運命の分かれ道
雨は、静かに、しかし確かに彼の肩を濡らしていた。
駅のホームの先端。夜の帳がすべてを覆い尽くす中、神林ユウトは立ち尽くしていた。線路の向こうに広がる闇が、まるで過去と未来の境界を曖昧にしていた。
神林ユウト、36歳。
夢を追った若き日々は遠い記憶となり、現実は静かに彼の足元を削っていた。芸術家を目指していたあの頃、信じていた未来。だが、いつしか彼は筆を置き、現実に屈した。
家族を得た。だが、それすらも失った。
友情は時とともに薄れ、最後のよりどころだった弟も、五年前、突然の交通事故でこの世を去った。
「なあ、リュウ……俺たち、どこで間違えたんだろうな」
言葉は誰にも届かない。ただ雨音だけが、彼の胸を打つ。
――そのときだった。
背後から、静かな声が降ってきた。
「……1回目、使う?」
振り返ると、そこに一人の女が立っていた。白いスーツに包まれたその姿は、まるでこの世のものとは思えなかった。
肌は透き通るほど白く、瞳は氷のような青。雨粒すら彼女には触れないかのように、周囲だけが異質な静寂を纏っていた。
「人生をやり直せる。5回まで。君は、どうする?」
その言葉に、ユウトは何も問わなかった。ただ一つ、深く頷いた。
瞬間、世界が白く染まった。