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転校生がやってきた日

学校に到着した黒瀬陽翔は、昇降口で靴を履き替えると、足早に校舎内を進んだ。

チャイムの鳴る前に教室に入らなければ、容赦なく遅刻扱いになる。それがこの学校のルールだった。


教室に滑り込むようにして席につくと、隣から声がかかる。


「陽翔。おはよう」


声の主は、長身で知的な雰囲気を纏った男子生徒――藤堂爽一郎どうどう そういちろう

黒瀬の数少ない理解者であり、友人でもある。


「おはよう、藤堂。相変わらず早いな……」

黒瀬は眠たげに目をこすりながら答えた。


「それより、今日さ。転校生が来るらしいぞ。こんな時期にな」


「転校生? 今のタイミングって……珍しいな」


黒瀬が首を傾げたその瞬間、教室の扉が開き、担任が入ってきた。

ざわついていた教室が、自然と静まる。


「今日は転校生を紹介する」


担任の落ち着いた声が教室の空気を引き締める。

教壇の横に立ったその生徒――西条さいじょう れんは、静かに一礼した。


銀色の髪が窓から差す光を反射し、凛とした顔立ちは一瞬で周囲の注目を集める。

物言わぬその佇まいは、どこか現実離れしていた。


「西条 蓮くんだ。今日からこのクラスの一員になる。皆、仲良くしてやってくれ」


「……よろしく」


一言だけ。それ以上は語らず、彼は無表情のままクラスを見渡した。

教室に微かなざわめきが戻る中、黒瀬はその瞳と目が合った。


その瞬間、身体が凍りついた。

まるで雷に打たれたかのような、理屈では説明できない衝撃。

そこには感情も表情もない。ただ静かに、確実に、心の奥まで射抜いてくるような目だった。

黒瀬の額に、冷や汗が一筋、つうと流れ落ちた。


「おい、どうした?」


藤堂が心配そうに声をかけてくる。


「……あ、あぁ。ちょっと寝不足でさ」


曖昧に笑って誤魔化す。けれど、心の中の警鐘は止まらなかった。

視線の重さ。空気のわずかな揺れ。

あの“白い空間”で出会った者たちに共通する、得体の知れない違和感。


「じゃあ、西条くんの席は……黒瀬の後ろが空いてるな」


担任の言葉に、西条が静かに歩き出す。

足音が妙に長く響いた気がした。


背後に座る気配。肩越しに感じる視線に、黒瀬は思わず背筋を強張らせる。


その日、黒瀬のノートはほとんど白紙のままだった。

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