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野心【思惑】


明けましておめでとうございます。

本年も、なにとぞよろしくお願いします。

(だいぶ遅い感じではありますが···)


一月中に〜という予定だったのですが、四話終了までを一気更新することは厳しい感じになっております。

てすので、出来上がっている分だけの更新となります。


※だいぶ間が空きましたので、これまでのあらすじと人物紹介を載せておきます。いらなければとばして下さい。



これまで


じぶんの騎士団の出資者をつのり始めたロプサーヌ。

友人の父、グランツの護衛となり、仲間とともに異国カドヴァリスへとやってくる。だが待っていたのは、取り引き相手の死と、跡継ぎと目される少女の失踪という事態だった。

ロプスらは二手にわかれて行方不明の跡継ぎ捜しにのりだすが、彼女の前に、跡継ぎ問題にからむ貴族の子息があらわれる。子息はロプスに興味をもって······


カーラ 跡継ぎの令嬢(三女)。父のような鍛冶師になる

    ことを望んで家を出奔した。現在ユオルらと行

    動中。


ジャノ 鍛冶師。カーラの父の愛弟子だったが、ライバ

    ル商会に寝返り、カーラを狙う。二丁の鎖鎌に

    くわえ暗器をつかう。


ジーナ カーラの姉(長女)。父亡き後、家と商会をとり

    仕切っている。


ノーラ カーラの姉(次女)。姉妹ふたりを心配してい

    る。


スリベロン 領主貴族家の子息。カーラと結ばれ、商会

      の主になろうと画策している。

      ロプスにも興味をもった。


モンデラッセ カーラの家と双璧をなす商会の主。スリ

       ベロンにすり寄り、暗躍する。


グランツ  ロプスらの依頼人。商会主。


ロプサーヌ 主人公の少女。現在傭兵活動中。

ユオル   主人公の少年。カーラを保護した。

マイシャ  ロプスの一党。ユオルと行動中。

ニコラ   ロプスの一党。ロプスに付き従う。



 ウィルニッツ邸の前通りまで帰ってきたときだった。ロプサーヌとニコラは、突如派手な恰好をした一団にとり囲まれた。


「······なに。君たち」


「大人しくついてこい。我らが主人がお前に御用だ」


 鼻持ちならない言葉にみると、かこむ色煉瓦(レンガ)のような連中のむこう、三騎の騎馬がならんでいる一団がある。その中央の、道化師一歩手前といった痩せ肩の男が、ニヤニヤしながらこちらを眺めているのが分かった。


「聞いて驚くな。あの方は一帯のご領主、スリベロン子爵家の若君様だ。勿体なくもお前にお目を止められたのだ」


家来は威気高々に、いかにも誇らしく背をそっていう。だが対する少女の反応はじつにあっさりとしたものだった。


「ふーん」


「貴様ぁ······若様が呼んでおられるのだぞ、分かっているのか!」


 誇りに満ちた言葉で熱っぽく語ったのに、一語であしらわれた。これが癪に障ったらしい。派手な男らは眉間にシワを寄せて詰め寄ってくる。


「失礼」


 たまらず彼女を庇うようにニコラが長い身を滑りこませた。一団に背を向けると、声を落としてヒソヒソと耳打ちする。


『いけません団長、ここはおとなしく合わせておかないと』

『なんでだよ。たかだか子爵家になんで私が頭を下げなきゃならないの』


 そうなのだ。目の前にいるこの彼女は、曲がりなりにも一国の王女なのだ。その正体が盟主国サヴェリウス王家、サルヴェンドラに連なる姫だと知ったときには、さすがに自分も驚かされたものだが。


『それはそうですが。いまここで身分を明かすつもりですか。よしんば彼らを退けたにしても、彼らは上に報告するでしょう。そうなればカドヴァリスが貴女の身柄をどう利用するか、予想はつきませんよ』

『むぅ······』


 たしかに。三つ首龍紋の護剣があればたやすく身の証はたつ。が、それを利用する機会は慎重にならなければならないのだった。


『ここは他国、そして我々はこの国ではいち傭兵。······よろしいですね?』


あらためて言い含めると、ニコラは鉄壁の微笑み顔でもって男らに向きなおる。


「御無礼お許しください。我々は他所の者でして、こちらへは初めて参った次第。ご尊顔を存じあげませず、ご容赦ください」


「······おまえ、その様子だと大陸神教の僧だな。······ふん、坊主ね。神教の者なら誰もがありがたがってくれると思うなよ? この国では貴様らのようなまやかしなんぞ、そうは通じないんだ。邪魔立てすれば、この地での坊主の扱いというものを教えてやるぞ!」


(カチン)


「······へえ? どう扱って貰えるのか、是非みせてもらいたいもんだね」


 仲間が悪様にいわれてまで黙ってはいられない。おまけに足を棒にするような調査が徒労に帰した直後だ。ムシャクシャが溜まっている。頭ではわかっていても、しぜん語気が荒くなるのも無理はなかった。



「なんだこのチビ! 痛い目を見たいのかッ!?」


「やれるものならッ!」



 にわかに緊張が弾け、誰もが得物に手をかけた瞬間、



「お待ちください!何事でございますの!」



凛として割ってはいった声に、一団はハッとして静まる。いつの間にか邸の門がひらき、ジーナ・ウィルニッツが使用人たちを従えて立っていた。


「ジーナ・ウィルニッツ······」

「ジーナさん」


 普段から見慣れているものか、派手な集団をみてそれと察したのだろう。ジーナは表情を落ち着けると、まえにわだかまっている者らを割って、スリベロンの馬前へと進みでる。

 さすがは貴族家の令嬢。優雅な一礼をみせていった。


「これはこれは、スリベロン様。そしてモンデラッセ殿。ようこそいらっしゃいました。当家へ御用で御座いますか?」


何事かいってやろうと身構えていたらしいスリベロンも、こう丁重にでられては悪口も嫌味も鈍らざるをえなかった。





 邸内で一等上質を誇る客間。

 厚手の絨毯に適度な遊びをおいて置かれる、深い光沢をのぞかせる調度品が落ちつく心地のよい空間。ただ、カップを傾ける音のみが聞こえる。

 上座正面に座したスリベロンが満足してカップを置くと、左にモンデラッセ、背後を騎士ホボルクに囲まれたなか、ただひとりこれにむき合うジーナが、静かにきり出した。


「スリベロン様。本日は当家にいかなる御用命でございましょう」


 たおやかに優美に。けして棘みのない口調は、どこか人馴れしたしたたかな猫を思わせる。


「いや何。その後、もろもろの進捗はどうか、と思ってな。寄ってみたのだ」


 スリベロンは余裕をとり戻して、見定めるような目で彼女をみつめた。


「······進捗、とは?」


「とぼけられては困る。我が花嫁の婚姻支度の件についてだよ」


 点数の稼ぎ時はいまだとばかり、横合いの席からモンデラッセが舌を添えた。


「ご三女カーラ様のご健康を、我が主は案じておられるのですよ。お姿がみえなくなってもう二週間ということは、こちらにも伝わっておりますぞ」


「あら、そのことですの」


多少は動揺を期待したのだが。意外にもジーナは落ち着き払っていた。指先で愛想良い笑みを浮かべた口許を隠してさえいる。


「あれは昔から聞かぬ気が強うございまして。以前にも二、三度はございましたことですのよ。ご心配には及びませんわ。そのうち気が済めば帰って来ましょうもの」


「しかし二週間ですぞ、二週間。いくら何でも悠長が過ぎませんかな」


「ご心配痛み入ります。けれど······モンデラッセ殿? あの娘にとって、一帯は遊び場のようなものですわ。顔見知りもおおうごさいますし、ご領主様の治政のお陰で、不逞の輩も寄りつきませんでしょう」


「──たしかにな」


 暗に揶揄された形になってぐっと黙ったモンデラッセに、ふたたびスリベロンがかわってうなずく。


「だがそういうことを心配しているのではない。この寒空の下にだぞ?すぐに最も冷えこむ時期がくるという時にだ。なぜ貴家は手をこまねいているのか、といっているのだ。我が花嫁が、婚姻の秘蹟を授かる前に病にでもなったらどうする」


「まったくです。貴女にとってもお妹御でありましょう」


「ええ、ええ。勿論たいせつな妹ですわ。だからこそ、あの娘の気持ちを大切にしたい。とはいえ、もう我儘を許せる状況でないことは、私も承知しております。ですので、当家も方々に人をやって捜させておりますの。けれど·····」


と頬にやんわりと手を当てる。


「あれは昔からかくれんぼが得意で。いったん本気で隠れたら一日かけても見つけられない、なんてこともありました。ふふ、懐かしいですわ」


 なんというか。会話が微妙に噛み合っているようでいない。

 狙ってのことなのか、ごく自然になのか。

 ジーナの柔和な態度はのらくらと、「今」を呑み込ませようとせっつく両者の追求の針(つりばり)を、隙のない鱗でつるりと滑らせひっ掛けさせもしなかった。




「あの人やるよ。ホントに貴族のお嬢様なの? 天性の商人だね」


 隣室。何かあればいつでもなだれ込めるようにと、わずかな扉の隙間から覗き見ていたロプスが感嘆していう。許されるのなら口笛のひとつも鳴らしているところだ。


「ええ、本当に。なかなかの肝の太さで」


ニコラも首肯する。

 推し量るに、没落貴族の令嬢として忍耐を強いられて育ち、母が再婚してからは商人たちに触れて育った。そうして貴族としての立ち振舞いに商人としての柔軟さが混じり合った結果、あれだけの人物が出来上がったとみえる。実際正面から相対すると手強いのだろうなあ、とロプスは、グランツと対峙した経験からも推測する。

 いま、自分たちはあのいけ好かない貴族の背後から会見の場をのぞき見ている。つまり、現在ジーナがどのような顔をしているのかがよく見えるわけだが。

 やはりあれは出来物だ。ちょっとやそっとじゃボロを出すこともないだろう。

 彼女の予測どおり、その後も遠回しに脅しをかけてくる両者の追求を、ジーナはしなやかに躱し続けるのだった。




 とうとうどうにも仕方なくなったスリベロンは、これ以上は無駄だと覚ったのだろう。口振りだけは、



「では支度だけは遅れぬよう頼みますぞ」



と、負け犬の遠吠えのように言いおいて席をたつ。せっかちにも使用人たちに見送られて、ひと足先に退出していった。

 貴族家ウィルニッツにとっての厄介者は去った。だがもうひとり、まだ商会主としての難敵が残っている。

 その男、モンデラッセが、主人につづいて退出しようとして、ふと思い出したように足を止めた。ゆたりと唇をひらく。わざとらしく、すこし誇張した風にいった。



「ところで······なんでも港でカーラ様によく似た娘をみかけた、と私どもの職人が申しておりましたなあ」



 会見全体をとおして見事に動じなかったジーナが、最後のこの瞬間一度だけ、わずかな動揺をみせた。

 老獪な男の狙いどおりだ。この事実がどのような意味をもつのか。モンデラッセは商人としての観察と嗅覚であまさぬよう捉えるつもりなのだ。


「──あら、そうですの。それは耳寄りですわね。ありがとうございます。ただちに家の者を捜しに向かわせます」


「もしよろしければ、私共の手の者に手伝わせましょう」


「ありがたいお申し出ですけれど。この度のことは当家の問題、いたらない(しつけ)をした責任でもありますので」


 じっとのぞき込むように見つめるが、これ以上の芳しい反応はみられないようだ。モンデラッセは自重して踏みこむことはやめた。

 ただその可愛げなくむけられた鉄面皮が(シャク)なので、これだけは噛ませておいてやる。



「ときに。相続権の申し立てを行っておられるそうですが······間に合えば宜しいですな」



 知っているぞ、と匂わせながら。モンデラッセは意味深い笑みをたたえていった。ぴくり、とごくわずかにジーナの肩の線が震えたのがわかる。

 満足な反応だ。不躾にも彼女に近すぎるほど歩み寄り、ごく(ささや)くように言葉を続ける。


「よければ······ノーラ様ともども私の所へいらっしゃい。どうせお館様がカーラ様と結ばれれば、貴女たちは家を追い出されるしかないんです。今後の身の振り先は多いほうがいいでしょう?

 貴女になら······いくつか店舗を任せても良い」


「······」


 スッと香りを吟味するように息をすって、モンデラッセは彼女の反応をうかがう。ジーナが明後日のほうを微動だにしない視線で見つめ続けているのを好ましい兆候と受けとって、勝ち誇ったように部屋を出ていった。





 脂ぎった男の背を冷徹に見送ったあと、ジーナはやっとひと息をついた。そっと中を窺うように、廊下側の扉からノーラが入ってくる。


「大丈夫なの、姉さん」

「······ええ、平気よ」


ジーナはわずかに口許のみで笑むという器用な表情をみせてから、奥の方をそっと見ている。

 ノーラがかすかに眉根を曇らせた。

 それはそうだろう。いつもながら姉は見事にこなしてみせた。ただ、今の言葉はさっきまでの会見の成果をとう言葉ではないつもりだ。

 ジーナは直前までは僅かに開いていた奥の扉がきちんと閉まっているのを確認すると、慎重に、さらに身を寄せて妹へと囁く。


「わかってる、大丈夫。きっと間に合うわ。あの娘が逃げ隠れしているうちに、なんとしても相続権を勝ち獲るの。······私たちで母様の無念を晴らすのよ」



 昏く、不穏な言葉が。たったふたりの間にだけ密やかに共有された。





 いっぽう、隣室でも不穏な会話がくり広げられていた。


「ねえ。あえてアイツらの誘いに乗ってみちゃどうかな」


 ロプスのぶっ飛んだ発想に、ニコラは呆気にとられて反論する。


「何ですと? とんでもない! 行けばどんな目に遭うか分からないのですよ!?」


 それはそうだろう。いったいなんの狙いがあってそんな危険を冒す必要があるのか。彼女の脳内で、いかなる論理の飛躍があってのことなのだろう。

 とここで、かつて独りで無謀な調査にで、散々無茶をやらかしたという彼女の武勇伝(ユオル談)を思い出した。このお姫様には、どうにも己の立ち位置について認識が希薄なところがある。いい加減そのへんを改めるべきだ。一団の旗主ともなるのであれば尚更だろう。


「もちろん、動くのはユオルたちが帰ってきてからだけどさ。でももしかするともう、そのカーラって子、奴らに捕まっちゃってるかも知れないでしょ」


「まさか。そんな事ありえるものですか。先程の奴らの様子は見たでしょう?」


「あの道化子爵はね。でもあの商会主はどうかな。ひと筋縄では行かない相手に見えたよ、あれは」


「ですが······彼が子爵に黙ってカーラ嬢を抑えてなんの得があるというのです?」


「うーん、それは、まぁ······」


 ロプスは口を濁す。どうにか思い止まらせられたようだと覚り、内心ニコラはホッと胸を撫でおろした。

 思い知る。これは想像以上にあつかい難儀な団長様だ。

 自分ひとりではとても、この豪放な団長殿を御し続けられる自信がない。ユオルには一刻もはやく帰ってきてもらわねば······


 ところが。

 願い虚しく、どうした訳か。まる一日たってもユオルたちが帰ってくる気配はなかった。


「遅い! きっと何かあったんだよ!」


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