想い火【抗者】
翌日。
快復したロプスもくわえて討議した結果、二方面作戦で事に当たることになった。
ロプスとユオルがウェラヌスギア側の目を惹きつけ、その間にマイシャ・ザペルらのケシュカガ勢がカドヴァリス側と接触。人魔結晶の存在を確認した後これを奪取、もしくは処分する。
どう接触の手段をつけるのかと危ぶんだが、なんとも抜け目のないことに、彼女は出国前からすでにカドヴァリス側と渡りをつけてあるらしい。ニコラは神教国の権限をもって事後の調停に当たることとなった。
「······大丈夫ですか、団長」
ユオルは、金属の軽鎧をつけ、完全武装の態勢をととのえていくロプスに問う。彼女はやっと立ちあがれるほどになったというだけで、いまだ本調子ではない。しかも相手はあのイカれたターバン野郎だ。腕からみても、戦闘嗜好からみても、彼女以外に相手が務まらないのは解ってはいるのだが。
「へーきだよ」
ロプスは白槍を背負いながらつとめて明るく返した。だが今回は、さすがに表情から緊張の色が隠せてはいない。
それでも。
強がりと悟られたとしても、言ってのけるのだ。だって自分は騎士団長なのだから。
「なにも倒れるまでやるって訳じゃないんだ。マイシャたちがやって退ける間、アイツを足留めすればいいだけだもんね」
じくじたる想いだ。本来こんな危険な役は大将のやるものではない。配下である自分の負うべき任務なのだ。
だが実力が足りない。圧倒的に足りていない。
ユオルはいまさらながらに強く後悔の念を滲ませる。ぐっと、革篭手をはめた拳を握りこむ。
マイシャとザペルはそんなふたりのやり取りを横目でみつつ、すこし離れてカドヴァリスへの対策を確認しあった。別れ際、ザペルは複雑な表情とともにマイシャへと言葉をかけた。
「······あァ゙、その······無理はするな。危うくなれば大角なんぞ、奴らにくれてやれ」
想定外の発言だ。あのマイシャが目を見開いて絶句したほどに。それだけ、普段のこの男からでる言葉ではなかったのだ。
この沈黙を気まずく思ったか、彼はじつにわかり易く挙措の乱れをとり繕うように言ってのける。
「わっ、我々の任務はっ!······たしかに、その国宝の奪還だった! がっ、貴様の任務のほうがより重要であるからだ! これ以上同胞を無駄死にさせる訳にもいかんからなっ」
「······お、おぅ?」
ぴくり、と離れたふたりの耳も動こうというものだ。ロプスとユオルは口には出さずとも目で語りあった。
······んおっと?
これは······ですよね?
もしもマイシャが第三者の視点でこの様を観ていたならば。
前世で耳にタコが出来るほど聞いたであろう、あの言葉を放っていただろう。
支度はすんだ。備えも、心も。皆それぞれに決意の色を滲ませて、部屋を後にしていく。
出掛けにマイシャがかるくロプスの袖をひいた。自然、ふたりだけが遅れて室内にのこる形になる。
「なに?」
「···これ、持ってきな」
そう言って、ゴソゴソと荷からある物をとり出してくる。
「え、でもこれ······──いいの?」
「だって時を稼いでくれるんじゃん。だったらさ、こうしちゃえば良くない?」
なるほど。確かに奴はいちど見ているのだった。そう思ってくれる公算は高いだろう。いざという時役に立ちそうである。ロプスは納得して、ありがたく受けとっておくことにする。
だが、彼女がこれを自身の荷にくわえ終えても、マイシャが部屋をでる様子はない。まだ何かあるのだろうか。
やっとふーっと息をついてから、さも慎重に、言葉を選ぶようにして言った。
「ロプスちゃん──いえ、ロプサーヌ。······借りができたね」
こんな風に真剣な声音を聴くのは初めてな気がした。彼女とくれば、いつもこちらを茶化すような言動ばかりしてくれていたから。だからか、よけいに心の芯にぐっと響く。
ロプスは不敵な笑みを浮かべて応える。
ちょっと意地悪で。いつもとは逆だなと自身感じながらも。でも彼女とはこの調子がいいのだ。
「そうだよ? 後でたっぷり返してもらうからね?」
マイシャは屈託のない笑顔で破顔した。
「チ」
ギュスタは舌打ちをして、いらいらする気持ちを鎮めようと努める。せっかくひさしぶりの上物に出逢ったというのに。よりによってなぜこんな時にあの者と出くわすのか。何で今なんだ。だからこの世界はクソなんだ。
「問題ないか、ミルマーダ」
潜入兵のなかで最も凄味ある面構えの隊長が問うが、ギュスタはこれにも冷ややかな視線で応える。
「大丈夫に決まってるだろ? それより逃がしちゃったじゃないか。アンタらがボヤボヤしてたせいだ」
「······こっちは五人やられたんだぞ、お前の考え無しな追跡のせいで」
「だったら増援でも何でも呼びなよ。さっさとアイツら見つけ出して」
あまりの身勝手な物言いにこのウェラヌス潜入兵の頭は奥歯を噛んだ。それでもベテランの忍耐をみせ、ぐっと怒りを押し殺す。
何だって上の連中は、こうも抑制の効かぬ暗殺部の奴らを護衛なんぞに付けやがる。
抑揚とともに怒りを御して問い返す。
「──一応訊くが、どっちをだ」
ギュスタの口許がニイッと薄気味悪い笑みに彩られる。
「決まってるじゃないか。あの白い槍使いの方だよ」
オイッ、て感じですよね······申し訳ない。
いま大立ち回りな場面を必死にひねっておりますので。
誤字修正しました。




