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《第三話》消えた国宝【疑惑】

新話、ぬるっとこっそりスタートします。


※国宝の来歴を、「マイシャが狩ったもの」から「マイシャの先代が狩ったもの」に変更いたしました。

話の本筋じたいに変化はございません。



 冬がきた。

 大陸の北方に位置どるケシュカガの冷えこみははやく厳しい。

 秋の終わり口に霜がたち始めたと思えば、雪の舞うまではあっという間だ。草原も大山脈も深森も、しずしずと降り積もる白の結晶に沈んでいく──


 一日中太陽が顔をだすこともめっきり少なくなったし、これからもっと寒くなる。だがそれはなにも悪いことばかりではない。なんと言っても、こうして街に戻れるのだから。

 より厚みを増してモコついた衣の襟巻をなおしながら、マイシャ・ツガロワは、鈍色の空に淡い吐息をはきあげた。



 現在十一ある氏族によって成りたつ国ケシュカガ。ここでは国民の大半は半遊牧生活をおくっている。

 一年を託宣によって選出された森番として暮らす以外の氏族らも、それぞれが要所の地に駐屯をして、自然と人の均衡がつつがなく保たれるよう努めている。

 この間は、羊やガープゥ(異世界(・・・)でいうトナカイ)など家畜を連れての生活となるが、寒くなればそうもいかない。だから全氏族は都へと帰参し、冬をここで過ごす。しぜん、社交は豊かになり、あらたな夫婦や恋人が増えるのもこの頃の通例だった。



「ま、こちとら浮いた話は、一向に縁が無いんだけどね······」



 なかば自虐めいた呟きに嗤う。

 和やかに石造りの街並をいく人のなかでも、自分だけが野外用の、洒落の効かない本気すぎる防寒装をまとい、蓋つきの革筒(ケース)には矢を忍ばせて、弓まで負っている。乾いた笑いが漏れるのも仕方なしというものだろう。

 前世(むこう)での十代はぱっとしなかったから、今世こそは──と思ってみた事もあった。

 が、幸か不幸か。

 思うままに動く身体が楽しくて励んでいたら、国でもトップクラスの弓師に数えられるまでになり。結果、荒事ばかりに好かれる羽目となった。

 これがふた昔前でもあれば、腕のたつ女傑なんてひく手数多だったろうに──戦士の国の勇士たちも平治の世で好みが変わってしまったか、無情なことだ。くそぅ······。

 つまる所、いまから呼びだされて向かう先も、その荒事関連なわけである。


 マイシャはうっすらとのこる雪化粧や、寒さにも負けず活気づく街にまた白い息を吹きかけ、のそのそとした歩みを再開させた。







「崩緑の大角を紛失しただと?!」


 それは、パチパチと豊富な薪が明かりと熱を供す心地のよい一室でくつろいでいる最中のことだ。宝物庫番よりあがってきた報告に、国都の統括者である第一牙氏族長ケシュカガンとその側近たちは騒然となった。


「も、申し訳ありませんっ! いえっ、すべててではなく、ごく一部ですが」


「当たり前だッ!! ええい何をやっていたのだ! お前たち油断が過ぎるぞ、冬の騒ぎに気が緩んでいたのだろう!」



 国都の宝物庫から国宝が消えた。

 マイシャの先代、サーリフ・チョノルの勇者によって得られた強さの証が。

 貴重な品であることは勿論のことだが、この結果自体が権威への(キズ)となる。これだから本家は首都にふんぞり返っているだけで何もしない、などという(そし)りの原因にだ。

 まだ長としては若い氏族長らが額に青筋をたてる。そんななか、一族の長老であり、事実上国務の柱となっている者。先々代第一氏族長ギーリブは落ち着きはらって孫を諌めた。


「そう言うでない、ヤトマシュよ。部下を叱るよりも、まずは追跡隊を整える方が先であろう」


「······は、(じじ)様」


 燻したような声での語りかけは効果覿面(てきめん)だった。族長は神妙に頷くと、ひと呼吸おいて冷静さをとり戻す。


「あの品を持ちだす輩のむかう先といえば見当はつきます。忌々しき盗人カドヴァリス······もしくは戦獣製造の本家、ウェラヌスギア。ですが勇士を派遣するにしても、さすがに独断という訳には参りませぬでしょう。無関係の国とも面倒が起きかねませぬ」


「それについては儂の方から盟主(サヴェリウス)殿に一筆(したた)めておこう。お前はやるべき事に専念するがよい」


 心強い言葉をもらった氏族長は拝謝すると、配下へと発破をかける。


「秘宝は必ずや抑えるのだ! 犯人は生かして連れてこい! 背後関係、盗まれた経路についても至急捜査を進めよッ!!」


「ハッ!!!」






 サヴェリウス国本城、国王執務室。

 時の頃は午後のこと。ちらつく雪と、堅牢な城の石壁に吸いこまれてか、周囲はしんと静まりかえって物音を立てるものもない。

 袖を合わせたくなる寒さの折、王の居所まで呼び出された大宰は、取次ぎもなしで室内へと招き入れられた。中では国王ハルキュオル・デュ・サルヴェンドラが赤々と燃ゆる暖炉にむき合っている。

 その手にしている書簡にちらと大宰の目が走る。おそらくはあれが、この呼び出しの原因となったのであろうと憶測する。



「陛下」


「来たか、ご苦労だな大宰」


 王は気さくに彼へ労いの言葉をかけると、まあ近く寄れ、と彼を暖炉の前へ誘った。大宰が遠慮しつつ傍へよると、案の定手にもった書簡をズイと差しだしてきた。


「あの爺様、まだ生きておったぞ。字も矍鑠(かくしゃく)としたものよ」


 拝見(つかまつ)ります、と断ってから、大宰は厚紙の書簡を推しいただき、丁重にひろげる。

 書状は私信の形をとってはいたが、事実上の国書に等しいもので、内容は先に述べたとおりのことが記されてあった。


「追跡のための断り······ですか。律儀な御方で御座いますな」


「······宝物の捜索など勝手にやれば良かろうに」


 億劫そうにボソリと漏らすやつを、思わず嗜める。


「陛下。おそれながら、そうも参りませぬ。彼の国の粗野者に勝手に動かれましては火種となるは必定」


「わかっておる、戯言だ」


ハルキュオルはフンと鼻で嗤う。

 大宰はふぅと安堵のひと息をついてから、あらためて書簡に視線を落とす。渋そうに顔を歪めた。


「······十中八九、我が国を釣りだす口実でありましょうな」


 つまり、表向きは独力捜索するけれども、いざ軋轢(あつれき)が生じた場合、サヴェリウスも了承の下であったのだと言い逃れるための。


「お前もそうみるか。あの(したた)かな爺様らしい。だがこう丁重に頼みこまれては無下にもできん。協力者の用意があると伝えようと思う。人選は余の方でしよう」



 要約すると、この件は裏で処理するゆえ了解だけしておけ、ということか。

 今回も大宰は王の内心の言葉を巧みに汲みとった。は、と叩頭して書簡をまた丁寧に丸めこむと、執務卓へと戻して退室していった。



 バチッ、と暖炉の薪が音をたてて崩れる。



「ケシュカガ老よ······こちらにも火中の栗を拾えと申すか。そうは行かぬぞ」



 都合のよいことに、いまなら人選にはアテがある。

 我国の正式な組織に属しておらず、しかも見目にはこちらが最大限の協力をしていると思わせるのに充分な格を備える者が······





 卓に置かれた、赤の陰に揺らめく書簡の末尾には、こう(つづ)られている。



『犯行に及んだとおぼしき人物の名は──────』



つづく文字は影のうちに沈んで、判然としなかった。



チアーズプログラム、始まりましたね。

評価システムが★制度になって以来の変革なのではないでしょうか。若僧なんでそれ以前のことは知りませんけど。

底辺なウチには今のところ関係ありませんが、ぜひ体験談エッセイをお待ちしております。


脱字を修正しました。


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