表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
5/8

3・ギャル

 茫然とする一二三は、見渡した光景を目に映して感じ入る。


(ここが異世界……)


 しかし実感が伴わない。まるでいつもの、部活帰りの河原にしか見えないのだ。ハッと気がついて、一二三は慌ててスマホを取り出す。が、そこには2025年の8月12日19時41分の表示が見えるのみだ。彼が覚えている限り、まったくの時間跳躍も一変した世界も感じられない。そこへ急に――。



「ねえねえ。ちょっとさ、この辺に100均ない?」



 声をかけてきたのは同い年に見える、巻き髪の茶髪を頭のてっぺんでまとめた少女だった。やけに短い制服のスカートで、ダルダルの白いルーズソックスを履いている。少女は腰に手を当てては周囲を見回している。


「あ、あの――今、何年だか分かる?」


 恐る恐る一二三が訊ねると、少女は怪訝な顔で、まだ芝生に座り込んだままの彼を見下ろした。


「はあ? もしかしてナンパとか? いきなりチョーキモいんだけど。学校は行ってないけど三年。で、100均探してるんだけどー。『たまごっぴ』の電池切れた感じでえ」

「いや、そうじゃなくて。昭和とか、平成とか、そんな感じの――」


 少女はまた、妙な顔を見せる。


「新聞とか読んでない訳? チョージラレナイシン。っていうかヘーセー8年? あれ? 7年だっけ? で、どうでもいいから100均」


 一二三は息を飲む。これは確かに転生だ。ただし、まだここが異世界であるという確証はない。ただのタイムスリップかもしれない。取り出したスマホをタップして、母親へ電話を入れた。呼び出し5回で母親が出た。


 ――『何やってんの。負けたものはしょうがないでしょ。暗いんだから早く帰って来なさい。アンタの試合応援で晩ご飯用意してないから、ピザでも取るから』

「か、帰るけど。で、母さんさ。今って何年何月何日だっけ?」

 ――『アンタ……三位決定戦で思いっきり頭叩かれたからって、記憶喪失にでもなった? 令和7年、西暦2025年の8月12日。はい、ちゃんと帰ってきてよね。迷子になったら、お巡りさんに聞くこと。以上』



(違う……。転生とかしてない。いつもの毎日だ……)


 そこへ、


「何ブツブツ言ってんの? だからさあ100均。さっき車にぶつかったと思ったら、全然知らないとこで困ってんの」


 一二三はそこで直感した。ここへ異世界転生してきたのは自分ではないのだと。目の前のギャルなのだと。世界は動いていない。大転生者が語っていたのは、自分のことではなかったのだ。


 それを裏付けるように、一二三の前には新たな影が現れる。


「なんだここは。ムサシのヤツめ、どこに消えおった――」



 腰に刀を差して頭を掻いているのは、灰色の着物を着た細身の侍だ。なびかせている長い髪は髷ではなかったが、まさしく侍だった。映画やドラマで見る侍にしか見えない。


 一二三はもう開き直った気分で、その侍に尋ねてみた。


「あの――。いきなりですみませんが、今は何年だと思いますか?」


 侍は、不機嫌に片目をつぶった仕草で答える。


「ん? 慶長17年に決まってるだろう。瓦版は読んでないのか。というか、どこだここは。そういえば妙な格好をしているが、長物を持ってるではないか。お前も剣術の徒か? 流派はどこだ。何なら、俺が稽古つけてやってもいいぞ」



(とりあえず……帰ってピザ食べよう)


評価をするにはログインしてください。
この作品をシェア
Twitter LINEで送る
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ