4回目のリセット ― 正義と喪失
その夜。
ユウトの暮らす小さな部屋に、またしても風が吹いた。
窓辺のカーテンが波のように揺れ、静かな空気を切り裂くように、あの白い女が現れる。
その姿は変わらない。白いスーツに、氷のような眼差し。けれどその輪郭には、どこか人間らしい影が宿っているようにも見えた。
「最後のリセットを使いますか?」
女は、いつものように淡々と告げる。
だが、ユウトはもはや驚かなかった。むしろ、その問いに、わずかに微笑んだ。
それは、数え切れぬ選択と喪失を経た男の、深い諦念と静かな受容の笑みだった。
「もういい。俺は、ここで終わる」
その言葉に、白い女の目がわずかに揺れる。
そして彼女は、静かに首を振った。
その仕草には、冷たさではなく、どこか祈るような、優しい哀しみが宿っていた。
「それはできません。
あなたには、“最後の選択”が残っています」
彼女は、ユウトの前に手を差し出した。
白く細いその手には、もはや冷気はなく、むしろ微かな温もりが宿っているように感じられた。
「5回目、どう生きますか?」
その問いに、ユウトは目を閉じた。
胸の奥に、これまでのすべてが流れ込む。
夢を追った日々。愛を選んだ夜。家族を救いたかった自分。そして“正しさ”と“真実”を求め、迷い、苦しみ、すべてを失ってきた。
だが今、彼の心にあるのは、そのいずれでもなかった。
「今度こそ……やり直すんじゃない。“託す”んだ」
ユウトの声は、小さく、しかし澄んでいた。
それは、自らの手で未来を変えることを諦めた男が、それでもなお信じるものを、誰かに託す決意の声だった。
そしてそれは、4度の人生を経た彼にとって——
初めて、自分自身を手放し、世界へ希望を委ねるという“最も強く優しい選択”だった。




