スキルがなくても
「最上位治癒だと?!」
あの日、俺の人生は変わった。
強力な治癒スキルに目覚め…俺は治療院を開き、たくさんの人に頼られるようになった。
病人や怪我人、傷を負った冒険者たち…
俺のスキルは、彼らをあっという間に治してしまった。
「ありがとうございます!」
「ありがとう」
「ありがとな」
「助かったよー」
…よく言うよ。スキルがなかったときはいじめてきたくせに…
孤児だからっていう理由で、俺はずっといじめや嫌がらせを受けてきた。
それを助けてくれたのは…一人もいなかった。
スキルができた途端手のひら返しで親しげに…正直気持ち悪い。
皆…俺じゃなくてスキルが必要なだけだろ。
俺なんて…要らないんだろ。
だったら…俺もお前らなんて要らない。
そうして俺は、治療院を閉めた。
家にこもり、明かりもつけずただなにもしない。
まあ…何もない俺が悪いんだろ。
どのみち…俺はこの世には必要ないんだ。
このスキルは必要かも知れないけど…俺の知ったことじゃない。
俺なんて要らないんだろ?だったらお前らでなんとかしろ。
俺は…外れてやるから。
俺は、両腕に包帯を巻いた。
間違ってでも二度とスキルを使わないために…
***
意識が、遠くなっていく。
なにも食べてないから当然か…
不思議と苦しくはないな。
このまま行くと…俺は死ぬな。
まあ…それでもいいか。
どうせ生きてたって大差ないんだ。
コンコン
その時、俺は世界に戻された。
…何だ?
…まあ、居留守使うか。
「よいしょ!」
うるさい音と共に、窓から一人の女の子が押し掛けてきた。
「うわあっ!どうやって開けたんだ?!確か閉めておいたはず…」
「へへ~!こう見えて私シーフだから!」
「…強盗か?まあ…いいか。何でも持っていけばいい」
「あ、違う違う!そうじゃなくて、お礼がしたくて…」
「…お礼?」
「その…友達のこと、助けてくれてありがとう」
「…友達?」
「ほら、あの…私と一緒にいた金髪の可愛い子!」
「…人の顔なんて覚えてない」
「そっか、はは…」
「とにかく、本当に助かったよー!傷跡も残らないなんて、すごいね!」
「…まあな」
「…それで、言いたいことはそれだけか?出ていってほしいんだけど」
「ああ、それと…急に治療院閉めてたから、心配になって…」
「…何言っても俺は戻らないぞ」
「…そうじゃなくて、どうしたのかなって…」
「…お前には関係ないだろ」
「そうかもだけど…気になるんだもん…一応…恩人だし…」
「別に、そういう仕事だから。そんなんじゃない」
「そっか、はは…謙虚なんだね」
「…」
「あ、そうだ!これ、食べない?この間新しくできたパン屋さんの菓子パンなんだけど…甘いけど甘すぎずに外はカリカリ、中はふわふわで…ってなんか宣伝みたいになっちゃった!はは…」
「…いくらだ?」
「いやいや、いいよ!そんなの…そんなんじゃないし…お礼ってことで…」
「…治療代ならちゃんと受け取ってるけど」
「…じゃあ!この美味しさを君にもわかってもらいたいから!」
「…つまり、自慢したいのか?」
「う~ん~ちょっと違うけど…君、相当ひねくれてるね…ま、わからなくもないけど…」
「とりあえず、ここおいとくから!今日はこの辺で…じゃあね!」
…なんか自分勝手な奴だったな。
今日は…ってことは…また来るのか?
いや、まさか…
「…これ甘いな」
***
「よっと!」
「また来ちゃった!へへ…」
「…」
「ね、元気してた?」
「…なんでまた来たんだ?」
「うん~来たいからかな?へへ…」
「…どうせスキル目当てなんだろ」
「…」
「俺はもう、このスキルは使わないって決めてる。だからもう…来ないでくれ」
「…そんなんじゃないよ」
「は?」
「スキルとか関係ない」
「…そんなこと言っても信じられるわけないだろ」
「…実は、前々から君のこと…見てたんだ」
「…」
「でも…私には何もできなくて…ずっと心が苦しかったんだ…」
「…別に、お前が悪い訳じゃないだろ。それに…もうそういうの期待してないから」
「…そうなんだ」
「やっぱり放っておけない」
「私もね?昔…いじめられてたの。だから、君のこと全部わかる~とかは言えないけど…そういうときに頼れる人がないと苦しいのはわかるんだ…」
「…わからない」
「そんなことしてもお前には何の得もないだろ」
「う~ん~そういう難しいことはよくわかんないよ。ただ…君のことをもっと知りたい」
「…なんでだ?」
「う~ん~なんとなく?」
「…変な奴」
「まあ、そのうち放っておきたくなると思うけど」
「…話してくれる気はあるんだ」
「…それは…」
「あ、そうだ!そういえば名乗ってなかった…へへ…」
「私、イブ!」
「…」
「あなたは?」
「…リバー」
「いい名前じゃん!」
俺と一緒にいて、どうしてそんなに笑えるんだろ…
本当に…変な奴。
***
「開いてるぞ」
「へへ…バレた?」
「この時間にこの辺で音したらお前しかないだろ」
「へへ…それもそうか…でも開けておいたってことは入るの嫌じゃないってこと?」
「…閉めておいてもどうせ開けて入ってくるだろ、お前」
「あ!名前教えたのにまだお前呼び!!ひど~い!」
「…それ、重要か?」
「めっ~ちゃ重要だよ!ほら!名前で呼んで!」
「…イブ」
「へえ~ちゃんと覚えててくれたんだ~よかった~」
…何が嬉しいんだか。
「おま…イブ、いつまで来るつもりだ?」
「いつまで?う~ん…そんなのないよ?友達に会うのに理由とかも要らないし」
「…友達?」
「イブと俺は…友達なのか?」
「…うん…そう思うけど…ごめん、いやだった?」
「…いや、いいよ」
「そうだ、イブ」
「うん?」
俺はイブに家の合鍵を渡した。
「これやるよ」
「えっ…?!なんで?!」
「これからは玄関から入って来い」
「…いいの?」
「ああ…窓で出入りするのも面倒だし窓枠に土つくだろ?」
「…理由ってそれだけ?」
「…他に何か要るのか?」
「…全く…驚かせないでよ…世間での合鍵の意味知らないの?」
「何か言ったか?」
「何でもない!」
「でも…入ってくるの嫌なら衛兵でも呼べばいいのに~内心嫌じゃないんだ~嬉しいな~」
…確かに。
そうなのか…?俺は…イブが来るのを期待してたのか…?
「あ、もうこんな時間!ごめん、もう…帰るね」
「待って」
「うん?」
「…またな」
「…リバー…」
「…うん!」
***
「ただいまー!」
「…ここ俺の家だけど」
「はは!冗談冗談~!」
「いや…やっぱり玄関から堂々と入るのはいいですな~」
「…元々堂々と入ってきてただろ」
「…今笑った?」
「…あ」
「笑った!笑ったよね!!初めてみた!!やった!!!」
「…うるさい。それに…そんなに喜ぶことか?」
「嬉しいよ!だって…あれ?どうしてだろう…わかんない…へへ…」
「…どうしたんだ、その手」
「うん?ああ…これは…シーフは針金やワイヤーをよく使うから…気にしなくて大丈夫!へへ…」
「…手、貸して」
俺は、久々に包帯を解いた。
「えっ、いいよ!そんな…」
「いいから」
手と手が触れ合うと、イブの手の傷は瞬時に消えていった。
「…ありがとう」
「…別に、俺じゃなくてスキルが治したんだ」
「その…治療代は…」
「いいよ。こんなの押し売りだし、そこまで腐ってない」
「でも…よかったの?スキル…使いたくなかったんじゃ…」
「これくらいすぐ治せるし…見てらんないから」
「それに…お前は特別だからな」
?!
「リバー…それ、他の人には言わない方がいいよ…誤解されるから…」
「うん?イブ以外の話し相手なんていないけど?」
「うう…そうじゃなくて…もういい!リバーのバカ!!」
何をそんなに怒ってるんだろ…
「あ、そうだ…リバー…最近やけに痩せて見えるけどちゃんと食べてる?」
「…ああ、最近は何故かちょっと食欲があって…一日一食は食べてる」
「全然ダメじゃん!!倒れちゃうよ!!」
「やっぱり…なんかお礼させて」
「…いいよ、お礼なんて、大したことじゃないし…」
「私の気が済まないの!!」
「次の休みに、私のお気に入りの食堂連れてくから!二人前、いや、三人前食べきるまで返さないからね!!」
「いや、そんなに食べられないし…」
「とにかく、行くよ!いい?」
「まあ…一日くらいなら…」
「じゃあ約束ね?絶対空けといてよ?!」
「…空けなくても、いつも空いてるよ…はは…」
「ええっ!また笑った!」
「…毎回そんな反応されると笑いたくなくなるぞ」
「えっ、それは困る~!」
***
「ここでちょっとだけ休もう」
「りょうーかい!」
私は、合鍵を取り出してじっと見つめた。
「またな」
へへへ~
「あ、イブがまたにやにやしてる」
「何かいいことでもあったの?」
「へへ~内緒~」
「それはそうと…あの治療院急に閉めちゃって困っちゃうな…」
「治療院?ううん…確かに…」
「あそこはぼったくりもないし、治療師さんも無口だけどなんだかんだ優しくてよかったんだけどな~」
えっ?
「私、助けてもらったのにまだお礼も言えてないし…やっぱり一度訪ねた方が…」
「ダメ!!!」
「イブ…?」
「あ、」
「その…なんでもない!!ほら~休憩終わり!行こう!!」
「う、うん…」
なんで私、こんなにイライラしてるの?
リバーとエルザが会うのが嫌だから?
どうして?
わかんない…
「…!ストップ!」
「この足跡…討伐依頼に出てたレッドグリズリーのだ…!」
「本当に…?」
「うん…どうしてここまで降りてきたのかわかんないけど…」
「私たち二人じゃ対処できないよ…!」
「うん、早く引き返してギルドに報告しないと…」
…!
見えた、レッドグリズリー…いや、黒い…?
「エルザ!走って!!」
「えっ、でも…!」
「早く!!」
「う、うん!イブは…」
「私のことはいいから!」
「くっ…!」
私にはエルザほどの体力がないから逃げ切れない…
せめてエルザが逃げ切るまで気を引かないと…!
…!早い!やっぱり変種…
あ、
ごめん、リバー…約束…守れそうにないや…
***
服はどうしようか…そんなに着飾る必要はないだろうけどちょっとくらい誠意は見せた方がいいな…
よし…今日中に買い揃えるか。
うん?なんだ…外が騒がしい。
「おい、どうなってんだ?」
「レッドグリズリーの変種だってよ、近くにいたAランクのパーティーがなんとか対処したみたいだけど…冒険者一人がやられたらしくて…」
「えっ、死んだのか?」
「いや、まだ死んじゃいないらしいけど…あの重傷じゃな…」
「イブ!!!しっかりして…お願いだから戻ってきてよ!!!」
?!!
その名前を聞いたとき、俺は考えるよりも先に走り出していた。
どうして?
どうしてこんなに感情的になってる?
「どけえええぇっ!!」
「治療師さん…?皆さん!!道を開けてください!!お願いします!!!」
イブ、
イブ、
「イブ!!!!」
治せ。
早く治せ。
一度くらい役に立ってくれよ…頼むから…!
それ以上…もう何も要らないから…!
イブの目蓋が、少しずつ震え始めるのが見えた。
「…!イブ!!」
「…リバー…あれ、これ…夢?」
「イブ…!よかった…!!」
「エルザ…」
「リバー…どうして…スキルはもう使わないんじゃ…」
「わからない…」
「わからないんだよ…!」
「独りなのは寂しくなかった…なのにお前のせいで…」
「お前に会えなくなると思うと苦しくなったんだよ!!!」
?!
「リ、リバー?!今のは…」
その瞬間、俺は倒れてしまった。
あ、急に走りすぎた…
まあいいか…イブが助かったならそれで…
「リバー…?リバー!!」「治療師さん!!!」
***
「…バー」
「リバー!!」
「ううん…」
「イブ?」
「イブ!!よかった、無事だった…!」
「寝てなさい!バカ!!」
イブは、俺の後頭部を思いっきり殴った。
「うわっ、いってぇ…」
「わ、わかった…ごめんって、寝るから…」
俺がベッドに横になると、イブはいきなり俺に抱きついてきた。
「イブ…?」
「本当バカ…!栄養失調って…!だから言ったんじゃん…!」
「…ごめん」
「リバー…」
「うん…?」
「さっき言ったこと…本当なの?」
「さっき…?あ、」
「それは…まあ…」
「ダメ、話逸らさないで、はっきり言って」
「…」
「話してくれるまで離れないから」
「…それでもいいかも」
「えっ?!」
「でも…ちゃんと話すよ」
「俺は…イブがいないとダメみたいだ」
「好きとか…そういうことはよくわからない。でも…イブとずっと一緒にいたい。これが俺の本音だ」
「リバー…」
「うん…!私も…リバーとずっと一緒にいたい!!」
***
「リバーって…シーフの才能あるかも」
「うん?どういうことだ?」
「だって…私からものすごいものを盗んだんだから!」
「えっ?」
「なーんでもない!へへ…」




