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6・従軍医師

今回の話は、重く凄惨なシーンを含みます。

辻褄は今後で合わせてゆきますので、読み飛ばしても構いません。

 その世界は、とある特殊能力の奪い合いで戦場と化していた。


 本来であれば命を救うべくして特殊発生したその能力は今や、戦乱の現場で成す術もなく消え去ろうとしている。



 国際法により、核兵器を含む世界中の大型破壊殺戮兵器が消えた。

 それらが数千の輸送ロケットで、次元系から遠く亜空間へ葬り去られた時から、しばしの平和は続いた。

 しかしその結果は、人々がただ殺し合うという原始的な争いの始まりだった。一人の天才理学医学博士がその生涯を終える間際に生み出した、『神の力』の奪い合いの始まりだったのだ。


 あらゆる権力者や大富豪のみならず、すべての人間が究極的に求めること。『不老不死の【神秘】』を与えられてしまった16歳の少女は、シェルターの中で、まだ不完全な力を(もっ)てして、病床人たちの手当てに全身から汗を流して奔走していた。


香月かづきフォーミュラ』。少女の名前である。



「ゴメンなさい! 私一人では手が回りません! 蘇生の必要に迫られた方を優先にして、医療従事者の皆さんは、可能であれば旧式のAEDで対応してください! あとすみません! 周囲の方は私の半径2メートル以内に入らないでください!」


 声も枯れ果てた彼女は、息絶えたと思われる幼い少年を前にして、ひたすら手のひらに精神を集中していた。精一杯の距離で涙ながらに見守る少年の母を視界に入れながら、(生きて――生きて――)、そう繰り返しながら、ありったけの思いを集中させていた。



「A.E.D(オーセント・エレクトリカル・ディレクション)!」



 ドーム状の、100人以上がひしめき合うシェルターに、まだうら若い少女の決死の声が響く。その度に、彼女の手に触れられた少年の身体が大きく跳ね上がる。彼女の声は、何度となくシェルターにこだまする。


 やがて、見えないオーラを纏ったような少女の手のひらが、横たわった少年の右胸からゆっくりと離れる。



「大丈夫です。息は吹き返しました――」


 死の川の縁から戻ってきた幼い命に、女性は息子の元へ駆けよっては抱きかかえる。


「ありがとうございます! ありがとうございます!」


 そんな女性に笑顔で応えることもできず、少女は、もはや手遅れになった人々の、そして、それを囲んでは嗚咽する姿に心を痛めた。



(父はなぜ、私にこんな酷い運命を背負わせたんだろう……)



 彼女の力は治癒の能力だ。壊れた細胞の復元から、傷んだ臓器の回復。そして最終的にたどり着く能力が――『不老不死』を与える力だったのだ。



 だがしかし、やがて悪夢の瞬間が訪れた。

 著名な理学博士だった父の、優し気な面影を彼女が思い返す間もなく



 誰も気づかぬ時間の流れの中で、慰安所であるシェルタードームが一瞬で消え去った――――。


 某国が地下深く隠し持っていた大型核兵器がその上空で、炸裂したのだった。


 人類は半数を一瞬で失い、青く美しい世界がこの世から消えた。

 その独立国家にとって、多勢の生き死になどは関係がなかった。その力を持った『誰か』を見極めるためだけの、ただの無慈悲な行為だったのだ。

 焼けて吹き飛び焦土と化した国々をくまなく探し、まだ生きながらえている者がいるならば、それこそをターゲットとした。事実が曲げられていたのだ。――その者自身が信が不老不死であるのだと。



 何もかも――大地も空も消滅したかのような爆撃を受けた荒野で、少女が体感した時間は数秒間。と、同時に、自らのすべての役目が終わりを告げたことも感じて涙を流した。

 少女=『香月・フォーミュラ』は、自分の死を悟ったのだ。心残りだけを滅びゆく世界に残したまま。

 故に、それが彼女の異世界転生をもたらした。大転生者の現れと共に――。

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