第5話:試合?いや死合いじゃね?
そして俺は現在訓練場で、レオンと相対している。
レオンの右手には白銀に輝く剣、聖剣“カリバーン”が握られている。レオンが有名になった理由の一つに、この聖剣が大きく関わっている。
聖剣“カリバーン”の能力は、魔力を吸い取り、剣をパワーアップさせるというもの。一見すると、ミルカの魔剣“ダーインスレイブ”と同じ系統の能力に思われるが、実際はレベルが違う。
“ダーインスレイブ”は生命力を吸い取る。しかも対象を殺さなくてはならず、殺せなければ剣は強くならない。つまり“ダーインスレイブ”は所有者の力量がかなりの割合で必要となる。
しかし聖剣“カリバーン”は違う。
聖剣“カリバーン”の能力は魔力を吸収し剣そのものが進化するというもの。そしてご都合主義とでも言おうか、この世界には空気中に魔力が漂っているらしい。
らしい、というのは俺は魔力を感じ取れないので文献で見ただけだが、それでも正しいことには変わりない。
ということは、“カリバーン”は、そこに存在しているだけで際限なく進化し続ける剣という事になる。
まさにチートの塊みたいな剣だな。
しかもその剣の能力は、所有者にまで恩恵をもたらす。剣が進化すればするほど、その所有者も進化し続けるのだ。
公認チートと呼ぶのもおこがましいクソッたれな能力を秘める剣。
それが聖剣“カリバーン”だ。
当然ながら、俺が持っているミスリルの剣では到底対抗出来ない。プリンみたいに切り裂かれるのがオチだ。
ミルカにやったみたいに剣の軌道を逸らす。・・・・・・つまり攻撃を“いなす”という技術を使えば、大丈夫かもしれないが、あの剣は“ダーインスレイブ”とは格が違う。
まあ、“ダーインスレイブ”も俺みたいな奴が持てば、“カリバーン”に匹敵する最強の剣になれただろうに。
あんな雑魚が主になったのが不幸だな。
・・・っと、そんな事は今はどうでもいい。それよりも武器をどうするか、だが、俺には転生特典で貰った武器がある。
だが俺はそれを使いたくない。
別に力を出し惜しみしたい、とかいう中二病みたいな考えではない。純粋にあの剣を出すと厄介事が確実に起こるからだ。
アレを出すのは、確実に敵を殺すと決めた時だけ。しかも周りに誰もいない時限定だな。
だから俺は、リリィの隣に無表情で立っているミルカの方を見る。そしてミルカを全力で睨む。
「―――ひっ!」
俺の半ば本気の殺気に、ミルカの顔面は蒼白だ。
そんなミルカに俺は目で語りかける。
『お前の魔剣を寄こせ。さもなくば犯した後に殺す』と。
それを本能で察知したミルカは、すぐさま魔剣“ダーインスレイブ”を取り出し、俺に向かって投げてきた。
それをパシッと直接掴む。
「おいウンコ魔剣。今から俺がお前の主だ。だから俺に従え」
全ての魔剣には必ず意志が存在している。所有者に語り掛ける魔剣もいれば、一貫して何も喋らない、又は喋れない魔剣も存在する。
しかし“ダーインスレイブ”は喋れる魔剣だ。といっても脳に直接語りかける感じだが。そして、機械音声のような声が俺の頭に響く。
【貴方を新たなる所有者と認識しました。それにより、力を一度初期化します】
・・・やはりあの雑魚メイドが殺した魔物分の力はリセットされるのか。恐らくこれはこの魔剣を作った奴が施した安全装置みたいなものなんだろう。
仮に蓄えた力がリセットされないと新たなる所有者が狂ってしまう可能性があるからな。
だが今回はそれは有難迷惑というやつだ。
初期化された“ダーインスレイブ”では“カリバーン”と斬り合うのはキツイ。最悪一太刀目で切り裂かれる。
だから俺は俺の中にある転生特典で貰った武器と“ダーインスレイブ”を融合させる。
そんな簡単に融合出来て良いのかよ。という意見も多数あるかもしれないが、俺が持っている武器は転生特典の塊である。
都合の良さだけがこの武器の売りなのだ。
融合は俺意外の第三者からは一切見る事は出来ない。というか傍から見れば俺がただボーっと突っ立ているだけに見える。
唯一の変化は、持っていた“ダーインスレイブ”が消えた事だけだ。それには何人かの貴族達や守護騎士が気付き、驚いたが、武器を見えにくくする魔法などはあるので、そんなに驚かれなかった。
ただ一人リリィだけは超驚いているが。
融合は一瞬で終わった。
だから俺はその融合し終わった剣を顕現させた。現れたのは全てが赤黒い色をした一本の細身の長剣。
一切の派手な装飾は無く、完全に戦闘を目的をしたシンプルなフォルムは非常に俺好みだ。
この剣は、初期からとんでもない切れ味と強度誇り、それに“ダーインスレイブ”の進化能力を組み込んだのだ。
これならあのウンコイケメンともまともにやりあえる。
・・・まあ、最初からガチの本気で戦えば、斬り合う事無く終われる自信があるが、流石に王国最強と言われる奴を瞬殺するのはマズイ。
適当に接戦を演じて最後に勝てば良い。
普通なら負けたい所だが、負ければ性犯罪者として一億メルで国際指名手配なので、それだけは回避しなければならない。
「待たせたな。準備完了だ」
俺はレオンにそう告げる。
すると、今まで瞑想でもしていたのか、静かに眼をつぶっていたレオンが、静かに、ゆっくりとその眼を開けた。
・・・カッコつけんな。
「そうか。始める前に一言いいかな?」
レオンが爽やかな笑顔を俺に向ける。
「なんだ?」
俺がそう言うと、突然、レオンの穏やかな眼が、鋭くなり、俺を睨みつける。全身からも殺気が大量に滲み出る。
普通ならこれだけで戦意喪失するが、生憎と俺は普通ではない。この程度の殺気にビビる筈がないのだ。
俺が一切殺気にビビっていないのを見たレオンが驚いた様な顔をする。
「なるほど。実力は本物・・・の、ようだな」
「そりゃどうも」
全然嬉しくないが。
「でも僕は君を認めない。あの態度、守護騎士になるに相応しいとは思えない。だから僕は今日、この場で君のその不遜な態度を叩きつぶす・・・!」
そう言って、レオンは俺に剣の切っ先を向ける。
イケメンが、キメ顔で言っているので、かなり絵になるが、正直に言ってそれは余計なお世話だ。
俺は現在十七歳。レオン・・・いや、ウザいのでウンコイケメンと呼ぼう。そのウンコイケメンは二十歳。
僅か三歳しか離れていない奴に、一々説教などされたくはない。
それに騎士などとカッコつけてはいるが、所詮はただの人殺し。そんな奴が礼儀を説くなど片腹痛い。
俺はそんなレオンの言葉を無視して、全身から殺気を発する。レオンが発した殺気の数倍の濃度を誇る殺気だ。
「なッ――――!!??」
レオンの顔が驚愕に染まる。
その奥にいる守護騎士二人の顔も、一様に驚きにそまる。兄であるジャックなんて一番驚いている。
落ちこぼれのクズだと思っていた弟が、異常な程の殺気を発しているのだ。驚かないはずがない。
「どうしたレオン=パラドルチェ=ヴォルフ。怖気づいたか?」
この国の騎士は優秀だが、騎士の誇りやら騎士道やらと、クソにもならないモノをドヤ顔で掲げている。
そんなバカな騎士だからこそ、この程度の安い挑発にも――――。
「貴様!僕の騎士道をバカにするかッ!!」
――――こういう風にすぐに激昂する。
怒るということは、冷静ではなくなるという事。そんな奴を殺すのは存外簡単だ。まあ、今は試合だから殺すわけにはいかないが。
ちなみにこの試合には審判はいない。
レオンが俺を教育する為に、あえて用意しなかったみたいだ。
しかしこのままでは試合はいつまで経っても始まらない。だからさっさと始めさせて貰おう。
「来いよレオン。早くな」
「・・・では、行くぞッッ!!」
レオンがそう言った瞬間、その場から一気に俺に向かって突っ込んできた。聖剣の能力と、身体強化魔法により、尋常ならざる速度で俺に迫る。
そして上段から俺の頭目掛けて聖剣を思いっきり振り下ろした。
普通の騎士では目視不能な超音速の攻撃。
王国最強に相応しい最高の斬撃。
だが甘い。
俺はその斬撃を正面からいとも簡単に受け止めた。
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ウィークが斬撃を受け止めたと同時に、周りの床が一気に爆ぜる。まるでウィークに与える筈だった攻撃が全て床が受け止めたと言わんばかりに。
そして、自身の最高の攻撃を受け止められたレオンは、信じられない表情をしたが、今は試合中だ。あの威力の攻撃が効かないのであれば、更に上の攻撃を繰り出すだけだ。
レオンは一度距離を取り、聖剣に魔力を集中させていく。
「喰らえ!!“スカイ・エア”!!」
激しい暴風の奔流迸り、ウィーク目掛けて飛んでいく。
前方位殲滅魔法であるこの魔法は、当たった対象をズタズタに切り裂く。
完全に試合の領域を逸脱した攻撃を前にして、ウィークには一切の気負いがない。ウィークは、ただ黙って迫りくる攻撃を見据える。
そして、“スカイ・エア”がウィークに当たりそうになった瞬間、ウィークは自身の剣を横に振り抜いた。
瞬間、レオンが膨大な魔力を注ぎ込んで放った魔法が跡形もなく吹き飛んだ。
「――――――ッッッ!!????」
余りにも信じられない光景に、レオンの眼を大きく見開く。
(ありえないッ!!いくらあの男が強いと言っても、僕の“スカイ・エア”はSランクのモンスターですら場合によっては一撃で葬り去れるだけの威力を誇ってる!それを剣と一振りしただけで吹き飛ばすなんてッッ!!?)
そんなレオンとは対照的に、ウィークは涼しげな顔で一言、
「こんなもんか?」
と言った。
それにレオンは完全に本気になる。
「舐めるなぁぁぁああああぁあ!!!」
レオンは一瞬でウィークの頭上に移動する。
そして、聖剣に膨大な光が集まる。
眩いその光は、全てを溶かす高温の熱の塊。その力を以って今、レオンは聖剣を振り下ろす―――!!
「“インペリアル・ブレイク”!!!」
超高熱の巨大な剣が、そのままウィークに振り下ろされ、呑み込む。
この攻撃は流石に受けきれない。
レオンは確信していた。
怒り任せて、既に試合という概念すら忘れているが、今のレオンにはそんな事はどうでもいいのだ。目の前にいる男を殺す。ただそれだけ。
超高熱の剣は、完全にウィークを呑み込み、そして爆発した。
熱によって生じた上昇気流が辺りに吹き荒れ、塵芥を撒き散らす。
外見や服装に気を使う貴族達は、その暴風によって服が汚れる事を気にするが、如何せん風が強過ぎて、満足に眼を開けられない。
そんな中、茫然とリリィは立ち竦んでいた。
「・・・ウィー・・・・ク?」
しかしそんな小さな声は、この暴風の中では聞こえる筈がない。
それを理解していながら、リリィは言わざるには負えない。
しかし、先程みた巨大な熱の剣を生み出すあの魔法は、レオンが誇る最強の魔法。しかも個人で発動できる魔法の限界である戦術魔法の最高位に属するのだ。
最初に使った“スカイ・エア”も戦術魔法だが、威力はそれの比ではない。
アレを喰らえばどんな生物でも息絶える。
そもそも戦術魔法とはそういうものなのだ。
故にこの訓練場にいる全ての人間が思った。王も、王妃も、リリィを含めた四人の王女達も、それに付き従う守護騎士も、そしてその他の貴族やメイド(ミルカ)も。
ウィーク=ツァーリは死んだと。
そう思った。
―――――――次の瞬間。
吹き荒れる暴風がいきなり吹き飛んだ。
待っていた塵芥も、そして何より、ウィークが死んだという思いごと、まとめて吹き飛んだ。
吹き飛ばした張本人は、余裕の表情を浮かべ、驚愕でその表情を満たしている男・・・聖騎士に言い放った。
「次は――――俺の番だな」
レオンがあまりにもバカになってしまっていますが、若さ故だと思って下さい。