第2話:予想外の言葉
少女を解放した俺は、とりあえず気絶したクソデブを少女を拘束していた寝台に逆に拘束し、その上に、ボッコボコにしたシャドウ(笑)を載せて、屋敷から出た。
途中使用人が驚いたように見てきたので、ある程度の殺意をぶつけたら、失禁して気絶した。
その結果、非常に簡単に屋敷を出る事に成功した俺は、少女を連れて、現在適当なカフェのオープンテラスで紅茶を飲んでいる。
眼の前には僅かに頬を赤らめた少女。
そして俺は静かに紅茶を飲みながら待っている。
少女が俺に謝礼を渡す時を。
「ねえ・・・」
と、思っていたら、少女が口を開いた。どうやら俺に金を渡す気になったようだな。
「なんだ?」
しかしここは余り自身の気持ちを先行させるのは素人のやる事だ。ここは一歩引いた感じが丁度いい。
「あんた、名前なんて言うの?」
名前?
というか貴族のお嬢様が「あんた」とか言うなよ。まあ、貴族の生活は色々と息苦しいんだろうから多少こうなるのも可笑しくは無い。
昔やったエロゲのお嬢様ヒロイン達の中にもこういう、表と裏で言葉使いを使い分ける奴は沢山いるからな。
そう考えるとやはり日本のそういう文化は凄いな。
「俺の名前はフランシスコ=ザビエルだ」
本名を名乗るのは何か嫌だったので、適当に俺が知っている名前を偽名として使う事にした。
「フランシスコ=ザビエル?変わった名前ね」
「そうだろ?俺も良く他人からそう言われる。でも俺自身は結構気に入ってるんだよね」
小学校の頃、顎に2つ点を打って、ひっくり返して、「ペンギンだー!」とか言って遊んだ記憶がある。
ザビエル本人が効いたらブチ切れそうな話だな。
「そうなの。まあ、貴方が気に入っているのならよかったわって騙されるかッッ!!」
少女はいきなりキレたかと思うと、俺の頭を思いっきり叩きやがった。チートのせいで一ミリも痛くないが。
「何しやがる」
俺が非難の声を上げるが、少女は興奮しているのか、聞いて言える様子はない。どうやら沸点はかなり低いようだ。
こういうタイプは結構苦手だったりするのだが。
「何しやがるじゃないわよ!何普通に偽名使ってんのよ!普通こういう時は本名なのるでしょ!?」
「ふふふ、馬鹿だなお前。常識に囚われていては人類に進歩はないぞ?」
「今はそんな話ししてるんじゃないから!というかいいからあんたの本名教えなさいっ!!」
っち、うるさい女だ。
こいつ絶対処女だよ。こいつの存在全てから膜張り臭がしやがるもん。
「ぶっ殺すわよ?」
「・・・スイマセン」
どうやら俺の考えが分かるという恐ろしい力をもってやがる。
まあ、ここでこれ以上論議しても平行線だ。なら適当にあしらってさっさと消えるか。もし本当に貴族なら名前を教えれば後日俺に金を持ってくる筈だ。
貴族は己の誇りや気品といったモノを何よりも重視する生き物だ。
ならば口止めの意味合いも込めて俺に金は渡すはず。
それを即座に考えた俺は、目の前の少女に名前を教える事にした。
「俺は名前はウィーク=ツァーリ。ツァーリ家の次男だ。ま、ほぼ勘当同然の扱いを受けているがな」
と、ある程度の情報も開示した。
「ウィークね・・・。じゃあ私の名前も教えるわ。私はリリィ=フラル=メルド。メルド王国第三王女よ」
「・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・マジかよ」
コレは驚きというより、最大限に厄介な女を助けてしまったという意味での「マジかよ」だ。
まさかよりにもよって王女とは。
いくらそこら辺に興味が無い俺でも、国のトップクラスの人間の名前ぐらいは知っている。
それに王女はかなり有名だ。
この国の王女には、代々不思議な事が起こる。王女に、何か一つ、特殊能力が宿るのだ。それは魔法では到底真似できない奇跡の業。
それをこの国では固有能力と呼んでいる。
「で?何で王女のお前があんな路地裏をブラブラしてたんだ?」
「あんたね、王族の前なんだから少しは礼儀というのをしたらどうなの?あんたも一応貴族でしょ?」
「俺に礼儀を求めるな。魔法が使えないって理由で家を追い出されたんだ。多少性格が捻くれても仕方ないだろう」
俺がそう言うと、リリィは驚愕に顔を染める。
「あんた魔法使えないの!?」
「ああ。というか俺には魔力というもの自体存在しない」
信じられないといった風に俺を見つめるリリィ。そりゃそうか。この世界に生きる人間なら必ず魔力を持っている。
過去の文献などを見てみても、魔力を持たなかった人がいた。なんて事は書かれてないし、それを示唆する記述も見当たらない。
つまり魔力はそれだけ当たり前に保有して然るべき存在だ。
それを持ってないと言われても、誰も信じないだろう。
「じゃああの傭兵、あんたどうやって倒したのよ。それもあんな一方的に」
・・・それも至極当然の疑問だな。
・・・・・・仕方ない。ここは適当に説明するか。
「俺さ、昔・・・五歳くらいの時に、誰かに誘拐されて、禁術の実験台にされたんだ。その禁術が、魔力を全て身体能力に変換するっていう魔術だったんだ。それで俺は魔力を失った。化け物染みた身体能力と共にな」
完全なる嘘だったが、一応真実っぽく言ったし、化け物染みた身体能力は本当の事だ。実際は化け物染みたというよりも正真正銘の化物だが。
俺の説明を聞いたリリィは、神妙な顔つきになって、何とも言えない顔をした。
まあ、こいつは王族だからな。自国の民がこんな目になっている事を悔やんでいるんだろう。
俺が旅をしていた国でたまたま知り合った王族もこんな考え方をしていた。
「とまあ、俺の事は以上だな。で?なんでお前はあんな路地裏をブラブラ歩いてたんだ?」
今度は逆に俺が質問した。
するとリリィは頬を引き攣らせ、苦笑いを浮かべ、目がかなり泳ぎだした。
それを見た俺は瞬時に理由を理解した。
「お前、単に興味があったから。って理由じゃないだろうな?」
ギクゥ!!
という音が聞こえてきそうなほど、身体を強張らせたリリィ。
・・・こいつ、本当に王女という自覚はあるのか?
「・・・はあ、確かに何事にも興味を持つのは悪くは無い。でも護衛も付けずに危険がある場所に来るのはバカのやる事だ」
リリィも流石に自分の考えが浅はかだったと気付いたのか、顔を俯かせている。
「仕方ないじゃない。城で護衛を頼むと路地裏なんて絶対に行かせてくれないし。それに城の護衛ってウザいの。私の顔色ばかり伺って」
呟くような言葉だったが、チートな俺にははっきりと聞こえた。
「それなら守護騎士を持てばいいだろう」
守護騎士とは、王族一人一人に付く、直属の騎士の事で、この役職は、この国に存在する全ての騎士にとって憧れの職業だ。
ちなみに貴族に付く直属の騎士は護衛騎士と言う。ま、これはどうでもいいか。
「嫌よ。なんで知りもしない他人を四六時侍らせなきゃいけないのよ」
俺の提案をにべもなく却下するリリィ。
というかこいつ我がまま過ぎだろ。王族なんてこんなもんだと言われれば納得はするが、やはり面倒くさいという感情が先に立つ。
これ以上この話題は避けたかったので、俺は別の話題を提示する事にした。
「ちなみに裏路地は見て回れたのか?」
「・・・・いえ。全然ダメだったわ。あのクソ豚のせいでね」
あの時の事を思い出しているのか、リリィは身体をブルブルと震わせる。・・・どうやら相当に気持ち悪かったみたいだな。
ま、あんな凌辱ゲーみたいな事されたら誰だってトラウマにはなるか。
・・・・・・はあ、仕方ない。
「なあリリィ」
「リリィ様って呼びなさい」
「なあリリィ」
「だからリリ――――」
「いいから聞け殺すぞ」
「・・・・あんた。・・・まあいいわ。で?なによ?」
「俺が裏路地案内してやろうか?報酬は今日の晩飯を奢るって事で」
「わかったわ」
早いな。
どうやらこいつ相当裏路地の事が気にかかるみたいだ。
「じゃあ契約成立だな。心配しなくてもお前には指一本触れさせない」
一応安心させる為にこう言っておく。まあ指一本触れさせないというのは本当だ。俺の気配察知を潜り抜けれる奴はこの世界に存在しないし、仮に魔法で何かしらの事をしようとしても、俺なら攻撃を喰らう前に対処出来る。
「―――っ。わ、わかったわ。よろしくお願いするわ」
あ?なに顔赤くしてんだこいつ。まあ、別にどうでもいいが。
こうして、俺は、お転婆王女を連れて、路地裏見学を始めたのであった。
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「凄いわ!路地裏ってあんなに楽しい所だったのね!!」
リリィは興奮したように紅茶を飲む。
路地裏見学を終えて、俺とリリィは一度来たカフェのオープンテラスで休憩していた。
陽は既に涼み、辺りには仕事が終わった男達が、酒を飲んだり、冒険者だろう者達が、自分のパーティーの仲間達とワイワイ騒いでいる。
その中に豪奢な(リリィの中では外出着)ドレスを着ているリリィは目立ち、先程まで何人かの柄の悪い男達が絡んできたが、俺が全て一撃の元に粉砕していったせいか、今は誰も寄り付かない。
路地裏見学は相当楽しかったらしく、リリィは興奮冷めやらぬ感じだ。
「楽しそうで俺も何よりだ。報酬分の働きは出来たってところか。それでリリィ、何が一番楽しかった?」
この短時間で、俺とリリィはかなり仲良くなり、お互いを名前で呼び合うようになった。何故か着々と好感度を上げ、フラグを建てている気がするが、まあ別に気にしない。
片や王女で、俺は魔法も使えないカスだ。なにも懸念することはない。
「そうね。私としては地下のドッグファイトかしら?アレは相当面白かったわね」
「アレか・・・」
地下のドッグファイトとは、要は人間同士を闘わせ、どちらが勝つか金をかけるというものだ。
それを見せたらこの女いきなり俺に出ろとか言いだしやがった。当然俺は却下した。そうしたらこいつ、「一週間分の食費でどう?」とか言いだしやがった。
だから俺は言ってやった。「全力で戦わせて頂きます」と。
人は金には勝てない。俺は清廉潔白な主人公ではないのでな。
それで俺はそのドッグファイトで勝ちまくった。最終的に俺VS三十人とかになっていたが、全部粉砕した。
チート舐めんな。
しかし精神的には結構疲れた俺は、リリィの所に戻ると、こいつ金掛けやがってて、その賞金を俺に渡してきた。
この時は一瞬だけこいつが神様に見えた。
「それにしてもウィークって強いわね」
「まあな。魔法が使えない分それ以外を極めるしかなかったからな」
まあ全部チートパワーのおかげなんだがな。一応この力を使いこなす為に死ぬ気で鍛錬したが、才能までチートに含まれているので、そんな苦ではなかったしな。
と、昔を懐かしんでいると、リリィがいきなり、「決めたわ」と小さく呟いた。
何を?と聞こうとした瞬間、強烈な殺気が俺の背後から湧き出てきた。俺は椅子から立ち上がり、リリィを抱えてその場から離れる。もちろん常人には目視不能な速度でだが。
そして、その場から退避した瞬間、俺が座っていた所に、炎の塊が飛来し、椅子を粉々に粉砕させた。
・・・まさか魔法を使ってくるとは。別にこの程度の魔法・・・というか人間が放つ魔法程度なら喰らってもダメージは喰らわない。しかし服は大変な事になるので出来るだけ躱すようにしている。
「効かんな・・・(キリッ)」とか言ってるのに全裸だったらバカ過ぎるだろ。
そしてそんな事は今は重要ではない。今は俺に魔法を撃ってきた奴の事が重要だ。
といっても大体の予想はつく。
「今すぐリリィ様から離れて下さい」
氷の様に冷たい声が辺りに響く。
そこに込められているのは絶対零度の殺意と憎しみ。
「悪いが、メイドさんに命狙われるような事をした記憶はないんだがな」
俺に魔法を放ったのは、まさかのメイドさんだった。つかメイドが放つ殺気のレベルを超えている。
周りにいる冒険者達なんて全員顔を真っ青になっている。
「第三王女の誘拐はそれだけで死罪です。おとなしくリリィ様を解放して下さい」
どうやらこのメイド、リリィの専属メイドらしいな。大方リリィが城を抜け出したのを探しにきて俺と一緒にいる所を見たのでリリィの危機だと思って攻撃をしかけたと。
つか俺が誘拐したという証拠ないのにいきなり魔法を放つってこいつ絶対頭おかしいだろ。
俺はリリィを見る。「何とかしろ」という視線を送った。
リリィはそれに「任せろ」という感じで頷くと、一歩前に出る。
「ミルカ止めなさい。ウィークは敵ではないわ。ウィークは――――」
リリィはここで一拍置き、そして言い放った。
「――――私の守護騎士よ」
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・・・・・・・・・・・・・・・・・・・。
・・・・・・・・・・・。
「・・・・・は?」