表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
61/75

《第三話完》至宝【約束】


 帰途へとつく馬車のなかのこと。

 今度はあせる必要のない旅程であり、くわえて怪我人も乗せているから、ゆっくり、のんびりと車は進んでいた。

 ひと座席に寝かしつけられたユオルをまえに、ロプサーヌは思いついたまま推察をのべる。


「つまりさ。ユオルの得意な術種は炎だったんだよ、きっと。それをアスタミオが、無理やり風の術種で教えこんじゃったから······」


 なるほど、だから急に術種が変化してみえたという訳、か。

 なんとなく腑に落ちて、ユオルは木目の色合いも濃い天井を睨んだ。


 あの野郎め······。

 まあ今回は教えに救われた部分も大いにある。流しといてやるさ。



「まあ仕方ないんだよ。風の術種は、盾持ちの担当とは好相性だもん」


 彼の胸中を知ってか知らずか、ロプスは指導役の弁護を買って出ている。


「······べつに。怒ってはいませんよ」


 そ、なら良かった、と小さな主人は安堵したようだった。だが、さっきからその視線が自身の右手にいっていることにユオルは気づいている。右腕をかるく動かしてみせると、彼女も気づかれていたことを覚ったようだ。


「······その火傷、残っちゃうかな······」


 申し訳なさ気なその声が、すこし胸に刺さる。

 ユオルは、かろうじて守られた右腕の掌を、そっと広げてみせる。

 炎熱の刃を鷲掴んだ大きな跡。ニコラの必死の治癒でどうにか繋がったものだ。



「······かも知れません。けど、これはいいんです」


「······え?」


「······こいつは、俺の勲章ですから。はじめて団長を護りとおすことが出来た、俺の」


「ユオル······」



 ──────



「もしもーし、おふたりさーん? アツ〜い主従愛たしかめ合ってるとこ悪いんだけどっ。第三者もいるんで程々に〜」


 冷やかし調子の声とともに、視界へと突然、マイシャの顔が入りこんできた。ロプスはさっと頬を朱に染めながら、はからずも合ってしまったユオルとの視線をふり切るように、車窓の景色へと投げる。


 いいじゃん別に。そりゃ······ちょっとは感動しちゃったけどさ。別にそんなんじゃないしっ。



 この様子を猫笑いで眺めるマイシャに、ユオルは苦笑いしつつ尋ねかける。


「マイシャ殿は一緒に来られるんですか」


「そだね。しばらくはご厄介になるよ、宜しくぅ」


 パチリとウィンクを飛ばしてくるやつを、はぁ、曖昧にながす。いまだそっぽを向いたままロプスが(くちばし)をはさんだ。


「いいのっ? 勝手に出国して叱られたりしないのっ?」


「んー······まあ、叱られるだろうねぇ。でもそこはホラ、傭兵稼業により、ってことにしといてって父上には頼んどいたし?」



 ロプスちゃんもこれから宜しくぅ、と、宿をたかる気満々であろうマイシャに肩を揉まれ、くすぐったさに膨れっ面をたもてない。

 ロプサーヌは呆気なく破顔する。


 まったくもう。調子いいんだからさ······。








 

 軋んだ音をたてて、国宝庫の扉が閉まっていく。

 おもい反響音を残してこれが閉じられたのを確認し、ギーリブ老と氏族長ヤトマシュのふたりは、肩をならべて歩き始めた。


「······すまなかったな。事が事だ、お前は知らぬほうが善いと思ったのだ」


 祖父のゆっくりとした足取りにあわせて、館内の廊下をいきながら、若き国主は頷いてみせる。


「は。理由をうかがえれば納得はしますが······しかし、やはりひと言欲しかったです。お陰でツガロワ殿に、娘に家出されたと嫌味をくいました」


「そうか。あの男にもお前にもすまぬことだった。だがこれでひと安心だ。国宝もああして戻った。国の脅威は去ったのだ······」


 そう、これで。

 ひとまずは、世界は安定をとり戻したのだ··········


 






 北国の季節はすっかり真冬を迎えている。

 自室の椅子に腰掛け、すこし遅れて届いた娘の報告書に目を通すひとりの人物がいる。いわずと知れる、当代サヴェリウス王、ハルキュオルだ。

 彼はしずかに、暖炉の火に照らしてこれを読む。

 五枚ほどにわたった書簡を読む手つきには、とくに愛しみといったものは感じられない。いつもと変わらぬ事務的な速度で読みついでいく。

 終わりまでいくと、視線をはずして室内の暗がりをじっとみつめ、思案げに顔を厳しくした。


「······カドヴァリス・ウェラヌス間の取り引きは表向き阻止されたか。国宝の件は、老人の策どおり巧く運んだな······」


 ツイ、と小卓のうえに置かれた小箱へと目をやる。

 蓋を開けられたその中には、まるで希少な宝玉かなにかの如くに、暖炉の炎をうけて揺らぐ、赤黒い石が鎮座していた。


 なにを思ってのことか。

 王は無造作に、紙束を床へと捨てた。



お読みくださいまして、真にありがとうございました。

わざわざお寄り下さる皆様が、当作の支えでした。

続く、かどうかは未定ですが、ある日ひょこっと顔を出すかも知れません。


※駄文集を活動報告に移動しました。

「ユオルの人名備忘録」などなど。


評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

↑ページトップへ