第3話:就活弱者に権利は無い
俺は今、城内にある訓練場に来ている。
そして目の前には超絶イケメンの一人の騎士が立っていた。手には白銀に輝くカッチョイイ剣が握られている。
片や反対にいる俺は、黒を基調とした服装に、片手には普通の剣が。一応素材はミスリルと呼ばれる希少なものらしいが、どう考えても性能的には劣っている。
なんで俺がいかにも主人公ですって感じの奴と、戦おうとしているのかというと、それは日時を昨日に戻さなくてはならない。
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「―――――私の守護騎士よ」
リリィの言葉に、俺が一瞬だけ茫然としていると、メイドさん・・・確か名前はミルカ・・・が一切変わらない表情で、
「冗談はお止め下さいリリィ様。このような者に守護騎士などという重役が務まるわけがございません」
と、辛辣な言葉を吐きやがった。
確かに俺だって守護騎士なんて面倒なことはやりたくない。けどもうちょっと言い方があるだろう。言い方が。
「そんな事はないわ。守護騎士に必要なのは実力と主に対する忠義だけ。この男はその点全く問題ないわ」
いや大有りだ。
お前に忠義なんて一ミリの抱いていないよ?俺。
「そのような見た目からして身分の低い者に、リリィ様への忠義があるとは思えません。それに騎士にもなれないのに実力など有る筈がないでしょう」
ごもっともだ。
リリィも、ミルカが言っている事が正しいと思ったのか、言葉を詰まらせる。つか普通に考えて俺みたいな奴を守護騎士とかぶっちゃけ無理だろ。
だって俺魔法使えないし。
しかし、リリィはミルカの論理的な反論には屈しなかった。彼女は王族だ。つまりこの国では王、王妃の次に権力を持っている存在。
故に彼女はこう言った。
「私が決めた事に逆らわないで。解雇するわよ?」
「お前何言ってんの!!??」
普段からテンション低めの俺でも、今の言葉には思わずツッコまずにはいられない。恐らくあのメイドはリリィに絶対的な忠誠を誓っている。
主から、「リリィ」という名前で呼んでも良いと言われるくらいには認められている。
そんな忠誠を誓う主が、今日出会った男と自分を天秤にかけて男の方を取ったのだ。メイドのショックは計り知れないだろう。
現にメイドに目を向けると、信じられないという顔でリリィの方を見ている。
まあ、こういうのは冗談だったというのがテンプレだが、恐らくこの女は本気で言っている。
何かそんな気がするのだ。
と、メイドは、俺の方に、今までとは比較にならない程の憎悪の視線を向けてきた。
チートな俺は全く怖くないが、周りでは気絶する奴らもちらほら出てきている。なんつーメイドだ。
「貴様がリリィ様を誑かしたのですか・・・・ッッ!!!」
俺は全然そんなつもりはない。
しかし俺もこの時、思わず悪ノリしてしまった。・・・俺は悪人ではないつもりだ。しかし善人でもない。
それに家から追い出されたせいで、少々性格が捻くれている。
だから、悪ノリしてしまったのは仕方がない事だと言える。
「俺が誑かしたとしても、その程度で捨てられる時点でリリィはお前の事をそこまで大切には思っていないって事だろ」
「な・・・ッッ!!そ、そんな事はありません!!ワタクシとリリィ様には強固な絆があります!!」
そう言いながら、メイドはリリィを見る。
その視線をリリィはウザッたげに見る。
今気付いたけどこいつ色々と最低だな。
「ミルカ。私は貴女のそういう暑苦しい所は嫌いよ。私が貴女に求めているのは“従順さ”、ただそれだけ。だから私の決定に逆らう貴女は――――いらないわ」
リリィはまさに部下を物扱いしかしていないような発言を平気な顔して言い放ちやがった。
スゲーなこの女。自分にここまでの忠誠を示す奴をこうも躊躇なく蹴り落とせるとは。と、俺が感心していると、リリィは「でも」と言い、言葉を紡いだ。
「貴女にも良くして貰った恩があるわ。だから私はある提案をするわ」
「・・・・・提案ですか?」
おいメイドさんの眼が完全に死んでいるんだが。どうすんだアレ、いつかお前殺されるぞ。いや、リリィが殺されるならまだいい。だが俺が標的にされたらたまったもんじゃない。
「そう。今日、これから城の屋上でウィークと貴女で試合をしなさい。貴女が勝てばウィークを守護騎士にする話しは無くしましょう。でもウィークが勝ったら私の守護騎士にするわ。これでどうかしら?」
いや良くねえよ。
それ俺に一切の益がねえじゃねえか。とか思ってたら、リリィが俺の耳元で、
「もし負けたら私に暴行(性的な)を働いた罪で国際指名手配するから。賞金は一億メルで」
と、とんでもない脅しをかけてきやがった!!
こいつマジで頭おかしいだろ。なんだよ一億メルって。一生遊んで暮らせる額じゃねえか。
「わかりました。ワタクシが必ずこの男を殺して見せます」
そうメイドは言い放つ。
いや試合だから。死合いじゃねえから。
でもこのメイドの目を見る限り本気で俺を殺しにくるだろう。リリィもそれを分かっているのか、楽しげに笑っている。
・・・はあ、勘弁してくれ。
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そして、俺は城の屋上に来ていた。
服装は一切変わらず、手にはリリィが適当に渡してきたミスリルと剣を持っている。適当でミスリルの剣渡すなよ。
これ冒険者や傭兵ならBランク以上じゃなきゃ取得できないんだぞ?
そして目の前には戦闘服に着替えたメイドさんが。
ちなみにメイドさんの容姿だが、緑色の髪を後ろで束ねお団子を作っている。顔は・・・まあ普通に美人だな。
戦闘服を着て、色気がムンムンしてるし。
だがこのメイド、基本的に頭がおかしいと分かったので、別に興奮はしない。メンヘラに関わると碌な事にならないと良く言うからな。
「降参するなら今の内ですよ。ワタクシはこれでも元Sランクの冒険者ですから」
マジかよ。どうりであんな殺気を放てると思ったら。
というか俺だって降参するならしてえよ。けどそんな事したら俺は一億メルの賞金首になっちまうんだよ。
だから俺はメイドの言葉を無視した。
それを否と受け取ったメイドは、腰から一本の細見の剣を取り出した。しかもその剣の剣身が赤く輝いている。
・・・・・・魔剣か。
魔剣。それは古代の技術で製造された特殊な能力を内包した武器の総称。他にも魔刀、魔弓、魔槌、など種類は様々である。
「これは魔剣“ダーインスレイブ”です。この剣の能力は、殺した生命体のエネルギーを吸収し、己のものとするというもの。そしてワタクシはこの剣で何百、何千というモンスターを切ってきました」
だからその剣は最強だってか?笑わせんな。
「だからなんだ?その剣が最強でもそれを扱うお前は最強じゃねえだろ」
その言葉に、馬鹿にされたと思ったのか、ミルカは見るからに怒りを顔に滲ませる。沸点低くね?
「・・・もう許しません。ワタクシは貴方を殺します・・・!!」
そう言った直後、ミルカはいきなり駆け出し、剣を振り下ろした。
常人なら完全に反応不能な速度。
しかし俺はそれを完全に捉えている。
とは言っても武器の性能差があり過ぎる為、普通に受け止めても剣ごと真っ二つにされる。
なら――――。
俺は、自身の剣で、向かってくる剣の側面に剣を当て、軌道を逸らす。
「え?」
ミルカはマヌケな声を出す。それもそうだろう。俺はある程度の速さで動いた。
ミルカはそれを視認出来なかった。つまりミルカには、気付いたら剣の軌道が逸らされてた、という風に感じられただろう。
そして、その驚愕によって生まれた致命的な隙を、俺は逃さない。
「終わりだ」
俺はミルカの顔面に拳を叩き込む。
俺は別に女だからといって殴らないなんて紳士ぶるつもりは一切ない。これが仮にただの試合なら俺は適当にあしらった。
しかし相手は俺の命を狙ってきている。ならば俺が容赦する必要は一切ない。
殴られ、数メートル程吹き飛び、地面を2、3度バウンドしたミルカは、そのままぐったりとして動かなくなった。
顔を殴られた時に脳震盪をおこして気絶したのだろう。
まさか一撃で勝負が決まると思わなかった俺は、Sランクのレベルの低さに呆れると共に、これでリリィの守護騎士になるのかと思うと、今すぐ泣きそうになってしまう。
「さすがねウィーク。ミルカを瞬殺なんて普通の騎士なら不可能よ?」
嬉しそうに、そして誇らしげに、リリィは俺の下に歩いてきた。つかくっつぎ過ぎだ。王女ならもっと慎ましさを持て。
「なあ、あのメイドはいいのか?かなりお前に忠誠を誓っているようだが」
「いいのよ。私もミルカの事は信頼してるけど、好きではないもの」
「改めて思うがお前中々にヒドイ女だな」
「あら、今思ったのかしら?そらなら貴方は手遅れよ。今から貴方は私のモノなんだから」
そう艶やかで色っぽい笑みを浮かべながら、リリィはミルカの横に立ち、右手をかざした。
すると、リリィの右手が輝き、ミルカの殴られた頬がみるみるうちに治っていく。
これが王家の女のみに発現すると言われている固有能力か。
「どう?驚いた?これが私の固有能力、“救済”よ。あらゆるケガ、病気、更には魔術的な呪いまで、あらゆるものを治癒できる能力。凄いでしょ?」
「あ、ああ。確かにそれは凄いな」
思いっきりチートじゃねえか。
「まあ、私にしてみれば貴方の方が凄いけどね」
「まあ俺は化け物だからな」
「でも第三王女の守護騎士だけどね」
・・・・・・・・・・・・・・・はあ。
まさか俺が守護騎士になるとはな。
この時の俺は、厄介事を抱え込んだと憂鬱になっていたが、これから先、俺の想像を超える面倒な事が起こる事になろうとは、流石の俺も理解していなかったのだ。
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