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夢語り【蕾刈り】

メリークリスマス♪

お寄りくださりましてありがとうございます。


そして皆様、今年も一年、お疲れ様でございました。

お世話になりました。

本年最後の更新であります。


次部からは組みあがった後、まとめて一気に更新するつもりでおります。(一月中になんとか)

よろしければまた読んでやってください。


それでは皆様、どうぞ良いお年を。





 カール、と名乗った少年がふたりを案内したのは、波止場の一角にある、ちいさな吹き溜まりのような場所だった。

 赤茶けた煉瓦倉庫の建ちならぶ、いり組んだ路地の奥の奥。おおきな建物に囲まれてどん詰まりになったところへ、共有のものであるのか荷車や笊籠(ざるかご)なんかが、簡単な屋根をつけたなかになげ出してある。ほかにも古びた漁具を収めた、小屋というにはみすぼらしい貧相な屋根と柱をもつものが幾つかあり、むき出しの路面(ゆか)には(わら)が積み敷かれていた。


 まったくよく見つけたものだ。

 ここまでくれば水辺からくる強い風も届かないし雨も凌げる。ちよっと注意は要するだろうが、中央で火でも焚けば暖もとれようし。実際にそうした跡もあった。


「まあまあだろ? ま、みんなで使ってる場所なんだけどな」


 さあこっちへ、とカールは嬉しそうにふたりを自分の使っている一角へ連れていき、藁のうえに座らせた。


「さっきは助かったよ、兄ちゃん達、ありがとな。お礼をしたいんだけどいま手持ちがなくってさ······」


 いいながら、ちょっと御免とふたりの間に割って入り、奥をゴソゴソやったかと思うと、なにやらとり出してきた。

 ほい、とふたりに手渡す。二本の短剣(ナイフ)だった。


「これ、やるよ。こう見えても凄腕の鍛冶師が鍛えた逸品なんだぜ?どっちも俺の宝物。これで貸し借りはナシな」


 木彫りの鞘に収まったやつをひき抜いてしげしげと眺めてみる。お世辞にも褒められる物でないことは、素人目でもわかった。屑鉄を集めあわせたのかと思えるほどに品質は悪い。刃はあるかないかで全体のバランスもおかしく、不恰好な、よくいえば愛嬌のある代物だった。

 凄腕とは言ったもんだ。そう思いつつ苦笑して鞘にもどす。


「じゃ折角だから。ありがたく貰っとくよ」


快い返事に、にっと破顔するカール。



「でもアンタら、なかなか強いんだねえ。ぱっと見そうはみえないから焦ったよ」


「頼っといてそいつはひどいな」


 ユオルもざっくばらんなカールの態度に可笑しみを覚えて口許をゆるめる。


「ツイてたんだよ、お前が。俺たちでも何とかなる相手だったからだぞ?そうでなきゃ······」


 今頃どうなっていたことか。何をしでかしたのかは知らないが。どうせ奴らの(ふところ)でも狙ったのだろう、今後は控えろよ、と注意をうながすと、


「う、うん。気をつけるよ」


と曖昧にわらった。

 さっきから壁だらけの殺風景な空間を眺めていたマイシャが、くりんと顔をむけて口を開いた。


「にしてもさぁ。よく我慢できるよね、アンタ。こーんな所で女のコがさ」


「女の子?」


 なにを言ってるんだ、と表情に滲ませてユオルは隣をみる。


「なにを言ってるんだよ、アンタは」


「は?だって女の子っしょ、どー見ても」


 え、とまた訝る視線をあわせれば、カールも怒ったような顔でマイシャを睨みつけている。怒りのためか、強張った身体が震えてさえいるではないか。

 ほらみろ、子供とはいえさすがに失礼だぞ。


「俺は──男だ」


「無計画に家をおん出てどうするつもりだったん?」


「だから俺は男だって!」


「いやいや、バレバレっしょ。花も恥らう十四歳」 


 十四歳? そうは見えないが、身体の小さな子ならたしかにそれくらいであっても不思議はないか。

 ······亜麻色の髪······茶の瞳。ん? それって。


「男だい!」


 徹底して抗弁するカールに、ハァーッ、と溜め息をつくマイシャ。軽快に腰をあげて、ツカツカとカールへ歩み寄った。目線を合わせるようにしゃがみ込む。と──



「んにゃっ!?」


「ほーれ、やっぱりぃ」



 たじろぐ彼の胸をいきなり鷲掴みにした。



 カールの顔にカアッと耳たぶまで血の気がさすのがわかった。直後、唐突な展開にぽかんと馬鹿面で眺めていたユオルへ鋭い視線がとんでくる。


 あっ、すいません。


 理不尽だと感じる間もなく反射的に目を逸らしていた。






「ウィルニッツ家令嬢、カーラ様ですね?」



 藁のうえに座りこんだカール、あらためカーラに、仕切りなおしてユオルは問う。正体をあんまりな方法で暴かれた彼女は、ぶすりとしながらも無言でうなずきを返してきた。

 やれやれ、まずは見つかってひと安心だ。とりあえず無事でいてくれたことには感謝すべきだな。そっぽを向いている彼女を見下ろしながら、ユオルとマイシャはふたりして肩をすくめあう。

 あらためて見ても華奢な肩まわり。十四歳という身体はちいさく、もうすこし幼くみえる。こんな子がよりによってこの寒空の下、なにを思ってこんな暴挙をしでかしたのか。


「私達、アンタの姉さんに頼まれてアンタを捜してたんだよね。ジーナさんだっけ?」


 姉の名が出たとたん、カーラの眉がわずかに曇ったのがわかった。


「······家には。帰らないよ」


「なんで? こんな処にいて何になるのよ」


「帰んないったら帰んないっ!」


 突っぱねる勢いで立ちあがると、今度は壁のまえで頑張って、背を向けたままこちらを見ようともしなくなった。

 ユオルはつとめて優しく訊ねる。


「······お姉さんのこと、気になるのか?」


わずかに肩が震えた。

 図星か。聞いた話じゃそんなに悪い人でもないようだのに。きちんと妹のことも心配しているから、こうして捜す自分達に案内もつけてくれたのだろうし。

 ははん、さては叱られるのを怖がっているのか。


「なんだったら俺も一緒に謝ってあげますから」


「別に叱られるのが怖い訳じゃない! もちろん、嫌いなわけでもない······ずっと母さん代わりに育ててくれた人だもん············」


 カーラは背を向けたまま、目の辺りをごしごしとやった。


「ジーナ姉さんはなんでも出来て、凄い人で······頭だっていい。ノーラ姉さんだって優しいし。父さんの仕事は姉さん達が手伝ってたんだ。父さんも頼りにしていて······けど、私がいたんじゃ、姉さんは跡を継げない」


 なるほど、そういうことか。

 グランツさんから聞いた。この国の法律では、基本的に血の繋がりのある実子にしか相続権が認められないということを。

 この子の父親は平民の出であったが、財をなし、貴族と婚することで爵位を吸収する形で相続した。

 どの国も貴族家は男児優先で継いでいくから、この子らの母はともかく、三姉妹の姉たちには爵位の相続は認められない。

 そして本人も、誰が跡を継ぐのがいちばん善いのか自覚している。

 カーラはそれを気に病んでいる、ということなのか。


「だからってさ。貴女ひとりが家を出たってどうにかなるモンでもないでしょうが。かえって迷惑だよ」


 まったくだ。無謀だ。この後先考えない所にはどこか憶えがある。今頃どこかで団長のクシャミが響いているのではなかろうか。


「なにも犠牲になる気とか自棄糞(ヤケクソ)でやったことじゃないよっ」


カーラはムッとして、貴族令嬢にしては乱暴にいった。


「私にだって叶えたい願いがあるんだ。だからそのために家を出たんだ」


 ますます似ている。これは頑固な所もおなじだろう。

 さて、どう説得したものかと頭を悩ませていると、チョイチョイと横から肩をつつかれた。


「何?」


 ヒソヒソと、マイシャが耳元に顔を寄せささやいてくる。こそばゆい。


「あのさ。さっきどっかの貴族が、跡継ぎ狙って婚姻話をねじ込んできてるって話、あったっしょ」


 ああ、たしか······スリベロンとかいう妙ちきな名前の。


「そ。だとしたら短絡的に連れ戻すのはマズイんじゃないの?」


「なぜ?」


 わからん、といった視線で顔を横向けると、マイシャは身を離し、頭の後ろを撫でつけながら言葉をつづける。


「······初めはさ。そのジーナさんとの話なんだろうなーって思ってたんだよね。けど、跡継ぎって意味でいったら、いちばん通りが良さそうなのって······」


「え············ん?」


 嘘だろ、だってまだ──。

 唖然としてカーラをみつめる。


「いやっ、だってまだ十四···」


「充分だって。アンタらのトコじゃ知らないけど、世間じゃ全然珍しくないんだよ」


 愕然とする。なんてことだ。だってまだこんななんだぜ? それをその貴族は、カネのためにそこまでやるのか。鬼畜か、さもなきゃ変態野郎ではないか。

 本人もそれを知っているのだろうか。だからそれもあって逃げ出した?


「······知らないんじゃない、たぶん。余計にそんな迷惑までかかるって判ってたら、さすがにやんないだろうし」


「じゃあ······さっきのゴロツキどもも、そのスリベロンって貴族の手の者だったってことか」


 これは本当に困ったことになった。

 連れ帰らねばウィルニッツの家は存続の危機にさらされることになるのだし、グランツさんの商談も頓挫してしまう。雇い主の失敗は、すなわち自分達の──団長の失敗ということになる。

 かといって無理につれ戻せば、カーラはその変態貴族の餌食になるやもしれず、しかも自身家出してまでも叶えたいという、確固たる信念を折ってしまうのだ。

 そんなことは知らない、こちらには関係ないことだと目を伏せることは簡単。戻らねば姉さん達をさらに追い詰めるのだという理屈でとおるだろう。貴族家に生まれた以上はこれが現実、そうするのが大人の対応というものなのだ。


 だが。どこか似ているこの娘の想いを否定することは、団長の想いも否定することになるのではないか······。


 せめてもう少しだけでも抗いたい。

 無自覚に思ったからなのか。ユオルは訊ねていた。



「そのやりたい事ってのは──家にいちゃ出来ないもんなのですか?」



 カーラはユオルを睨んだが、うつむいて唇をかんだ。


「どうせ駄目だって言われる、商会の跡継ぎに専念しろって。でもそんなの私の柄じゃない、ジーナ姉さんこそが相応しいんだ。父さんの仕事を手伝ってる姉さんは楽しそうで、生き生きしてた。私だって姉さん達にはやりたい事をやって貰いたいんだ」


 貴族の娘であれば、当然のしかかってくる重責。

 でも抗うことさえ許されないのか?相応しい人間が相応しい地位に就く。それがそんなにいけないことなのか? ただ、血が繋がっていないというだけで。



「私は鍛冶師になりたいんだ。父さんのような、一流の鍛冶師に。父さんは鉄を打ってる時がいちばん幸せだって言ってた。腕だって誰にも負けなかったし、恰好よかった。

 だから私も······継ぐのなら鍛冶師としての跡を継ぎたいんだ」



 女鍛冶師、か······


 純粋な憧れがのった言葉だ。胸のなかを、深呼吸した時のように爽やかなものが通りぬけたような気がした。

 聞いたことはないが、きっとどこかには居るんだろう。おかしな事じゃない、世界はこんなにも広いのだから。

 悪くないじゃん。そんな呟きがマイシャの唇からもれたのも聞いた。


「······わかりました、貴女の言いたいことは。

 でもこのままここに居残るのですか? さっきの連中はきっとまた来る、すぐにでも。数ももっと揃えてくるでしょう。そうなったらとても俺達の手に負えない」


「だねえ。あの鎖鎌使いだって」


マイシャが口添えしたときだった。これまでとは違う必死さで、カーラはするどくいった。



「ジャノ兄はそんなんじゃないよ!」



 ジャノ兄。さっきもそう呼んでいた。やはり以前からの知り合いなのか。


「ジャノ兄は······ジャノ・トレバリは街で二番目の鍛冶師で。父さんのいちばん可愛がっていた弟子、だった人さ」







 ボリュッソスの中心へとつづく街道を、やけにけばけばしくした一団がいく。

 みなを従えて手綱をくる若い男は、一等華美な身なりで意気も高々だ。肩口にたらした赤味がかかりの金髪をいただく頭を、羽根を飾った帽子で気取り、マントと、派手な色のとり合わせな衣服に身をつつんだ様は、容姿のよい見てくれと相まって、一見麗しやかにうつる。

 一歩下がって馬を進めるのは、こちらは一転して地味な色合いながら質の良い、暖かそうな衣服に袖をとおした商人風の男。前をいく主人と釣り合うほどに身の丈のある、四十絡みの男だ。

 またこの反対側には、ふたりを守るようにいちにんの騎士が馬を繰る。藁色の半端長さな髪に無精髭だらけの強面をして、三十そこそことみえる。主人の趣味にあわせてか、出番もないだろう磨きこんだプレートメイルを着けているが、その歴戦ぶりを物語るように、表面には傷が目立っていた。

 この後に、いまにも楽器をとりだして演奏しそうな軽薄な一団が、徒歩でつづく。



「しかし、婿入り前に婚家へ挨拶とは。ご主人様の義理堅さにはただただ頭が下がる思いです」


 むかって右、商人風の中年男がおべっかをいう。


「なに、構わんさ。貴族たるもの、これしきは。淑女(レディ)に礼を尽くすのは当然のこと」


 男、コラルド・スリベロン次期子爵は胸をはり、高らかにいう。乙女のため、という声にはしかし、そうした自分に酔ってさえいる響きが混じっている。


「しかしご主人様? なにゆえ末娘のほうをご所望で? 私でしたら、うえのふたり······ことに一番上の娘を選びますがなあ」


「不敬だぞ、モンデラッセ殿」


 騎士が陰気な声でぼそりと嗜めると、コラルドは度量をもって笑う。


「まあ構うな、ホボルク。さて······何でだろうな? どうも私は若いほうが好いようだ。

 だからといって、考えなしな訳ではないぞ? ん? 考えてもみろ。小賢しい姉のほうを娶れば色々と口を挟んできかねんではないか。だが妹のほうならどうだ。まだ無分別なうえ、単純で可愛いものよ。我が愛でどうとでも丸めこめる」


 これはおそれ入った。てっきり己の欲望丸出しにこだわっているのだとばかり思っていたが、それなりに考えはあるらしい。それがいかに言い訳臭かったとしてもである。

 賢明なる商人であるモンデラッセは、もちろん声にだすことはしない。


「なるほど、畏れいりました。深謀遠慮、さすがはご主人様」


とだけいった。



 まるでこの世は我が世といわんばかりに、下衆な冗談を口にしながらウィルニッツ邸のほど近くまでこの一団がやって来たときだ。不意にコラルドが片手をあげたので、一団はあわてて静止する。

 まるで獲物をみつけた鷲のような視線の先にあったのは──出奔令嬢をさがしてついに虚しく終わったロプサーヌとニコラの姿だった。

 ついさっき操の道を語った男の口許が好奇の笑みで歪む。


「······気に入った。誰ぞ、あの女傭兵をひき連れて参れ」


今年の最後に、自分の更新を見返してくそ下手な(汚い言葉ですいません)文章を皆様の目にさらしてしまっていた事実に気づき悶絶するというプレゼントを喰らいました。(苦笑)

やはり人間、焦るとロクなものになりません。


微修正しました。誤字、およびスリベロンの肩書も修正しました。


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