見えない崩壊
世界が壊れ始めていることに、
気づいている人間は、ほとんどいない。
道路に走るヒビ割れ、頻発する建物の倒壊、
原因不明の地盤沈下――
それらすべてを「老朽化」や「自然災害」と呼んで、
人々は納得したつもりで暮らしている。
だが、真実は違う。
この世界はすでに、“侵略”されている。
異世界からの侵略者たち――
人類の常識の範疇に収まらないイレギュラーな存在。
彼らは、人間社会に溶け込むように、じわじわと現実を侵していた。
ここは、真っ白な空間。
天井も壁も床も、まるで霧の中のように境界が曖昧で、ただ静寂と白だけが広がっている。
その中央に、小学生低学年ぐらいの子どもたちが数十人、ぽつぽつと並んでいた。
その周囲を囲むように、スーツ姿の大人たちが無言で立ち尽くしている。
やがて一人の大人が、ゆっくりと口を開いた。
「子どもたちよ――。
君たちは特別な存在だ。
未知なる脅威に対抗する力を手に入れ、日本を、そして世界を守ってほしい。」
誰も返事をしなかった。その言葉の意味を、理解していないからだ。
黒瀬も、その中のひとりだった。
春の穏やかな陽射しが、窓から差し込んでいる。
心地よい光にまぶたを照らされながら、黒瀬はゆっくりと目を開けた。
「……またか。昔の夢」
ベッドの上で小さくつぶやくと、のそのそと身体を起こし、制服に着替え始める。
黒瀬 陽翔――15歳。
ごく普通に見える、しかし“普通ではない過去”を抱える、高校一年生だ。