第1話:始まりは転生
物語の始まりは、俺が転生する所から始まる。
目が覚めたら見た事もない真っ白な空間にいた。ここから既にテンプレなのだが、まあ、物事は分かりやすいのが一番だから俺は特にツッコまない。
そして、その空間でボーっとしていたら、俺は神と名乗るジジイに会った。
どうやらジジイは、俺を転生させてくれるらしい。
俺が死んだ理由は何か言っていたような気がするが、メンドイので適当に神のミスというテンプレを使わせて貰う。
そして最も重要な転生特典。所謂チートを決めるお時間になった。
ジジイが言うには選べるチートは三つらしい。そして俺はこの時の俺に心底言いたい。
転生する世界の情報はキチンと聞いておけと。
「じゃあ、俺が知っている漫画、アニメ、ゲーム、小説に出てくる全てのキャラの技や武器やたいし――――」
「却下じゃ」
「何故に!?」
「大人の事情じゃ」
その時のジジイの言葉は良く分からなかったが、ダメだというのなら仕方がない。だが、物事には抜け道というのは往々にしてあるものなのだ。
「じゃあ俺が知っているアニメ、漫画、ゲーム、小説に出てくるキャラクター達の身体能力を合わせた身体能力と、そのキャラクター達の戦闘経験をとりあえずくれ」
「・・・うむ。そ、それなら確かに可能じゃな」
要はジジイがいう大人の事情は、マンガやアニメ等に出てくる技や武器、能力がダメなだけであって、身体能力とか、戦闘経験とかなら問題ない。
まあ、マンガ等の技は一切使えないが、それでもぶっ飛んだチートには違いない。
なんせ少年漫画で、「こいつ強過ぎだろ」と思ったキャラの身体能力が俺のものになるのだ。
既に負け無し決定である。
「最後の一つはどうする?」
「じゃあ武器で。中二っぽい感じのをよろしく」
既に満足していた俺はそう答えた。
今思い返すと泣きそうになるな。俺のバカさ加減に。
「そうか。わかったのじゃ。ではさらばじゃ」
その言葉を最後に俺は転生した。
そして、その世界は剣と魔法のファンタジー世界だという事を知り、俺がいる国は魔法の実力で地位が決まる事を知り、俺には魔力が一切無い事を知って絶望した。
十二歳で実質勘当に近い事をされ、その後様々な国で色々な事をして、十七歳になった時にこのメルド王国に戻ってきた。
そして、現在に至る。
途中随分と省いたが、これが俺の物語の全貌だ。
まとめるとかなり薄っぺらい物語になっているのがお分かりになるだろう。正直俺だってここまで魔法が使えない事が社会的に不利益になるとは思わなかったのだ。
日本で言う所の中卒とほぼ同じような扱いなのだ。
そしてそんな社会の負け組である俺は、誘拐された少女を助ける為に屋根と屋根をそれなりの速度で移動していた。
本気で移動したら踏み込みをした家が粉々に砕けるので出来ないのだ。
「はあ、俺が人助けとはな・・・」
気配を完全に消しながら、俺は誘拐犯の真後ろにピタリと張り付きながら移動する。しかし一切気付かれないのは、俺のチート故だろう。
やっぱ戦闘経験はデカいよね。しかも神様のサービスか、修業の時の経験も入っているので、最初から俺は最強だった。
木刀で鉄は切断出来たし。
巨大な龍と対峙した時も、一ミリの恐怖心を抱かなかった。むしろ武者震いしたほどだ。結局その龍は一撃でぶっ殺したので、あまり語る所はないのが残念だが。
なんか「我は龍王なり・・・(ドヤ)」とか言ってた気がするが、今となってはどうでもいい。
それよりも今は少女を助ける事が先決だ。しかし唯助けただけでは意味がない。この少女・・・恐らく貴族・・・を誘拐する事を依頼した奴が必ずいる。
そいつを捕まえれば、俺は謝礼金をがっぽり頂ける。
そう考えた。
そしてそれは今の所上手くいきそうだ。
俺は薄く笑いながら、誘拐犯の後ろをぴったりと付いていくのだった。
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誘拐犯が着いた場所は、巨大な屋敷だった。
どっからどう見ても貴族の屋敷。それに、今気付いたが、この誘拐犯、認識阻害の魔法を使っているのだろう、周りの誰も気づかない。
ちなみに魔法が使えない俺の気付かれていない。
俺が本気で気配を消したら意図的に視認する事はまず不可能だ。見つけるには魔法か何かを使う必要があるが、こいつにそんな気配はない。
俺は意気揚々と誘拐犯の後ろを付いて屋敷の敷地内に入ろうとしたが、いきなり弾き飛ばされた。
「ぐおっ」
クソ。
この屋敷の人間がどんな奴か知らんが随分と厄介な事をしてくれる。俺が弾かれたのは、侵入者防止の結界魔法だろう。
魔法自体はぶっ壊す事は出来る。
しかしそれをしてしまうとこの屋敷の主に100%気付かれる。そうなれば些か面倒が増えるので俺は余りしたくない。
それにこの屋敷の主の罪を立証するには、決定的な証拠というものが必要だ。現行犯だからぶっ殺す。という訳にはいかないのだ。
俺が今取れる最善は、力づくで結界を破壊し、少女を救出。そのついでに屋敷の主をボコボコにして捕まえる。
騎士に伝えるという案もあるが、この国の騎士はぶっちゃけ使えない。何故なら騎士は基本的に規則を重視する。仮に俺の言葉が騎士連中に信じられたとしても、貴族の屋敷に押し入るにはそれ相応の手続きが必要になる。
そして、そんなものを待っている間に、少女は一生のトラウマを身体と心両方に負うだろう。
そんな事は断じて認められない。
俺はあの少女を助けると決めた。なら完璧に助けて見せる。それが俺で、俺にはそれだけの力がある。
「仕方ない。2年振りに・・・暴れるか」
そう呟き、いざ行動を起こそうとした瞬間、目の前に一台の馬車が止まった。荷台がかなり豪華な所をみると、これに乗っている奴も貴族らしいな。
すると、窓が空き、そこから一人の太った男が顔を出した。
「おい貴様。貴様はこの屋敷の奴隷か?」
いきなり俺を見て奴隷扱いするのはどうなのよ?と思ったが、コレは使えそうなので、俺は話に合わせる。
「はい貴族様。わたくしはこの屋敷の奴隷でございます」
俺が恭しく頭を下げる。
するとデブは、蔑んだ眼で俺を見たかと思うと、いきなり俺のい頭に唾を吐きかけやがった。
「おい奴隷。私は客だ。今すぐモール伯爵を呼んでくれ」
しかし俺はそれには答えない。
・・・・・・・・・・このクソデブウンコ野郎。人が下でにでたら調子に乗りやがって。
「おい!返事をしないかっ!」
「・・・せえ」
「なに?」
「うるせえって言ってんだよこのクソデブがああああ!!!」
俺は叫ぶと、一瞬で馬車の中に滑るように入り込んだ。そして、短い時間だが、ウィーク=ツァーリによる制裁タイムが始まった。
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「おい。クソデブ。理解したか?俺が如何にお前の上にいる存在かということを」
俺は、馬車の荷台の椅子にデブに向かい合うように座っている。そして目の前にはボコボコにされたデブ豚が転がっていた。
三分程殴りまくったとはいえ、流石にこんな雑魚には時間を掛け過ぎた。
「ぁ・・・・ぐふ・・・・ぉ・・ぇ」
どうやら肺やら何やらの機関もボロボロになっているようで、満足に言葉も話す事が出来ないらしい。
これでは完全に文字通りデブ豚になってしまう。
「おい豚。これからお前はこの屋敷に俺を連れた入れ。もし断ったらお前の妻と子供を拷問した後に殺す」
ある程度歳を取った貴族だ。まず間違いなく結婚しているだろう。この国では、結婚をしなければ同性愛者と思われてしまう事が多々ある。それは対外的にマズイので、貴族は基本的に必ず結婚する。
そしてこの豚も例外無く結婚しているらしく、俺の言葉を聞いて、顔を青褪めさせながらコクコクと頷いた。
そして、俺は豚の馬車に隠れながら屋敷の中に侵入した。
よし。ここまでくれば後は簡単だ。適当に気配を探れば俺なら簡単に見つけられる。俺は魔力で対象を探す事は出来ないが、生命力的な何かで対象を探す事は出来る。
だからといってマンガみたいに手から光線は出ないが。
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ここは屋敷の地下牢。
ここに一人の太った男がいた。名前はオーギュスト=ブルトー。そしてそのオーギュストの目の前には、寝台に手足を縛られたあの誘拐された少女がいた。
少女は既に目を覚ましているらしく、敵意の籠った視線を容赦なくオーギュストに向けている。
しかし睨むだけでは人は殺せない。
それをオーギュストも理解しているので、少女の眼光にビビる事はない。
「ぐふふ。リリィ王女。やっとこの日が来ましたねぇ」
気持ち悪い声を出しながら、オーギュストはリリィと呼ばれた少女の頭を愛おしそうに撫でる。愛おしそうといっても、そこにあるのは性的対象に向ける腐った愛だが。
「触るなッ!!」
リリィは頭を思いっきり振ってオーギュストの手を振り払うが、縛られ身動きが取れない今の状況では、男の手から完全に逃れる術など存在しない。
オーギュストはそのまま少女の頬を触り、そして豊かな双丘に手を伸ばす。
「ひっ!止めなさいッ!!それだけはやめてっ!!」
しかしオーギュストは「ぐひひ」と下卑た笑みを浮かべその双丘を掴もうとした瞬間――――。
「困りますよお客さん。それ以上は別料金となっておりますので」
「誰だッッ!!?」
オーギュストは、背後から聞こえた声に、伸ばしかけた手を引っ込め、そして即座に振り向いた。
この太った身体からは想像も出来ない俊敏な動作に、オーギュストの前に立つ少年―――ウィーク=ツァーリは思わず笑った。
「誰かだと?通りすがりの就活敗者だ。馬鹿にするなら馬鹿にしろ。だが俺は思う。―――働いたら負けだと」
どうでも良い事をのたまいながら、ウィークは一歩距離を詰める。
それに敏感に反応したオーギュストは、大声で、叫んだ。
「シャドウッッ!!シャドウ!!この者を早く始末しろ!!」
シン――――――・・・・・・・。
しかし誰も出てこない。
そんな中、緊張感の欠片もないような声音で、
「あ、こいつってシャドウって名前だったんだ。なんつー残念なネーミングセンスしてんだよ」
そう言いながら、一旦牢屋から出ると、一人の男を引き連れて戻ってきた。
「な――――ッッ!!???」
その引き摺られてきた男を見て、オーギュストは驚愕する。
何故なら引き摺られ、既に直視するのも憚られる状態になっている男は、オーギュストが大金を払って雇ったシャドウその人だったのだから。
バカな、ありえない。
オーギュストは、混乱の極みにいながらもそう頭の中で呟く。
「貴様、シャドウはAランクの傭兵だぞ。それをどうやって倒したッッ!?」
Aランク。それが本当なら、この男は王国の騎士たちの中でもかなり上位のレベルを誇っている事になる。
しかし、そんなこの世界の強さの基準など、ウィークの前では一切の意味を持たない。
「へえー。こいつってAランクの傭兵だったんだ。その割にはウンコみたいに弱かったけど」
ウンコみたいに弱いというのはどういった弱さなのかは分からないが、とりあえずウィークにしてみたら敵ではなかったという事だろう。
オーギュストは当然の如く、目の前の少年に恐怖する。
Aランクを瞬殺。その上に存在するSランクですらAランクをここまで下に見る事はないし、仮に下に見たとしても、瞬殺出来るような実力差はない。
つまり目の前にいる少年は、完全に規格外の存在という事になる。
「ば、化け物・・・」
オーギュストは、ウィークに向かってそう呟く。
「くく、化け物で結構だ。誰も守れない、救えない人間でいるくらいなら、救いたい、守りたいと思った奴を救える化け物の方が万倍マシだ」
そう言いながらウィークは、オーギュストの頭を軽く蹴り飛ばした。
吹き飛び壁に頭を強打し、気絶したオーギュストを見たウィークは、縛られている少女の元に行き、拘束されている手足を解放した。
「助けに来たぜ。お姫様」
ウィークを見つめる少女に、ウィークは思わずそう呟いた。
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