1回目のリセット ― 夢を生きる
目を覚ました瞬間、ユウトは息を呑んだ。
天井の色が違う。蛍光灯の明かり。木製の机。ざわつく声。窓の外には、満開の桜が風に舞っていた。
「……え?」
制服の袖が視界に入った。指先が震える。机の上には、一枚の封筒。
——美術大学の推薦状。確かに、あの時受け取ったはずのもの。
「戻った…のか……?」
夢とも現実ともつかぬ混乱の中、隣の席に視線を向けると、そこには――
「どうした兄貴? 朝から幽霊でも見た顔してるぞ」
双子の弟、リュウがいた。眠そうな目をこすりながら、口元をゆるめていた。
ユウトは、胸の奥から湧き上がる衝動を抑えきれなかった。
この声。この息づかい。この近さ――どれも失われたはずの時間だ。
涙が、こぼれそうになるのを必死に堪える。
「いや……なんでもないよ」
言いながら、ユウトは拳を握りしめた。
高校2年の春。人生で、最初の大きな分かれ道だったあの時。
夢を選ぶ勇気が出せず、諦めたあの分岐点に、今、自分は再び立っている。
(今度こそ、美大に行く。絵を描き続ける人生を、生きてみせる)
そして何よりも――
(リュウと、ちゃんと向き合う。絶対に、失わない)
桜の花が風に乗り、教室の窓からふわりと舞い込んだ。
それは、未来へと続く道のはじまりを告げる合図のようだった。