放課後の誘いと、深夜の異変
放課後のチャイムが鳴った。
教室を包んでいたざわめきは、昼間の緊張とは打って変わって、穏やかで日常的な空気に戻っていた。
黒瀬は、机に突っ伏していた頭を上げ、荷物をまとめ始める。
(……やっぱり、集中できなかったな)
視線の先では、転校生――西条蓮がクラスメイトに声をかけられながらも、ひとりで教室を後にしていく。
その背中を無意識に目で追っていると、名前を呼ばれた。
「黒瀬くん!」
振り向くと、明るい茶髪の女子生徒が立っていた。料理部の副部長、日野原 凛だ。
何度目かの顔合わせ。けれど、なぜか毎回、気まずさが残る。
「今日も来ないの? 料理部。最近ずっと断られてばっかなんだけど!」
「……あ、いや。ごめん。ちょっと今日は……」
「また“ちょっと”? ひとり暮らしで料理得意なんでしょ? 来てくれたら、いろいろ教えてって言ってるのに」
苦笑しながら黒瀬は首をかしげる。
たしかに料理はできるし、誘われるのも悪い気はしない。
ただ、今日は西条蓮のことが気になり、行く気が起きなかった。
「……また今度。絶対行くから」
「ほんとー? 約束ね?」
凛は納得したようなしないような表情を残しつつ、満足そうに去っていった。
黒瀬はカバンを肩にかけ、廊下に出る。
その胸には、昼間の違和感がまだ居座っていた。
あの視線。あの衝撃。忘れようとしても、消えなかった。
夜。
帰宅後、簡単な夕食を作り、シャワーを浴びていると、スマホが振動した。
画面には、政府組織からの緊急通知。
【機密通信:LV3】
《深夜0時02分》
相模湾にて、“外的存在”の大規模反応を確認。
対処部隊は待機せよ。
黒瀬の手が止まる。
(来たか……)
胸の奥で何かが疼く。
あの“空白の時間”が終わりを告げ、再び動き出す――そんな予感がした。
窓の外は静かで、街は何も知らずに眠りにつこうとしている。
だが、黒瀬は知っていた。
この世界は、確実に壊れ始めている。