深夜の召集、眠らぬ海
深夜0時。街が刻々と眠りについていく間、黒瀬は駆け抜けていた。
緊急招集。政府組織からの重要な連絡だ。
Tシャツに短パン――風呂上がりのままの格好だが、そんなことはどうでもいい。
ただやつらのことだけを考え、ひたすら走る。
走ること15分。防砂林を駆け抜けた先にある、砂浜についた。
この砂浜は日中、ビーチバレや海水浴客で賑わう場所だが、この時間帯にはもちろん人気はない。
着いて早速、黒瀬は外的存在の気配に意識を向ける。
砂浜、防風林、海、建物など、一つ一つ丁寧に索敵していく。
そうすると一つ気配を感じた。
「爽一郎。来ていたのか。」
藤堂は、浜辺から少し離れた防風林の影に立っていた。
黒瀬が声をかけると、まるでそこにいることが当然だったかのように、ひらりと手を上げた。
「遅いぞ、陽翔。お前のことだから、風呂上がりでも全力で走ってくるとは思ってたけどさ」
「……まさか、すでに気配を?」
「少し前からいる。妙な空気が漂ってる。さっきから海面が不自然に静かすぎるんだ」
黒瀬も視線を海に向ける。
波はある。しかし、その周期が妙に均一すぎる。まるで何者かの“呼吸”のようにも思えた。
「政府の通信……“クラスB”反応だってさ」
「Bか。じゃあ、今回は一筋縄じゃいかないな」
黒瀬が呟いたその瞬間。
ザザァ……ッ
それまで穏やかだった波が急に荒々しくなる。
「来るぞ!」
黒瀬たちの目の前に広がる海が、蜃気楼のように歪み始める。
パリン!!!!!
空間に亀裂が入り、亀裂の中から巨大なイカのような生物がゆっくりと海に着水。
全長はおそらく3メートルを超えている。
槍の穂先のような頭部の下に、幾つもの眼球が蠢いていた。
体表は鈍く黒光りし、幾本もの触手がうねりながら宙を彷徨っている。
黒瀬は無意識に身構え、額に浮かぶ汗を拭いもせず、右手に力を込める。
空気の温度が、わずかに上がった。