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7・抜け忍

そろそろと、主要人物が集結し始めています――。

 まるで絵に描いたような稲妻――いや、絵に描くどころか、見ることもままならぬスピードを身に着けた黒装束の男が二人、入り組んだ林の中を飛び交っていた。


寒凍(さむごおり)の抜け忍ごときが――。覆ったこの世に、もう何の因果を背負うことがあるか。君主なき忍びは、もう忍びにあらず」


 飛び交う影は、鈍い金属が激しくぶつかり合う音の中で、その超人的な速度の中、コンマ002秒ほどのすれ違いざまに言葉を投げかけ、恐るべきことに林の木々を、幹も枝葉も揺らすこともなく電光石火で跳ねていた。


「背負うものは、まだあるでござる! 拙者はただひとつ、忍びには断じてあってはならぬ謀反(むほん)を起こしたお主を斬るだけ! お主が語る主君とは、いったい何者ぞや!」


 また、ギン――とぶつかり合う金属音。それが幾重にも林のしじまに響き合う。


「主君か――。貴様よもや、万前川よろずまかわの天下取りがこの国の大義で終わったと思うているのか」


 ガギ、ン――!!


「何をぬかすか! どれほど世が変われど、拙者の仕えるお方はただ一人! 主様しかおらぬ!」

「ほお。その主様を護りきれず、這う這うの体で生きながらえようとしたのは――お主だろう」


 黒い頭巾の男は、飛び跳ねる中で不敵に笑った。


「貴様の――! 貴様の寝返りさえなければ! 拙者はきっと――」

「ふん。きっと、どうした」


 不意に二つの影は大地に降り立ち、足元の木の葉を踏んだ。ようやく、林の中に微かな音が鳴った。帷子(かたびら)帷子(かたびら)のついた黒き衣――わずかに灰色の縁取りを着衣に見せる男は、息も絶え絶えで、眼前の(かたき)を睨みつけている。その敵が目で笑う。


「そんな目をするな。お主は分かっていない。もうここは、戦乱の世ではないのだ。お互いに仕える君主を失くした者同士、我と手を組まないかということだ」

「な……何のことでござるか! 君主あらずとも、拙者は拙者の意志こころを貫くのみでござる! それが……」

「ふっ、心残りか。まあいい、お主とはまた、この世界で相まみえるだろう。自慢の逃げ足だけを頼りに、この生まれ変わった世界で生き残ってみよ。我は新たな――この世界を統べるであろうお方の場所へ戻る」


 言うや否や、『ヒゼン』と名乗る男は消え去った。残されたのは、ただ一人。忍びの掟を捨てては農民として身をひそめ、『抜け忍』と呼ばれる、忍者としてはプライドを投げ捨てたはずの男だった。

名は『手裏堅寿介しゅり けんじゅのすけ』という。皮肉にも、忍者が多用する投げ道具でもある手裏剣が、ことごとく苦手だった。フォアボールばかりで失点を重ねるピッチャーだった。


 そしてこの男もまた、すでに転生を終えていることをまだ知らない。時は令和7年、西暦2025年の8月12日だった――。



 おつき合い、ありがとうございます。

 まだまだ書き溜めがありますので、時間があれば短いスパンでも投稿させていただきます。

 次第に笑えるシーンも増えますので、今後とも、よろしくお願いします。

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