第11話:学院到着
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ウィークが最終的自分の言う事に対して頷いた事に満足したのか、リリィは座ったまま目を瞑り眠っている。
そんな中、ウィークは何故リリィの言う事を聞き入れたのか考えていた。
普通なら絶対に首を縦には振らなかっただろう。
この国、そしてこの国の人間はウィークにとって嫌悪の対象でしかなく、そんな者達に表面上でも敬意を払うなど到底許容できる事ではない。
だからウィークは考える。何故なのか、と。
(やっぱ、師匠と一々被るからか?)
結局思い浮かぶのはその答えだった。とは言っても、性格も顔も、喋り方も全然似ていない。しかし、ウィークには妙な懐かしさがリリィと一緒にいたら感じられるのだ。
(・・・そういえば、魔法が使えないと言った時、馬鹿にしたり、見下したような態度を取らなかったのは師匠を抜けばこいつだけだな)
と、そんな事をふと思い出した。
そして思い出したからこそ納得も出来た。
―――馬鹿にされなかったから。
自分がリリィと未だに一緒にいる理由が恐らくそれだろうと、ウィークはそう結論付ける。
何処へ行ってもバカにされ、見下されてきたウィークにとって、リリィのその態度は純粋に嬉しかった。
傍から見れば大した事がない些細な理由だ。
けれどその些細な事が、ウィークにはとても嬉しかった。
(まあ、こいつがどう思っているかは分からないが)
そう思いながら、ウィークは目の前で目をつぶる自分の主を見た。そして、今度こそ改めて思う。リリィと交わした約束くらいは守ろうと。
(ま、いざとなれば秘密裏に消せばいいだけだしな)
そう内心で呟きながらウィークは薄く笑う。
実際ウィークは、表面的態度はある程度改めるが、その中身までは改めるつもりは毛頭ない。
表だって無茶しなければそれでいい。
(ま、余程の事がない限りそんな暗殺みたいな事しないけどな)
そこまで考えると、ウィークは思考を一度止め、目の前にいる主と同じように目を瞑り、意識を沈めるのだった。
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学院に着くと、俺とリリィは先に待っていた先に着いていたミルカと合流し、そのまま寮の方に向かった。他の王女達も、それぞれ到着したらしく、既にそれぞれの寮に向かった。
「それにしても学生寮にしてはデカすぎだろ」
リリィの寮室は、公爵以上の生徒が使う部屋で、かなり広い。装飾も凝っており、いかにも金を掛けていますといった感じだ。
まさに金遣いの荒い貴族様って感じの部屋だな。しかもこの部屋、扉越しにもう一部屋あり、そこで使用人が寝泊まりするらしい。
もちろん泊まるのはミルカであって俺ではない。俺は他の貴族達の従者が寝泊まりする場所を使う事になっている。
これはリリィの提案で、王族の従者だからと特別扱いしなければ、それが周りにプラスに働くかも、っていう適当な思い付きだ。
まあ俺としても広すぎる部屋は落ち着かない。それに下手に調子に乗っていると思われてウザい奴等に喧嘩売られるのも勘弁だ。
約束した以上無駄な問題は起こしたくない。
その時、リリィがミルカに話しかけた。
「ミルカ、今の段階でウィークに関する噂は流れてる?」
リリィを言葉を聞いて、ミルカは荷物を片づけていた手を一旦止め、姿勢を正して滑舌良く自分が調べた内容を話す。
「ウィークに対しては、今の所悪意のある噂は残念ながら流れておりません」
おいコラメイド、「残念ながら」ってなんだ。デコピンするぞ。
「しかし、国王様が騎士ヴォルフと第四王女殿下の強い推薦でリリィ様の従者になったと事情を知らない貴族達に説明したので、良い方向という面においてはかなりの噂になっております。ムカつくことに」
俺はお前が一番ムカつくけどな。
「成る程。それで・・・ウィークの魔法能力に関してはどうなっているの?」
「それですが、ウィークは『身体強化魔法の達人』という事になっています。それならば多少はごまかせるだろうと」
まあ、確かにそれなら「魔法を使えない」よりかはマシだな。それでも絡んでくる奴らはいるだろうが。
いくら身体強化魔法の達人でも、違う側面からみればそれしか使えない奴、という風に見られ、馬鹿にされる事があるからな。たまにだけど。
「そう。ありがとミルカ、ご苦労様。・・・さてウィーク、今から学院長に貴方の紹介も兼ねて挨拶に行くわよ」
リリィは珍しくミルカに労いの言葉を掛けた後、俺に視線を写し、立ち上がる。・・・というかお前自然に言ったつもりなんだろうが完全に計算して言ってるだろ。
アレか?飴と鞭か?それにしたら強過ぎる鞭と、味が薄すぎる飴だと思うが。でもスゲー喜んでるミルカを見たら、これはこれで良いのか?とは思ってしまう。
俺なら絶対に嫌だが。
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そして、俺とリリィは学園長室に来ていた。
「初めまして。リリィ様の従者をさせて頂いておりますウィーク=ツァーリと申します」
俺は自分の自己紹介をして頭を下げる。
「ほっほっほ。儂はこの学院の学院長をやらせてもらっとるヴェスター=アーノロイドじゃ」
ヴェスター=アーノロイド。今は学院長なんて事をやっているが、昔は「魔神」とまで呼ばれた程の使い手。
だからこそ、普通の貴族以上に魔法至上主義の意識が強いのかと思ったら、全然そんな事はない。
達観しているというか、掴みどころがないというか。まあ、好々爺という言葉が一番似合うのではないかと思う。
「貴方がかの有名な“魔神”ですか。お会いできて光栄です」
このジジイに関しては特に敬語を使う事に嫌悪感は無いが、それでも普段から使ってこなかったせいか、妙に気持ち悪い。
そう思うと社会人として終わってるな俺。
「ほっほっほ。その名で呼ばれたのは久しぶりじゃ。じゃが、その名はちと恥ずかしくてのう。出来れば“学院長”と呼んでくれんか?」
・・・我が儘な爺さんだ。二つ名とかカッコいいだろうに。
「分かりました“学院長”」
「ほっほっほ。リリィ君、中々優秀な従者を得られたようで結構じゃ。じゃが・・・」
突然、学院長の目が細められる。
「・・・猫を被るならもうちっと真剣にやった方がよいぞ?」
「なっ・・・ッ」
リリィが驚きの声を上げる。
俺自身は大体そんな気がしていたからそこまで驚きはないが、それでも本当にバレるとは思わなかった。確かにやる気は無かったが、絶対にバレない自身はあったのだ。
表情、声音、仕草、そして醸し出す雰囲気まで、どこからどう見ても人の良さそうな青年を演じていた筈。
・・・まあ、こういうジジイは総じて手強く面倒臭いというのが相場なので考えるだけ無駄かもしれないが。
「そう驚かずともよい。別に普段と同じ喋り方をした所で儂は特に何も言わんよ」
「そうか。ならお言葉に甘えさせて貰う」
折角言ってくれたので俺は素直に従う。
「あんた、こういう時だけ素直に言う事聞くってどうなのよ?」
「良いだろうが別に。人間は都合の良い生き物なんだよ」
「あんたは都合良すぎだけどね。・・・それにしても良く分かりましたね学院長先生。私でも一瞬ウィークとは別人かと思いましたし」
リリィの言葉に、学院長は楽しそうに眼を細めた。
「ほっほ。なんの事はないわい。無駄に長く生きておると大体は分かるもんじゃ。お主らもヨボヨボの年寄りに成れば分かるわい」
ケラケラ笑う学院長。
とりあえず、あんたはヨボヨボと言うには間違いなく強過ぎるから。上手く隠しているが、チートの俺なら確かに分かる。
―――この爺さん、レオンよりも遥かに強い。正直言って戦いたくはない。
・・・二人目だな。出来れば戦いたくないと思った相手は。それでも勝つのは俺だが。チートのおかげだけど。
「ウィークと言うたか。―――お主、強いのう。恐らく全盛期の儂よりも強い」
今更だから別に驚きはしないが、それでも俺の力を正確に見抜いているらしいその発言は流石「魔神」といった所・・・なのか?
「何故お主がそんな人並み外れた力を持っているのかは知らぬ。だがのう、力を持つという事は思った以上に大変じゃぞ?」
「・・・それは忠告か?それとも説教か?」
「そのどれでもない、ただの戯言じゃ。年寄りの戯言には耳を傾けるものじゃぞ?」
その全てを悟ったような言い方が少々ウザくもあるが、一理あるので俺は沈黙をもって肯定の意を返す。
「他者が比肩しうる事のない力を持つという事は、同時に絶対的な自由を手にするということじゃ。力を持って変わらない人間など存在せぬ。その方向が善であれ悪であれ、力は人を変える。お主だってそうじゃろ。今の力が無ければ一生魔法の使えないゴミとして暮らしていくしかなかったはずじゃ」
・・・こいつ。俺に魔法がない事を知って・・・いや、分かってやがる。俺の師匠も人の魔力を感じ取れる力を持ってたからな。このジジイも同じ様な感じなんだろ。何故か他の魔導師は使えないみたいだが。
「・・・まあ、そうだろうな。このズルい力が無ければ俺はみっともなく媚びへつらうしかなかったろうな。だが―――」
「わかっておる。別にだから心を改めろなんて言うておらんし、言う気もない。その力をどのように使うかはお主の自由じゃからな。故に考えるのじゃ。その力をどう使うかのをな」
じゃあ結局何がいいたいんだよこのジジイ。力には責任が伴うみたいな事を言いたいのか?
しかし学院長は話したい事は話したと言わんばかりに、口を閉ざし、飄々とした表情で紅茶を一口含んだ。
・・・どうやら本当に言う気は無いらしいな。
「そういえば、リリィ君に少々話しがあるのじゃった。済まぬが少々席を外してくれぬか?」
今までの事など無かったようにケロッとした顔で言う。一瞬ぶん殴ってやろうかと思ったが、流石に控えた。
「・・・分かったよ」
万が一があっても、この爺さんがいる限り問題ないだろ。俺も扉の外にいるし。
そう思い、俺は学院長室から出た。
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「学院長先生、私に何か御用でも?」
リリィは学院長に尋ねる。
リリィには学院長と一対一で話さなければならない理由に心当たりはなかった。別に学院生活に問題はないし、生徒同士のいざこざも起こした事はない。王族相手に喧嘩を売る相手などいるわけないから当たり前だが。
「リリィ君。君は何故彼を傍に置いているのじゃ?」
予想外の言葉に、リリィは思わず面食らう。
それは、学院長が予想以上にウィークを気にしている事に対する驚きだ。
リリィは一度、扉の方へ視線を移す。
「ああ、心配せずともこちらの会話は彼には聞こえてはおらん」
察しが良い目の前の老人に、内心で苦笑いしながら、リリィは流石にウィークに聞かれる訳にはいかないなと思った。恥ずかしいから。
「好きだからです」
しかし、学院長に対しては驚くほど素直に言葉が飛び出た。
その答えが予想外だったのか、学院長はその目を大きく見開く。そんな姿を見て、飄々としたこの老人を出し抜いたと、内心で少しだけ喜ぶ。
だがそれも束の間、学院長は突然笑い始める。
「ほっほっほ!!そうかそうか、“好き”か。まさか君が恋で人を傍に置くとは」
心底楽しそうに、そして嬉しそうに、学院長は言う。
リリィ自身も確かに自分には似合わないと思う。
リリィは自分が悪人だと自覚しているし、最低な人間だとも思う。そんな自分が、「恋」などという乙女チックな感情を抱くなんて思いもしなかった。
・・・まあ、何故好きになったかははっきりしている。
単純だ。あの時助けられたから。そして自分を王女と知っても態度を変えなかったから。ただそれだけ。
そんなどこにでも転がっているようなロマンス小説みたいな惚れ方をするとは思わなかったがそれでもそんな理由でリリィはウィークが好きになった。
「儂は君が彼の力を都合よく使おうとしているものだと思っておったのじゃが」
「・・・世の中には例外は付き物です」
「ほっほ。良いのじゃよ。君は儂も認める悪女じゃからのう。そんな君が誰かに恋したというのが嬉しいのじゃよ。純粋にの」
何か失礼な事を言われた気がするが、本当の事なのでそれに関しては特にどうとも思わない。それと同時に自分の恋を祝福してくれたのは素直に嬉しかった。
学院長は、ウィークの次にリリィにとって気の許せる存在だ。
そんな人に喜ばれては、嬉しくないはずがない。
「学院長。今度良いお酒持ってきますね」
だから素直な感謝の証を示そうと思えるのだ。打算など一切無い素直な気持ちを。
「ほっほ。楽しみにしておるよ」
「はい。では、失礼します」
リリィは笑いながら頭を下げ、学院長室を出て行った。




