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あなたと巡る、愛しい雨旅  作者: 七賀ごふん
週末ドライブ

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10/14

#10




翌日も曇りのち雨。ホテルを出た景と都築は、ややハイペースで東京へ向かった。埼玉までは非常に順調だったが、予想外のトラブルに都築は震えた。

「はっくしょん!」

「……」

「はっ……」

「……都築」

「……はっくしょん!」

「風邪か?」

日も暮れて、無事に東京に入った頃、疑念は確信に変わった。

凄まじい悪寒とくしゃみに支配され、都築はハンドルを握り締めた。

「次のサービスエリアで交代するぞ」

「はい……」

昨日薄着で寝たことが原因だろう。体は冷え、完全に体調を崩してしまった。


「少し熱いな」


額を触られる。冷たくて気持ちよかったが、身体の寒気は別だ。運転を代わって高速を抜けた後もくしゃみは止まらず、都築はダウンした。

「ごめんなさい、景さん。適当に下ろしてください」

「適当に下ろしたら絶対行き倒れるだろ」

「でも、風邪うつしちゃったらまずいので」

それだけは避けたい。コンビニで買ったマスクをつけて呟くと、優しく頭を撫でられた。


「家には誰もいないんだよな?」


落着した問いかけに頷く。すると景さんは、「わかった」と言って座り直した。


「看病する人間がいないなら、俺の家に行くぞ」


は。

朦朧としていた意識は、一瞬で鮮明になった。驚き過ぎて咳き込むほどに。

「なっ……駄目ですよ! 景さんまで風邪ひいちゃうから!」

「問題ない。俺は休もうと思えば休める」

「いやいや、これ以上迷惑かけられません」

「このままお前を家に帰しても、落ち着かなくて仕事にならない」

彼の意志は固そうだ。もう俺の家とは反対方向に走り始めている。

けど今度は申し訳なくて倒れそうだ。せっかく昨日は気持ちを打ち明けられたのに、早速厄介になるなんて。

困惑が伝わったのか、額を指先で押されてしまった。


「寝てな。すぐに着くから」





夜も深まった頃、連れてこられたのは八階建てのマンション。

景さんの部屋は五階で、窓からの見晴らしが良かった。今朝まで東北にいたから感覚がバグってしまうけど、本来は緊張する場面だろう。

だって、これが初めての訪問だから。


景さんの大体の住所すら知らないのに、突如部屋にお邪魔した。その非現実さについていけない。

リビングで佇んでいると、腕を掴まれ寝室に連れていかれた。


「熱計るぞ」

「ありがとうございます」


慌てて上着を脱ぎ、前をはだける。景さんは若干目を細め、温度計を差し出した。

「水持ってくる」

「景さん、ほんとお気遣い」

なく、と言う前に彼は部屋を出て行った。

「…………」


何この状況。

改めて冷や汗が出る。風邪の症状というより、ほぼ緊張によるものだと思う。

白を基調とした、家具の少ない寝室。片付いてるけどデスクの上には難しそうな本が積まれていて、かろうじてノートパソコンだけ置ける状態だった。


おお。景さんの匂いがする。


ちょっと変態っぽいけど、瞼を閉じて息を吸った。


昨夜は景さんに何度も“好き”と言った。彼もそれに頷いてくれて。


あれ。これって、もう付き合ってる……のか?


熱に浮かされた頭ではまるで処理できない。嫌な汗を流しながら、上着の裾を握り締めた。


「……ほら」


彼は水とスポーツドリンクを持ってきてくれた。礼を言い、飲んでる途中で体温計が鳴った。そっと服の下から取り出す。

「三十八度ぴったり。でも、身体はさっきより怠くないです」

「一晩寝れば回復するかもな。解熱剤があるから一応飲んで寝な」

彼が用意してくれた薬を飲み、ベッドに寝かせられる。


「いや、これだと景さんの眠る場所がなくなります。俺は床でいいです」

「俺は向こうのソファで寝るから大丈夫」

「でも……」

「ベッドで寝なくちゃ、何のために連れてきたか分からないだろ?」


景さんは腰に手を当て、薄く笑った。

「それとも寝るまで傍についてようか」

「もう……子どもじゃないって」

頬を膨らますと、彼は楽しそうにライトを消し、ベッドに腰を下ろした。


「辛い時は誰かに頼れ。俺はもちろん、この時代なら誰かしらが振り返ってくれる」

「……」


目を細めて囁く彼は、まるで自分自身に言い聞かせているようだった。


「はい」


枕に頭を乗せ、意味もなく彼に手を伸ばす。頭がボーッとしてるのは間違いなかった。

景さんは俺の手をとり、甲に口付けする。


……昔もこんなことをされた気がする。現世じゃないから、多分、前世で。




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