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あなたと巡る、愛しい雨旅  作者: 七賀ごふん
週末ドライブ

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3/14

#3



結局何が言いたいかというと。


「景さんには、今世では幸せになってほしいから」


出てきたのは、自分でもビックリするほどストレートな台詞だった。

間違いなく本心の為、内容自体は後悔してない。でも絶対、他に言い方があった。


いかん……。

ドン引きさせたかもしれない。恐る恐る隣を見ると、景さんは顔を背け、口元を隠していた。


「景さん? すみません、やば……変なこと言って」

「……いや」


待ってみたけど、続きの言葉はない。出発早々やらかしたと、自己嫌悪で項垂れた。

どれだけ前世で共に過ごしていても、今の俺達は他人だ。必要以上に踏み込んではいけない。


今の景さんは、前世の“彼”とは違うんだ。接し方を間違えるな。


でも……でも本音を言うと、景さんのことをもっと知りたい。


ぶっちゃけ、俺は景さんに好かれてるとは思えない。彼は誰に対しても基本ドライみたいだけど、雑談なんてまず振ってこないから。


無駄話をしない。即ち興味の対象外。好きの反対は無関心、という言葉が嫌でもまとわりついた。


フロントガラスを眺め、不意に隣に視線を移す。

すると暗がりの中でも、彼の耳と頬がほんのり紅潮しているのが分かった。


何だ?

驚き、思わず手を伸ばしかけたが。


「お前は?」

「え?」

「恋人はいるのか」


低いトーンで尋ねられる。ドキッとして、手を引っ込めた。


初めてプライベートなこと質問された……!!


俺が最初に訊いたから、っていうのが一番でかいと思うけど。それでも尋常じゃなく感動する。気持ちが昂る。

「あはは。いたらやっぱり、週末の予定は埋まってますね」

素直に答えると、彼は目を眇めた。

「お互い杞憂か」

ギシ、とシートが軋む音が響く。

景さんは規則的にハンドルを指で叩いた。


「でも、フリーなら尚さら警戒しないと」


とん、とん、とメトロノームのように、蠱惑的な声とシンクロする。無意識に、彼の一挙一動に集中していた。


「自衛はしておけ。今さらだけど、俺に連れ去られる危険を考えたことは?」

「え。ありません」


考えるより先に口から零れた。


「だって……ずっと会いたかったから」


むしろ質問の意味が分からないという様に、見つめ返す。


珈琲のボトルを彼の左手に添えた。彼はそれを受け取り、肩を竦める。

「やっぱり危険だな」

ウィンカーを出し、右の車線に移る。さらにスピードを上げながら、可笑しそうに口端を上げた。


「飲み込まれそうだ」


……?


何のことか分からないが、それは独白だったのかもしれない。ラジオを聞きながら、都築はシートベルトを握り締める。

過去も未来も洗い流す、短い旅が始まった。





神聖な場所。と言ったらキリがない。

神社仏閣に限らず、霊峰や渓谷、離島、池に滝。水にまつわる聖地は数知れず。


神話の舞台になってる場所も同じだ。可能性があるのは有難いが、正直お金と時間がかかる。だからいつも夜に出発し、ゼロ泊二日で帰ってくる。遠方の場合は安いホテルやスパに泊まったり、車中泊することもザラだった。


「図書館か。数年ぶりに来た」

「あはは、俺もです。古い文献が地元の図書館に揃ってることもあるし、立ち寄るのも良いでしょう?」


二週連続で北関東を回った。土曜日の正午に茨城の神社に寄り、大きな市立図書館に訪れた。興味深い本はたくさんあったが、結果として有益な情報は手に入らず、徒労に終わる。

ローカルスーパーで休憩し、車に買ったものを入れる。ちょうど隣の車の前にベビーカーがあって、赤ん坊がこちらを見ていた。

「あ」

思わず前に屈み、手を閉じたり開いたりした。赤ん坊は目を丸くした後、きゃっきゃと笑った。

「わ! 可愛い」

「ふふ。ありがとうございます」

傍にいた母親の女性が朗らかに笑った。最後に手を振り、助手席に乗り込む。

「良いなぁ。赤ちゃんって本当に可愛いですよね」

「……お前は子どもが好きだな」

「見てると癒されます。何があっても守らなきゃって気になります」

再び高速に入り、長いドライブが始まった。都築は道の駅で買ったコロッケを運転中の景の口元に近付ける。


「はい景さん、どうぞ」

「……」

「あっ大丈夫です。時間経ってるから火傷はしないと思います!」

「そういうことじゃない」


景さんは何やら渋っていたが、やがて前を見ながらコロッケを頬張った。

タイミングを見ながら差し出していると、かなりスピードが出ていることに気付いた。

「景さん、この辺覆面パトカー多いですよ」

慣れてる場所でも、警察は年々斬新な車種を導入してると聞く。近寄られるまで絶対分からないし、とにかく安全ファーストだ。

景はメーターを一瞥した後、ゆるやかにスピードを落とした。


「このまま長野に入る」

「あ……」

「どうした?」


口篭る自分を不審に思ったのか、景さんは視線を寄越した。

「い、いえ。了解です」

声音も明るくし、笑って答える。

会話はそこで途切れた。


都築は少しだけ拳を握り、コロッケを紙袋の中に仕舞った。




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