1回目のリセット ― 夢を生きる
夕暮れの屋上。オレンジ色に染まる空が、静かに世界を包んでいた。
ユウトは一人、スケッチブックを膝に、空を見上げながら鉛筆を走らせていた。
風が吹き抜け、ページをめくる。その音が、静寂に溶ける。
「……お前、また絵描いてんのか」
ふいに背後から聞こえた声に、ユウトは顔を上げた。
振り返れば、そこにはリュウ。
制服のネクタイを緩め、髪を風に遊ばせながら、いつものように笑っていた。
「やっぱそっち行くんだ?」
ユウトは、まっすぐに頷いた。
「うん。今回は、もう迷わない。夢、選ぶよ」
リュウは口元をほころばせる。
「なら、俺ももう一回バンドやるか。兄貴に負けてられねーしな」
そう言って、彼はユウトの隣に腰を下ろした。
二人の影が、夕日に溶けていく。
その時、ユウトは心から思った。この時間が、永遠に続けばいいと。
推薦で、東京の芸術大学に合格したユウトは、迷いなく都会へと旅立った。
リュウは地元に残り、バンドを再結成。ライブハウスを回りながら、仲間たちと再び音楽を鳴らし始めた。
大学では、ユウトの才能はすぐに注目された。デッサン力、色彩感覚、構成力。どれもが飛び抜けていた。
二年生の終わりには、有名デザイン事務所からスカウトを受け、在学中からプロとしての仕事を任されるようになった。
卒業後は個展を開き、そこでも高評価を得る。
やがて名のあるギャラリーに作品が並び、雑誌の若手特集でも取り上げられるようになった。
夢は叶った。
過去の後悔を塗り替えるように、すべてが順調に進んだ。
けれど——
ユウトの心には、ぽっかりと穴が空いたままだった。
成功を掴むたびに、自分が何かを置き去りにしているような、静かな不安が胸に沈殿していく。
リュウとは、次第に連絡が途切れていった。
お互いの夢を優先するあまり、会う機会は減り、言葉もすれ違い始めた。
「こんなはずじゃなかった」
心のどこかで、ユウトは繰り返しそう呟いていた。
そして、ある日——
リュウからの一本の電話が、すべてを変えてしまうことになる。