という訓練を授業の代わりに受け、評価をもらうことがあるらしい。私は一度も受けたことがないから、人伝に聞いただけで、詳しいことはわからない。

 私は見ての通りA組で、座学が得意なほうに入る。というよりも、実技が諸事情にて壊滅的なほど苦手になっているのだ。よって、自然と座学に力が入る。私がA組に配置されるのは決まりきっていたことなのだろうと、入学証明書の有無の確認をしている教員のもとへ向かうために、人の群れをかき分けながら、そう思った。

 入学証明書の確認をしている教員の前へ行くと、即座に入学証明書の提示を求められた。手に持ったままの入学証明書を教員に手渡し、確認をしてもらう。

 確認はすぐに終った。入学証明書は、教員の手前に置かれている金属の箱の中へと入れられた。エレベーターと階段は向こう側だと、教員が指を指す。それに軽くお礼をいって、教員が指を指した方向へと足を向けた。

 アスティーズ高等学院はエレベーターが設置されている。全十階層もあれば、当たり前なのかもしれない。

 階段で行くか、エレベーターで行くかなどと思考を張り巡らすことなどせず、即座にエレベーターに乗ることを選択する。六階も階段で登っていられるものかと、毒づきながらエレベーターへと向かう。

 エレベーターは広間の左右両方の奥に設置されている。定員は約二十名で、千三百五十キログラムまで耐えられる設計だと、エレベーターのすぐ横にスペックが書かれてあった。

 エレベーターの前には、私よりも先に来ていたのだろう、名も知らぬ隣人たちが、かごが降りてくるのを待っている。今かごはどこにいるのかと、ドアの上部に設置されている、かごの現在位置を表示する電工掲示板へと目を向ける。電工掲示板は、現在位置を「3」と表示していた。もうすぐ着くだろうと、視線をエレベーターのドアへと向ける。

 ふと、名も知らぬ隣人たちが、私に対して(いぶか)しむような視線を向けていることに気が付く。理由は明確ではあるが、いくらなんでも全員が全員、同じ視線を向けてくるというのはどういう了見なのだろうか。正直、訝しむ程度の視線には慣れたものだが、いい気分にはならない。

 エレベーターのほうから、鈴を鳴らしたような音が耳に入る。かごが着いたようだ。

 かごが降りてくるのを待っていた名も知らぬ隣人たちが、一斉に動き出す。自然にできた流れに逆らわず、エレベーターへと、流されるように乗り込む。エレベーターに、定員の限界ギリギリまで人が乗り込んだようだ。そのせいかかごの奥の方に流されて、押し込まれる形となった。おそらく、08:20ごろよりはマシになっているのだと思うが、狭い。そして名も知らぬ隣人の体臭が地味にくさい。

 エレベーターのドアが閉まる。しばらくすると、なんともいえない浮遊感が身体を襲った。

 電工掲示板が「7」を表示する。ドアが開き、かごに乗っていた名も知らぬ隣人たちが、一斉に外へと出た。それに流されるように私も外へと出る。エレベーターの外は、喧噪(けんそう)とした、よくある学校の風景が広がっていた。

 01A組はどこにあるのかと、あちこちを見渡しながら、廊下を歩く。

 ふと腕時計を見ると、針は08:23を指していた。まだまだ時間があると、歩く速度を遅めにする。

 視線をあちこちに向かわせると、廊下の端で談笑する少年少女の姿がいたるところに見えた。年相応の笑みを表情に浮かべながら、大きな声で談笑しているのを見ると、私にはこういう時期が一度もなかったことを思い出す。

 一度目はここまで生きることができなくて、二度目はそんなことをすることさえ失念していて、三度目は周りとの違いが浮き彫りになって、孤立していた。四度目も、過去三回の人生と同じようになるのかと、かすかに不安になった。

 しばらく廊下を歩いて、いくつかの教室の前を通ったが、私の配置されたA01組は見つからなかった。

 ここもA01組ではないと通り過ぎようとした教室の中から、複数の怒声と、なにかが壊れたような音が響いてきた。なにごとかと思い、教室の中を覗いてみる。すると、血気盛んな少年少女たちが、なぜか対立するかのように群れを作って、険悪な空気を(かも)し出しながら睨み合っていた。その二つの群れのあいだには誰かの荷物なのだろうか。黒い砕け散ったなにかが転がっていた。いったい全体どういうことなのかと思考を張り巡らすと、この教室はB組だったと思い出す。実技が得意な人間ばかりが集められたのがこの教室かと、興味深いと思いながら教室の中を見る。

 しかし、実技方面で優秀な人間たちが集まれば、調和が勝手に生まれるはずだと思わなくもない。それにこの学校は厳正な審査に通った人間のみが入れるはずだ。だが、彼らはまだ一五から十六歳で、高校生というまだまだ未熟な世代だ。なにかしら対立や問題が起きたとしてもおかしくはないのだろう。

 どうやら、組のごく少数の人間が対立しているようだ。一方をαとし、もう一方をβとしよう。

 この現状を見る限り、どちらかが問題を起こし、どちらかが糾弾(きゅうだん)しているのかはわからない。ただ、両者らのあいだにある黒い砕け散ったなにかの持ち主であろう人物が、βに守られるように囲まれているのを見ると、どちらが糾弾しているのかは、想像に(がた)くない。

 αの人間が声を荒げて、βへと暴言を吐く。それが齢十五から十六歳の使う言葉かと、胸の中心に締め付けられるような吐き気が生まれる。それをβのリーダーらしき人間は、涼しげな顔をしながら受け流す。そして、「私たちはなにも悪くない」といいたげに、βのうちの一人が小さく笑い出した。

 これは時期に解決しそうだと、第二の人生で(つちか)った経験がいう。だが、解決には時間がかかるだろう。だがそうはいっても、こればかりは当事者に任せるしかないのだ。私が介入したところで、状況が好転するわけでもあるまいということだ。下手をうつより、傍観に徹した方がいいということを、私は第二の人生で学んでいる。

 ここに用はないだろうと、(きびす)を返す。

 

「ぐっ」

 

 なにか、布のような柔らかいものにぶつかった。百七十センチメートル前後の男性だろうと予想する。筋肉質で、私の顔のぶつかった位置が下腹部だったことから、そう予想した。

 女にあるまじき声をあげたが、気にしてはいけないだろう。

 ぶつかった驚きで、バランスを崩した私は、盛大にしりもちをつく。尻が痛いと、手で痛む場所を撫でながら、顔を上げて、私がぶつかった男性の顔を視界に入れる。

 どうやら、男性はアスティーズ高等学院の教員のようだ。金色の髪に、裏稼業の人間にいそうな、ごつい顔。そして、妙にそれらに似合う黒いスーツ。どう考えても生徒ではないだろう。教員というには少し怖い顔をしているが、そこは胸にぶら下げられているカードを見れば、男性が教員であることを証明するには簡単だ。

 私がぶつかったその男性は、訝しげな視線を私に向けながら、しりもちをついた私に手を伸ばした。

「大丈夫か」と、表情を変えずに、その手を握った私を軽々と引っ張り起こす。

「ありがとうございます。大丈夫です」引っ張り起こされた勢いで崩したバランスを元に戻しながら、お礼をいう。「前を見ていなかったので……、すみません」

「もうすぐ時間だ。教室へ戻れ」と、男性は、私の後ろに位置しているB組の教室を顎で指した。「といいたいところだが、お前、A組だろう。ここはB組だ。こんなところでなにをしている」

 男性の訝しげな視線が、鋭くなる。どうやら、男性の訝しげな視線の原因は、A組のくせして、なぜB組の教室の前にいるのか。という疑問からのようだ。なぜ私がA組だということを知っているのかという疑問は、制服を見ればすぐにわかるが、それは後にしよう。

「自分の教室を探していたら怒声が聞こえたもので。それが気になりまして、それが聞こえてきたB組の教室を覗いていた次第です」

「怒声?」男性の表情が強張った。「それならさっきから聞こえている。……初日から問題を起こすなどとは、めんどうなことをしてくれたものだ」

 男性が小さく、言葉の最後に、そう呟いた。思わずつぶやいてしまうのも仕方ないことだろうと、私は頭の隅で思った。

「高校生といっても、大人ではないのですから、仕方のないことかと。かといって子ども扱いするのも(はばか)れますが」

「それはそうだが……。まぁいい。お前は教室に戻れ」そういって男性は、私が歩いてきた方向とは違う方向を指さした。「A組は向こう側だ」

「ありがとうございます」小さく頭を下げて、お礼をいう。「では、また」

 男性が教えてくれた方へと、足を向ける。私が歩いていた方向は間違っていなかったと、心の中で小さく喜んだ。

「時間に遅れるなよ」そういって、男性はB組の教室へと入っていった。

 それから十秒ぐらいたったあと、先ほどの男性の怒声が聞こえてきたのは、ご愛嬌なのかもしれない。

 

 

 ◆

 

 

 男性にいわれた通りの方向に歩いて、一、二分ぐらい経っただろうか。私は無事、08:30前に、自身の教室へと辿りついていた。あの金髪の男性教員に感謝しなければと、教室のドアを開ける。

 教室の中には、予想通り、色鮮やかな髪を持った人間が三十人近くいた。やはり眼が痛くなる。極彩色は、私には合わないのだろう。思わず目頭を押さえてしまう。

 黒板まで歩き、そこに張り付けられた席順の表を確認する。私の席は廊下側で、前から四番目のようだ。横の列が八列ということから、私の席はちょうど真ん中あたりということになる。なかなかいいところに配置されたと、心の中でひそかに喜ぶ。目立つこともなければ、影が薄くなってしまうような場所でもない。しばらくはのんびりとできそうだと、自分の席に荷物を置きながら、そう思った。

 教室の中を見渡してみると、中学校からの仲間なのか、グループに固まって話しをしている人間が多かった。見知った顔が近くにいると、そちらへと足が向いてしまうのだろう。話す相手がいないというのはつらくはないが、どことなく教室内に居づらい。疎外感といえばいいのか、私がここにいては悪い気がしてくる。

 教室内を観察するのを止めて、荷物を机の横に掛ける。こんな状況なら、本の一冊や二冊持って来ればよかったと、机に座って頬杖を突く。

 適当に他愛のないことを考えながら、教室に取り付けられている時計を見ていた。時計は08:29を指している。

 もうすぐ時間だということに気が付いた生徒たちが、(あわ)ただしく自分の席へと戻っていった。もう少し余裕を持って移動すればいいのにと思わなくもない。

 時計が08:30を指すと同時に、スピーカーから鐘の音が鳴り響いた。それから十秒も()ずに、私の組の担任である教員が、教室に入ってきた。

 教員が教卓の前へと立つと、教員の適当なあいさつが始まった。どこにでもいそうなテノールの声が教室に響く。

 教員の名前は、エズメ・マクベインだそうだ。中肉中背(ちゅうにくちゅうぜい)で、紫の髪をしたメガネの男性だ。自分の担任となる人物の把握ぐらいしなければと、自己紹介のあとに入ったこの後の予定と、それに関する注意事項等の話しを半分ほど聞き流しながら、エズメ先生を観察する。

 組の人間の自己紹介は入学式が終わってからにすると、なぜか満面の笑みでいう。あれはさっきまでの作り笑いではないと、感覚でわかった。しかしいきなりなぜここで満面の笑みを浮かべるのかと、一人疑問に思う。

「では」とエズメ先生は話しに一区切りをうった。「入学式への準備をしてください」

 その言葉を合図に、慌ただしく教室の中が動き出した。それに合わせて、私も動き出す。荷物を自身に割り当てられたロッカーの中へと放り込み、廊下へと向かう。

 ほかの組も入学式の準備をしているせいか、廊下には慌ただしい雰囲気が(ただよ)っていた。

02/12 誤字修正

02/24 全体修正

2014 01/11 全体修正

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