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第9話:いざ学院へ

そろそろストックが切れそうです。

 とうとう学院に行く日がやって来た。


 ぶっちゃけ行きたくない。しかし俺はリリィの従者(守護騎士)なので行かない訳にはいかない。


 そして、王宮の門には三台の馬車が並んでいた。


 それぞれの馬車に、第二王女、第三王女、第四王女と守護騎士、そして専属の使用人が乗り込んでいる。


 王女達が乗っている馬車は、王族専用でかなりデカく、わざわざ三台に分ける必要性が一切感じられないのだが、王女達の姉妹仲がすこぶる悪いのは既に分かっているので別段不思議ではない。


 税金の無駄遣いだとは思うが、俺は正義の味方ではないのでそこら辺に関して特に思う事はない。


 それに甘い汁を啜っているのは俺も同じだしな。


「ウィーク、早く乗りなさい」


 俺が外でそんな事を考えていたら、リリィが急かすように俺にそう言ってきた。


「はいはい。今乗るからそう急かすな」


 俺はそう言って馬車に乗り込む。


 改めて思うが、異常な程デカくて広い。こんな馬車、この世界に転生してから見た事ねえぞ。


 そして、そんな馬車に俺とリリィしか乗っていないというのはどうなんだよ。


 と、俺はそこである事に気が付いた。


「あれ?そういえばあのクソメイドは?」


 そう、この馬車にはリリィの専属メイドであるミルカが乗っていないのだ。置いてきたのか?と一瞬思ったが、それでは俺が四六時中この女の護衛をしなければならない。


 それでもいいのだが、流石に全寮制の学院で男の俺が四六時中というのは流石に問題がある。


 なので、貴族や王族は守護騎士や護衛騎士が異性だったばあい、同性の護衛や使用人を一人は雇うのが一般的だ。


 まあ中にはあえて雇わない奴もいるらしいが、そんな珍しい例はどうでもいいので多くは語らない。


「ミルカなら先に学院の方に行かせてるわ」


「学院の方に?何でまた?」


「貴方に関する噂や情報がどこまで流れてるか調べさせる為よ。恐らく・・・いえ、確実に貴方に関する良くない噂ぐらいなら既に流れている可能性があるわ。それを前もって把握する事は重要でしょ?」


「・・・・確かにな。それが分かるだけで学院で起こるであろうトラブルは大体予想し易くなるが」


 とは言ってもせいぜい柄の悪い生徒に絡まれるぐらいだろうが。


 それにしても俺の悪い噂ねえ・・・。大方事情を知っている上級貴族が俺を少しでも貶める為に流したんだろう。


 仮に従者だという事しか知られていなくても、ツァーリ公爵家の子供が二人揃って王族に深く関係する職に就いたのは他の貴族・・・特に公爵達は気に入らないだろう。


 中には俺が実質守護騎士である事を知っている奴もいるので、そんな奴にしてみれば、一つの公爵家から二人も守護騎士が出た事になる。そんなのは滅多にない。もしいずれ俺が正式に守護騎士に任命される事があれば、ツァーリ家は公爵家の中でも頭一つ飛び出る事になる。


 それを、プライドしか高くない貴族共が良しとするとは思えない。


 つまり貴族共が俺の良くない噂を流すのはつまりは必然だと言える。


 ついでに付け加えれば、現在正式に認められている守護騎士の中で、公爵の身分なのは俺の兄のジャックだけだ。


 レオンは平民から成り上がった男爵家の息子だし、アデルだって子爵の長女だ。つまりジャックだけが一際身分が高い事になる。それも俺に対する反感に一役買っているのだろう。


 まあジャックは身分は高いが、その分実力は一番低いだろうが。


 それにしても、リリィがきちんとそこら辺の対策を建てようとしている事には驚きだ。ぶっちゃけ何も考えてないと思ってたからな。


「お前って色々考えてるんだな」


 俺は思わず感心したような声を出す。


「何よいきなり。確かに私は頭はあまり良くないけど、それでも色々考えてるのよ」


 ・・・成程。


 こいつ、性格は色々最悪だが、それでも一生懸命頑張っている事は確からしいな。


 その事が何故か妙に嬉しく感じてしまう。


 俺のキャラじゃないな、とは思うが、それだけ俺がこいつの事を気に入っているって事なんだろう。


 正確は最悪だけどな。



「そう言えば、学院にはどれくらいで着くんだ?」


「大体五時間って所かしら?」


 五時間。


 現代日本の感覚ではぶっ飛んだ時間だが、それでもこういったファンタジー世界ではかなり近い部類に入るんだろう。


 いずれこの世界の文明が発達して、車や飛行機が出来れば生活も随分楽になるんだろうか?・・・まあ何百年後の話しではあるがな。


 その時、俺は微かな殺気を感じた。


 それに呼応するように、俺は神経を張り巡らせる。


 俺の雰囲気が変わった事を鋭敏に感じ取ったリリィが俺に疑問の眼差しを向ける。それを見た俺はリリィに事情を説明する。


「リリィ、辺りに魔獣がいる可能性が高い」


「えっ!?」


 そう言って、リリィは馬車の窓から外を見るが、辺りは一面草原だ。モンスター・・・つまりは魔獣が隠れられる場所などない。


 だからリリィは「何もいないじゃない」といった視線を俺に向けるが、俺は確かに感じ取っている。


 というかこの気配、魔獣じゃなくて巨獣の可能性が高い。


 巨獣とは魔獣の上位種を総称する言葉だ。ここである程度説明しておくと、最もレベルの低い奴を魔獣、次が巨獣、その上に天獣、そして最上位に神獣がいる。そしてそれらを総称して、モンスターと呼ぶ。


 たまに、獣型を魔物、人型を魔人と呼ぶが、この呼称は現在では余り使われていない。


「リリィ、恐らく敵は地下に潜っている。最悪巨獣の可能性もあるから気を付けろ」


 その言葉に、リリィの瞳には恐怖が宿ると思っていた。実際魔獣ぐらいなら普通の一般人でも、ある程度攻撃魔法を会得していれば、どうにかなる。


 しかし巨獣はそうはいかない。


 確か、むかし師匠に聞かされた話では、モンスターは、魔獣から巨獣、巨獣から天獣といったように、ランクが一つ上がるだけで、数十倍戦闘力を上げるらしい。


 とは言っても俺は今までそんなにモンスターと戦った経験がないのでどうも言えないが。そもそもモンスターは、一般的なファンタジー世界のように、頻繁に表れる訳じゃない。


 モンスターにはモンスターの生息場所があり、それは人間の生活の場と完全に切り離されている。


 だから、会うとしても精々が魔獣が限度で、巨獣なんてレベルのモンスターに出会う事なんて滅多にない。というか普通に生きていれば、殺人現場に遭遇するよりも確率が低い。


 まあ、俺は昔修行と称してモンスターの生息地に師匠に追いやられ、そこで龍種の天獣と戦った事があるが、それは別にどうでもいい話なので今はいい。


 それよりも今は俺達を標的にしているだろう巨獣の事が重要だ。


 とは言っても俺にしてみれば巨獣なんてカスだからそこまで心配する必要はない。守護騎士であれば、巨獣との戦闘経験も積んでいるだろうしな。


 と、そんな事を考え、今頃恐怖で震えているだろうリリィに視線を移すと、リリィの眼は、キラキラと輝いていた。


 まさに、「好奇心」という言葉を結晶化したように、キラキラと輝いている。


「お前まさか巨獣を見たいとか言いだすんじゃないだろうな?」


「なに言ってるのよウィーク。そんなの当たり前でしょ?」


 やはりか。


 まあ主の願いを叶えるのも俺の役目の内だ。それに俺がいればこいつにケガをさせる事など有り得ない。・・・多分。


「一応他の馬車の守護騎士にも伝えておくか。このまま行けばあと十分ぐらいで接敵しちまうしな」


 そう言って、俺は馬車に備え付けられている通信機器を取った。これは、機器の中に特殊な魔石が組み込まれており、それに魔力を流す事によって、あらかじめ登録している同種の機器と通信できる優れものだ。


 ・・・・俺使えないけど。


「リリィ頼む」


 俺はそう言ってリリィに通信機器を渡す。


 それを受け取ったリリィは、他の二つの馬車に連絡を取る。


「エマ、そしてセレスお姉さま。この馬車を標的に巨獣が向かってきているわ。戦闘準備をお願い」


 リリィの言葉に、第四王女のエマと、第二王女のセレスティーヌは揃って驚きの声を上げる。


『ですがワタクシの守護騎士は特にモンスターの気配は感じられないと言っておりますわ』


『レオンもそう言っております。リリィお姉さま、従者の間違いではありませんか?』


 エマの言い方がやや辛辣なのは、未だ俺とリリィに対する怒りが収まっていないからだろう。


 全く、カワイイ顔して無駄にプライドが高い所が本当にイラつく女だ。黙って馬車の隅で泣いてればいいものを。


 リリィがどうするの?と目で訴えてくる。


 俺は立ち上がり、リリィの持っている通信機に向かって言う。


「そこに居る守護騎士二人に言う。弱いクセに強者の判断に異を唱えるな。お前らには分からなくても俺には分かる。だからさっさと戦闘準備をしろ。さもなくば前みたくぶった切るぞ」


 面倒だったので、俺は適当に暴言を吐いて、無理矢理通信を切った。


 最悪出てこない可能性があるが、ここまで俺にバカにされればプライドの塊であるあいつら二人はまず間違いなく出てくる。


「さて、俺もぼちぼち行きますか」


 俺は、馬車の中に立てかけてあるミスリルの剣を持って。馬車から出るのだった。



@@@@@@@@@@@@@@@@@@@@@@@@@@@@@@@@@@@@@@@@



 馬車から出ると、既にレオンとジャックは外に出て、それぞれの武器、聖剣“カリバーン”と、大剣“ガルム”を構えていた。


 聖剣の説明はしたからいいとして、大剣の説明はまだだったな。


 大剣“ガルム”は大剣型の魔剣だ。その能力は単純。大剣に魔力を込める事によって衝撃波を発生させる。威力は籠める魔力によって変化するというオーソドックスな魔剣だ。


 でもジャックはその魔剣で守護騎士にまで上り詰めた。


「遅いぞウィーク。それにお前なんだあの言い方は。やはり魔力も使えないカスは人としてもカスのようだな」


 ジャックは、俺に向かって見下したように暴言を吐く。


 こいつは実力は、この世界基準で見たら、確かにある。しかし少々我がままに育ち、しかも魔力を持たない俺に対する優越感で、随分と残念な性格になっている。


 昔は単にウザいだけのクソガキだったのに、今では唯のクズだ。


 そんなクズの相手など時間の浪費以外の何物でもないので、俺はジャックの悪口をシカトして、レオンに話しかけた。


「とりあえず敵は地下に潜っている。だからまずお前がい―――」


 俺が適当に考えた作戦を話そうとした瞬間、大地が揺れ、目の前の地面がいきなり隆起した。


 ―――来る。


 そう思った時、地面から巨大なミミズが現れた。


 全長は約30メートル。まず間違いなく巨獣だ。そしてこの巨獣は俺にとって馴染みのないものだった。


「よりによってこんな気持ち悪い奴かよ・・・」


 俺は呟きながら、先手必勝とばかりに、ミスリルの剣を振る。


 剣から発生して斬撃は、ミミズを呑み込み、そして、真っ二つに切り裂いた。


 緑の気持ち悪い体液を撒き散らしながら、ドスンという音を立てて倒れるミミズ。


「よえー」


 巨獣と言ってもかなり雑魚の部類だったようだ。


 俺は拍子抜けしながらリリィが好奇心を輝かせているであろう馬車に戻ろうとした。しかし、いきなり後ろからボコボコという音が聞こえる。


 嫌な予感がして振り向くと、そこには、何故が切断していた肉体がくっつき、完全に再生を果たしたミミズの姿があった。


「再生能力・・・?」


 俺の隣でジャックが呟くのを聞いた俺は自分の頬が若干引き攣るのを感じながら、


「・・・はあ、マジかよ」


 と、小さく呟いた。


 再生能力を持ったモンスター。


 それは、この世界で俺の唯一の天敵だ。


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