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闇と閉ざす者①【失意】


 ロプスがコラルドの魔手へ必死に抗っていたその頃。

 または、ジャノがモンデラッセの傭兵頭と一騎打ちで火花を散らす最中。

 とうとう主人の押しこめられた隠し部屋への扉を見逃して、ユオルが三塔の捜索すべてを空振りで終え、たまらず絶叫を響かせた直後。

 迷惑な大風のような突進をおそれ避難していた傭兵たちの間を割って、混乱の場に入ってきたものがあった。


「やれやれ、騒がしいと思ったら。とんだ客が紛れこんでいたもんだ······」


 カツカツと靴音を響かせて階段をあがってきたのは、騎士ホボルクだった。とくに酔っている風でもなく、油断なく甲冑に身を包んでいるあたりが如何にも厄介な風情だ。

 これを認めたユオルは、ここにきて最大の壁となりえるだろう相手の影に一瞬たたらを踏んだ。

 騎士だって! おいおい、こんなのがいるなんて聞いてないぞ!?


 ホボルクはどうでも良さそうな視線で、侵入者であるユオルへ一瞥(いちべつ)をくれる。


「生意気にも剣を提げてはいるが、身体つきはなっていない、か。成程······?」


 が、その割には。

 まるで値踏みするかのようなホボルクの眼光が、ユオルの左腕でわずかに瞬く腕輪の辺りで留まった。


「······何処で死ぬ? コソコソと天井裏で鼠のように干からびるか。それとも外で犬として埋められるか」


 どっちもゴメンだ······!


 そうは思いながらもユオルは逡巡する。


 どうする。団長はまだ見つかっていない。残念ながらマイシャの審眼(ハナ)は外れたのだ。もともと邸も広いうえ、壁に阻まれれば精度は落ちるといっていた。それは上下の差にしても同じだろう。尖塔の小部屋のなか、との意見はあくまでも推測だった筈だ。

 それでもなんとか感じたということは、居ることには居たが、あるいは団長のこと。すでに自力で脱出した?

 だが······くそ、どちらにしてもコイツが見逃してくれる理由もないか。


「どうした? ソイツを全力で使いたくはないのか? どうせ死ぬにしてもまだ希望(すくい)はあるだろう」


 龍晶のことも見抜かれている。他国の戦法とはいえ、騎士というからには識っていて当然なのだろう。そのうえで誘っている。やはり相当厳しそうだ。

 だが······あえて乗るか? もしも団長が脱出しているとするなら、一階もあらためるのは手だ。上手くすればマイシャたちと合流できているかも知れない。そうなれば後はコイツを振り切ればいい。



「······やれやれ。お前を剣士として扱ってやろうと言うんだ。火付きの悪い男だ。これなら満足か」


「!! ──おまっ、それ······はッ······!?」



 頭の芯に痺れがはしったように思った。ズイ、と逆手にもって突き出された物は。

 闇夜に白く浮く、自身もよく見知った得物ではないのか。



 宝槍・戦乙女!



「──何処で! それをッ! !」


「······火はついたか?」


「······分かった。平場にするよ。ただし一騎討ちだ」


 ニヤリと嗤うと、ホボルクはすでに彼の登場に腰のひけている傭兵どもへ眼光をくれ、道を開けさせる。





 外は相変わらず月が顔をだし、草葉が微風に揺れている。よく手入れされた庭の芝も、ごくサヤサヤとしずかな音をたてている。

 ホボルクは足を止めたユオルから適度な間をとって、ザスリ、と戦乙女を地に突き立てると振り返った。


「······なんの真似だよ」


「なに、余興さ。この剣は勝手にもっていくがいい。······もしも俺を後退りさせられたら、の話だが」


「······やる前に聞く。ロプスは何処だ」


「あの傭兵小娘のことなら、残念だな。天井裏の隠し部屋に運ばれて、いまごろ馬鹿息子に可愛いがられているだろうよ」


 くッそ、裏目かよッ!


「動くな」


ビシリと縫い留めるかのようにホボルクが鋭く発する。


「背を見せられては斬れんといえる程、俺は礼儀を守る手合ではないぞ」


「······っ」


 背筋を凍らせるような気魄が、その言葉が真実であるとを告げている。

 かくなる上はマイシャに全てを託すしか道はない。たれば自分が多少なりともこの男を足止めするしかないのだ。


 ユオルは観念して剣を構え、わずか腰を落とす。

 ホボルクは髭面の口許を歪めると、腰に()いた剣を抜きはなつ。自然体でたった。


 龍晶が······戦慄(わなな)いている。まるで緊張に呼吸を荒げているような······。


 ユオルはあらためて対峙する騎士を睨みつける。

 白い月光の下、つめたき鎧が光を(たた)える。夜風に遊ぶ伸び放題の癖毛は、いかにもうらぶれたものを感じさせた。

 騎士らしくない、とは初見でも思ったことで、だが、ああして剣を握ってたつ姿はやはり紛れもない騎士だ。本人の言のとおり礼節とやらを守る気はないらしく、一騎討ちというのに、こちらの名をきくことも、己の名を誇ることもしてこない。

 ただ、あまりにおおい戦歴にすり切れた古強者。そんな感を受ける。


 やはりあれだけ間を置いたということは、やはり何かあるのか······


 騎士、と聞いてパッと思いつく戦法は、やはり龍装術だろうか。ユオルは、ロプサーヌやアスタミオなど、サヴェリウス出身の「騎士の国の騎士」にしか出会ったことがないので、そんな考えに至るのは自然といえば自然であるが。

 じつは六国どの国にも騎士──またはそれに準ずる身分は存在する。彼ら「戦う人」は、大陸に時代を問わず存在し続け、それぞれの地に適した独自の進化を遂げながら息づいてきた。

 大戦から百有余年。薄れがちながらも彼らが存在し続ける理由。それこそが人々の哀しみを生む要因だというにも関わらず。


 ······どう出るんだ。まるで読めない。


 空虚とでも向きあっているかのような静けさだ。ああして構えもしないというのも自信の現れか。自分(こちら)のごとき素人若造の剣なんぞ、何処から来ても捌けるということなのだろう。

 ええい迷うな、結構じゃないか。時がかかればその分こちらとしては首が繋がるのだ。

 マイシャが気づいてくれるまで生き延びる。そのことだけに全力を注ぐ。こうして話に乗ってしまった以上、奴をどうにかしなければ次はないのだ。



「全力だ······! 振り絞るぞ、龍晶ッッ!」



 応えるように。

 いつにも増して強烈な輝きを放った龍晶が、周囲の空気を繰り、旋風を巻き起こす。



「いぇああああァァァッッ! !」



 芝を踏み、寝かせた剣を我が身で隠しつつ、ユオルは一気に間を詰める。


 たとえ若輩といえど、龍晶に護られる者の圧力は軽んじられぬ。巧者ゆえによく識るホボルクも表情をひき締め、真っ向から迎え打った。

 重い手応え。くわえて相手は金属の全身鎧を着けており、どれだけの大風を起こせたにせよ容易に体勢を崩すことはかなわない。

 さらに、ユオルの龍装術はやはりまだまだ浅学だった。手段としては風の壁を叩きつけるくらいで──これはロプスも似たようなものであるが──刃と成し、敵の肌を裂くまでには至っていない。まずは防衛。それがサヴェリウス流であるためだ。

 幾合か打ち合うものの、まったく乱れが見出せない。

 やはり純然たる剣術の力量差はあきらか。単純に純粋に、こいつは剣士として強い!


 ぐ······まるで子供扱いか!


 己がいかに剣を識らないか、ユオルは思い知る。

 だが今ない物をねだっても役には立たない。格下はいつものこと。挑戦者としてなんとかするしかないんだ······ッ!



「ウラァァァァッッ! !」



 さらに出力をあげ激しく風を叩きつけるも、騎士は構うことなく力押しで競り合いにまで持ちこんでくる。


「若僧。お前、どこでソレを手に入れた。サヴェリウス人ではなかろう?」


 ホボルクが怖ろしく熱の籠もらぬ瞳をむけてくる。


「いや、騎士見習いですらない。そんな奴がなぜ龍晶を飼っている。誰に教わった」


「答える義理なんか──あるかッ!」


 刃をずらせながら退きつつ、より踏みこもうとした相手を風で押し戻す。ホボルクはニヤリと嗤って腰をあげた。


「隠しても分かるがな。僅かだが······貴様のやり様にはサヴェリウス流が臭う。誰に教わったかは知らんが。貴様はよほど筋が悪かったらしいな。基礎のみを馬鹿正直に刷り込まれやがって。フ······あの国らしいことだ」


「······なにを嗤う。アンタだって騎士ならサヴェリウスの名に興味くらいあるだろ」


ホボルクの皮肉めいた笑みがスウッと消え失せる。


「ないさ、今はもうな」


 荒んだ騎士は嘆息とともに吐き出した。


「──まあいい。残念だがお前では俺は殺せないらしい。糧になってもらうぞ、相棒(コイツ)のな」


 そういって、チャラリと首元から鎖をたくし上げる。繊細な鎖細工のさきにとまった、ごく小さな灰褐色の塊がほんの僅か、月光を弾きかえして揺れた。


「······それ、は」


「俺が国を捨てた時、一緒におん出てきたのさ。

 ──さァいいぞ、貧相でもコイツは戦士だ。小娘よりはお前の舌も満足するだろう······! 存分に喰らえ、ブルグウン! !」



 ドクン、とたたえる光が拍動したかとみえた瞬間、それが反転し、まるで、そう──蜘蛛の巣のようなおぞましい灰色の流れが、ホボルクの胸元から忌まわしい食指を広げた。

 それは虫を喰らう奇怪な華。それも虫の代わりに人をすらとって喰いそうな。

 灰色の流れはユオルの生み出す蒼緑の風をまったく意に介さずあたりに満ち続け、こちらの領域を侵食してくる。


「んな······ッ!?」



ニャンの日ですね。

猫好きがより活気づく一日です。

今日は猫を愛でて過ごしたい。けどちかくに猫がいない。

···猫小説でも捜すか。(グスン)

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