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1-10


帰り道もどちらが言い出すでもなく大通りの方を避け、遠回りをする。


「大変なのか」


雲の短い問いに宗斐は頷く。


「ここ最近どうも問題が連発している。

特にひどいのが子どものすることだ。

彼らにとっては遊びの延長だからな」


お手上げだというように両手を振った。

それに対し雲が言葉を発する前に宗斐は片手で静止する。


「謝らなくていい。

あなたが謝ることではないだろう?」


「……」


「さっきの子供とは」


「隆がいつもいる子達ではないよ。

あの子たちも最近は隆が止めるから不満が溜まっているようだけど」


帰り道の途中で雲は立ち止まる。


「どうした?」


「ここまででいい。

こんなことをしてる暇なんて本当はないだろ?」


下から真っ黒な瞳に射抜かれると宗斐は観念したように頷く。

そしてためらいがちに何かを言おうとして今度はそれを雲が静止する。


「あなたが謝ることでもない。

……あなたは前に自分は出来のいい人間じゃないと言ったが、私はそうでもないと思うよ。

少なくとも私たち(蒼土の民)にとってはそうだ」


雲の言葉に宗斐は驚き目を大きくした。

しかし次の瞬間その顔はわずかに歪む。


「それは…っ、なんでもない。

今日は嫌なものを見せてすまなかった。

この問題は私がどうにかすると約束するよ」


その姿はやはり滲むことなく鮮明で雲はそれが少しおかしくて微かに口元を緩める。

緋色の瞳は複雑そうに揺れた。



*****



夜になり帰ってきた岑は、雲の顔を見るなり露骨に眉を顰めた。


「またあいつに会ったのか?」


「……そうだけど。なんで分かったの」


一瞬だけ目を合わせ、雲はすぐに視線を外して厨へ向かう。

その背中に向けて、岑が小さく息を吐いた。


「あんまり首を突っ込むな。

今一番大事なのは、お前が生きることだ。何事もなくな。

太子だと知られたのはもう仕方ない。

でもな、あいつの抱えてる問題まで背負う必要はないだろ」


雲は何も言えない。

分かっているのだ。

もう自分は蒼土の次期王ではない。

それでも民のことが気になってしまう。


「……お前、あいつに自分を重ねてるんじゃないだろうな」


椀を持つ手が、ほんの一瞬止まった。

民のためという理由とともにその私情が混ざっていることも事実だった。


「まさか。そんな資格はもう私にはないよ」


振り返って、屈託なく笑う。

その言葉に、今度は岑が詰まった。

やがて諦めたように首を振ると、雲の運んでいた皿を奪って机へ向かった。


「まぁ、正体を知られてんなら見張れた方がいいか。」


「その点は大丈夫だと思う。

おそらく彼は私たちをどうこうしようという気はないよ」


椅子に腰を下ろした雲に岑は疑うような目を向ける。


「どうこうする気がないってとこには同意だが、そんな信用するのも危ないと思うぞ。俺は。

辰京の皇族なんて全員捻くれてるに決まってる。

なんてったってあんな大量に兄弟がいちゃな。

健全に育つわけがない」


箸をカチカチと行儀悪く鳴らしながら岑が言う。

雲は苦笑を浮かべた。


「やめなよ。行儀悪い。

信用というか、あんまり心配してないのには理由があるんだ。

……彼は、四人目なんだ」


岑の口が開いた止まる。

箸から肉が落ちる。

雲はそれを視線で追いかけた。


「落ちたよ」


「それは分かってるが、四人目って言うのは本当か?」


「うん」


雲の強い断定に岑は少し考え込む。


「でも、その、そうだからって信用できるわけじゃないだろ。

ほら、その…」


岑は言いづらそうに話し出す。

最後の方はかろうじて聞き取れるほどの小さな声だった。


「……まあね。

だから、信用はしてないよ。心配してないだけ」


「……そっか。

ん?待てよ。あいつがお前に気づいた理由ってなんだっけ?」


落ち着かない様子のまま納得した岑はふと思い出して尋ねる。


「多分弓だ。

隆を助けるために使ったとこを見られたみたいで」


「弓…弓か。……」


何やら思案し始めた岑を放って雲は黙々と食事を終わらせると自分の皿を片づけ始める。

そしていまだに考え込んでいる岑の前にわざと音を立てて水を置いた。


「私が分かんないのに岑が考えたって分かるわけないだろ?

それよりも早く食べてよ。

片づけられないから」


「確かにそうだが、俺が片付けるからちょっと待ってくれよ。

なんか心当たりある気が……」


岑は言いかけたが雲に強めに睨まれると黙って食事を再開し始めた。






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