炎と触手
「……厄介なのが来たな」
黒瀬が苦笑いを浮かべ、低く呟いた。
次の瞬間、侵略者が海に身を沈める。
ドゥオン……!
地鳴りのような轟音と共に、2メートルを超える波が黒瀬たちへと押し寄せてくる。
黒瀬の掌に、ぱっと炎が灯る。
燃え上がった火はすぐに形を変え、黒光りするマグナムがその手に現れた。
彼の能力――「炎の具現化」
炎を銃火器へと変換し、威力や性能を増幅させて戦う特異な力だ。
黒瀬は迷いなくマグナムを構え、迫る波に向けて引き金を引いた。
バシュッ!――ゴオォォォ!
放たれた一発が波を貫いた瞬間、爆音と共に水が一気に蒸発し、辺り一面が白い蒸気に包まれる。
視界が奪われる中、黒瀬は跳躍。
宙を反転しながら、眼下にいる侵略者の頭を正確に捉え、再び引き金を絞る。
狙いに狂いはない――はずだった。
「撃ち抜けなかった…!」
マグナムの弾丸は、侵略者の装甲に当たり火花を散らす。
だが、鋼鉄をも砕くはずの一撃は、表面を滑るように弾かれた。
衝撃で海面が窪み、波紋が広がる。だが侵略者は微動だにしない。
シュルッ……!
白い水蒸気を割って、無数の触手が空中の黒瀬を包囲するように襲いかかる。
「……っ!」
空中での回避は困難。
しかも先ほどの反動で体勢も崩れている。
焦りもあって最善策が思いつかない。
一撃が、右腕に届く寸前――
「陽翔!!」
浜辺から、爽一郎の声が鋭く響いた。