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2 事の真相 

彼の求婚を断ったのは他でもないミランダだった。


「ミランダ! どうしてっ!?」


「殿下! 私はジュリー様に嫌がらせもいじめもされておりません!!」


彼女の発言はこの場にいる多くの人が驚愕した。

先程はわたくしを侮蔑の目で見ていた者達が、困惑の目に変わり、この状況を理解できていない者もいた。


「な、何を言っているんだい? それに殿下なんて()()と同じような他人行儀で呼ばないで、アンドレイと――――」


「殿下! それらの罪状は全て私が引き起こしたものです! ジュリー様とは関係ありません!!」


(あらあら……)


自分にかけられた汚名をどうしようかと考えていた時に意外なところから助け舟が来たことにただひたすらに驚く。

父もこの予想外な事態に大いに戸惑い、さっきからオロオロしている。


「しかし……っ! 君はあの女に教科書を破られたり、噴水に落とされたりしたんじゃ……っ」


「教科書なんて破られたことは一度もありません! ただ殿下に教科書を見せてほしいと言ったら『ジュリーに教科書を破られたんだね』と勝手に勘違いを起こしたのは殿下です!」


「な……っ」


確かに入学当初、二人は上級クラスで席は隣同士だった。

しかし、ミランダと遊び呆けるようになってからは、ミランダは相変わらず上級クラスに在籍していたが、アンドレイは下の基礎クラスに下がっていた。

ちなみにわたくしは勿論、上級クラスだった。


「私の大事なブローチをなくした時だってそうです。……私が見かけていないかと尋ねたら、『可哀想に、アレに物を隠されたんだね』と勘違いを起こしていました!」


「な、なんだと……っ!」


「むしろ、ジュリー様は一緒に探していただき、夕方になっても一緒に探してくれたのです!!」


そう言ってこちらを見てにっこりと笑う。


(……っ!)


そのあまりにも可愛らしい笑顔に、見ているこっちが恥ずかしくなって思わず扇子を広げて顔を隠す。


「それに噴水に落ちたのだって、私がボーッとしていたからですわ!」


周囲はどんどんざわついていく。反対にアンドレイの顔はどんどん青ざめていく。まさか、()()からこんな暴露をされると思っていなかったんだろう。


「そ、そんなわけが……っ!!」


「では、皆さんにお聞きします。この中でジュリー様がいじめているところを見たことがある人はいらっしゃいますかっ?」


すると、周りはざわざわと話し始める。


「そういえば見たことないな……」


「ジュリー様は図書室で勉強してばっかりだったような……」


「確かに図書室にいることが多かったですわ……」


そんな言葉が聞こえてくると、ミランダは再びアンドレイに向き直った。


「これでもまだジュリー様をお疑いになられるのですか?」


「っ!」


アンドレイは流石に周りの反応を見て何も言えなくなってしまった。


「だ、だが、君は確かにそう――――」


「私はそんなこと一言も言った覚えはございません」


彼の言葉にミランダはキッパリと言い切った。


「そもそも私は殿下とジュリー様が婚約されていたことを知っていました。

ですから、一度ジュリー様に咎められた時に私は殿下とはお会いするのは控えようと思ったのですよ?なのに、嫌がる私を半ば無理矢理話しかけにきて、腰を抱いたり、手を重ねてきたりしてきたのはそちらですよ?」


「な、な」


アンドレイはもう言葉も出ない。


しかし…………、


(“半ば無理矢理”ですか……)


確かに一緒にいるところはよく見かけたが、その時ミランダが笑っていたかどうかといわれるとそれは少し難しい。

アンドレイはそれはもう楽しそうに一緒にいたが、彼女も一緒だったかどうかはまた別の問題だ。


「しかも、よくご友人とお話しされておりましたよね?『あの女は顔だけいいが、それ以外は全く魅力的ではない』『他人より勉強ができるっていうだけの傲慢な奴だ』と。

ジュリー様は誰よりも聡明で(たゆ)まぬ努力なさっている素晴らしい方です。

そんな方を貶めて……っ! 無実の罪まで着せるなんて……っ! あなた方はお恥ずかしいと思わないのですか!? 

それになんですか!? 婚約破棄って!!

今日までそんな話聞いたことがないですよ! 大体、こんなにも美しい婚約者がいながら、それを手放すなんて頭がおかしいんじゃないですか!?」


先程からずっとミランダが怒り狂っている。

前からずっと不満を溜め込んでいたのなら無理もない。


というか、さっきからわたくしのことをずっと褒めているけど、そろそろやめて欲しい。


(こっちが恥ずかしくなる……っ!)


しかし、やはりというべきなのかアンドレイはわたくしのことなど好いていなかった。

まあ、それに関してはお互い様だ。

わたくしも彼には友愛ですら抱いていないのだから――


「っ! だ、だが、君は階段から突き落とされたんだろう!?」


「それはジュリー様に見惚れていたら、階段を踏み外してしまっただけです!!」


(…………へ?)


見惚れていた……?

今そんなこと言わなかった?

誰に? わたくしに?? 本当に???


周りも同じ気持ちだったらしく、先程までうるさかったのが一瞬で静まりかえった。


「……………嘘なんだろ?」


「本当です。むしろジュリー様は私を助けようと引っ張り上げましたが、結局は二人で階段を転がり落ちたんです」


そう言うと、その様子を見たことがある人が次々に話し始める。

あの場所は人通りも多く、その様子を見ていた人は少なくなかったらしい。

みんなミランダの言葉に同調する。


「それなら私も見たわよ」


「わたくしも見ましたわ。ジュリー様が咄嗟に受身を取っていなかったら二人とも大怪我していたかもしれないと……」


「先生達が話しているところを聞いたことがあるぞ……」


「では、やはり……」


もうこの場にいるほとんどの人がアンドレイの言葉を信じなくなった。

本人はこのようなことになるとは思ってもみなかったようで、ひたすら声を荒げるしかなかった。


「では、君が刺客に襲われたのは……っ、あれは大勢の人の前で起こったんだぞ!!」


「それに関してはわたくしの方から説明させていただいても宜しいでしょうか?」


わたくしはそう言って、先程までずっと広げていた扇子をパチンっと仕舞い、アンドレイ達の方に向き直る。


「結論から申し上げますと、私が刺客を放ったというのは完全に濡れ衣です」


「では一体誰が……っ!」


「それはわたくしが知るところではありません。

どうぞご自分で調べてみて下さい」


「なんだと……っ! お前はこの私を愚弄するというのか……っ」


「愚弄などしておりません。わたくしに聞くより、ご自身で調べたほうが早いと思いそう言ったまでです。

……それと、わたくしはもうあなたの婚約者ではないのでどうぞアレとか、あの女と呼ばず、“ジュリー嬢”とお呼びいただけたらと思います」


「……っ!」


「まあ、これでもわたくしの言葉が信じられないのでしたら、どうぞ我が家の帳簿をご確認ください。もし、その刺客がうちで雇っている者であれば、少なからずお金が動くはずですから」


そう言って私は元婚約者にニコッと笑顔を向ける。


(初めて彼に笑顔を見せたかもしれない……)




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