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風の行く先①

サブタイ思いつかない問題。

後々変わるかも、です。


 流石にここまできてハイそうですか、と納得できるわけもない。国の意をうけた特任大使としても、ロプスは食い下がる。


「ちょっとちょっとちょっと、何でよ」


 だが仏頂面のシュダルはにべもなく切り捨てた。


「心配はない。案内はつける。無事にあのロッジへ送り届けると約束する」


 またそれだ。ロプスは奥歯を噛んだ。


「そういうことを訊いてるんじゃない」


 吐き捨てて、冷然と出立の支度を整え終えたマイシャの腕を掴んだ。


「勝負は? 私たちの勝負はどうなるのさ」


 だがマイシャの対応も、これまでが嘘かのようにあっさりとしていた。


「事情が変わったのよ。ごめん」


 手早く弓を負うと、勇士二人を連れて足早に出立した。



 悔しそうに佇むロプスの横顔に、ユオルとアスタミオは顔を見合わせる。

 事情ってものは確かにあるのだろう。が、それでも一方的に察しろといわれて納得できないときもある。

 なだめようとユオルが歩み寄ると、ロプスは問われる前に唇を開く。


「何ていうかさ············自分でもびっくりしてるんだけど······」


「······はい」


「······姉様とはちょっと歳が離れてるし、同い歳くらいの遊び相手ってのもいなかったからさ。

 あんな風に競い合いながら何かするって······とにかくそういうの、初めてだったっていうか······ちょっと楽しかった、みたい······」


 意外に思った。漠然と、王家の枠組みのなかでは粗略な扱いを受けているな、とは察していたが、そうはいっても末娘だ。それを抜きにすればそう不遇でもないのだろうとばかり思っていた。

 時折みせる強情なところも、甘やかされた結果なのだと。貴族だし、それどころか王族だし、遊び相手になんか不自由しないだろうと、平民の身としては考えてしまうのだ。


「············」


 何を思うのか、とっくに支度を終えているシュダルも、急かすでもなく無言で聞き入っている。


「だからこれは我儘(ワガママ)。詳しい理由を教えてもらえなきゃ帰れない。いや帰らない。ムリにでもついて行く······!」



 内心驚いてはいる。彼女がわずかな時間でこれほどマイシャに思い入れようとは。

 だが勇士たちは黙して語る気配をみせない。待っても無駄だ、いますぐ帰れと無言の圧力を強めてくる。下手をすると強制的に連行されかねない剣幕だ。


 と、シュダルが緊張をうち破るように、あえて演技めいた吐息をおおきくはいてみせた。



「──わかった。俺が話そう」



 勇士らの諌める視線を彼は制し、ロプスへむきなおった。


「獣渡り、という現象が我が国にはある。

 ちょうどいまの月、これから起こるだろうと予測されている、毎年の恒例だ。貴君らにもこの様子をみてもらうつもりで、当初はいた。

 巡りで森番となった氏族がこれにあたり、獲れた獲物は全氏族に均等に分配される。戦士として腕と誇りのかかった大切な祭りだ。


 だが毎年つつがなく行なわれるはずの祭りが、十数年にいちど、まともに運行できないことがある。

 元凶は大戦獣『角壁・崩緑』。

 超重量級の小山ほどもある、戦獣の突然変異体だ。これが渡る年にはまともな狩りにはならぬ。

 この期間はほぼ定まっているのだが、かつてまったく予期せぬタイミングでこれが崩れたことが何度かあった。その前兆となったのが、屍喰いの異常集中と群れの形成だ」



 つまり、今年それが起こる可能性が高まったということか。


「······もし」


「遠慮してもらいたい」


ロプサーヌの言いかけたやつを、シュダルは厳然と突き放した。


「これは、我らが国の問題──いや、場合によっては極秘情報にもなり得る事案。話したのは、帰国へ対してのせめてもの誠意の表明がゆえ。

 ······それとも。貴女は盟主国としての権限で介入すると仰るか」


 こうこられてはロプスも、気持ちだけで喋るわけには行かない。事態は一気に国交の問題へとすり替わってしまう。

 なにも反論することができぬまま、彼が丁重な手つきで示す方へと足を向けるしかなかった。




 こうしていざ回れ右をしてみると、ユオルでさえ悔しさが込みあげてくる。

 棚上げになってしまった護衛士の認可不認可問題は勿論のこと、結局まるまる二日、森の中を彷徨(うろつ)きまわっただけで終わるなんて。いくら調査だからといって、これではあまりに渋すぎだ。

 せめて有名なケシュカガの大草原、連なる雄大な連峰の山並み、どこまでも抜ける青い空──そんな天然の絶景を見てみたかった。目にしたものはイカれた獣らの狂騒曲のような生態だけ。学者でもなければとてもこれで満足したとは言えまい。

 ユオルでさえこうなのだから、こういった珍しい体験の一期一会に飢えているロプサーヌの靄々(モヤモヤ)といったら、どれ程のものだろう。

 勇士たちに周りを警護──いや、護送されながら、ユオルは前をいくロプスの小さな背中をうかがった。

 

 いやまったく、彼の心配は当たっていた。

 面にこそ出さないものの、その実、ロプスの我慢、自制といった重い蓋は、好奇心や不可解な憤りといったマグマに押し出される寸前だった。


 辺りがちょうど樹々のまばらな、ひらけた場へと出た時だった。とうとうロプスが口を開いた。

 ちいさな囁き声で「アスタミオ······」と呟いたのを、ユオルは聴いた。


「ハ」


 意図を汲んだアスタミオがさりげなく左手を剣の鞘へとのばす。そう、ほんの少し剣の吊り具合を直したいのだ、という風に。

 だが起こったのは長剣の鞘鳴りの音ではなく、不意の突風による爆音。

 虚を突かれた勇士たちは驚き顔のままむき直るのが精一杯で、腰を入れて踏みとどまるものの、暴風の威力は土や落ち葉、枯れ草といった物もろともに彼らを弾き飛ばした。



「くそッ!」


 十数ヤードも飛ばされてふらつきながら勇士らが立ちあがった時には、すでに三人の姿はかき消えていた。



「チッ、撒かれた······! まったく厄介なお客様だ」


 勇士のひとりが立ちあがって掌をはたきながら苦笑交じりにいった。

 もういっそ、このまま放っておきたい気分だが、そうもいかない。仮に今、彼らに行方不明のまま死なれでもしたら、それこそ国際問題だ。


「案ずることもなかろう。彼らは引き返したんだ。先回りすれば追いつけるさ」


「どうかな? 途中で迷子って可能性も多分にある」


 そのとき、ユオルとアスタミオに付いていたもっとも若い勇士が「あっ」と声をあげた。



「奴らのひとりが風狼を手懐けてる! あれを道案内に行かれたら······!」


「ッ! 馬鹿野郎、それを先に言え!!」




 正解、大正解である。

 アスタミオが風を巻き起こしたことで敏感に首領の位置を悟った風狼たちは樹間を見えつ隠れつしながら参集し、いつの間にか、駆ける三人の周囲をとり囲んでいる。


「案内を······頼みますよ、風狼諸君······ッ」


「大丈夫? アスタミオ」


 ロプスの問いかけに「ええ」と応えつつも、アスタミオの顔には疲弊がみえる。

 龍装術は生命力──もっと砕けていえば体力を消費して効力を得る武技だ。

 あれ程の数の人間を目眩まし共々に十ヤード吹っ飛ばすには、大量の空気の渦を、しかも持続的に生み出さなければならない。それは一瞬に尖った威力を乗せるのとは、また違ったセンスが必要とされるのだ。


〈ウガル〉


 ユオルの背後を、まるで獲物を追う位置取りではり付いていたまだ幼い一頭が、遅い、とでもいうように小さく唸った。

 え? と問うまえに尻をゴツーンとやられて宙に跳ねあげられる。


「──なあッ!?」


狼狽したが、落ちたのは硬い地面ではなく、柔らかい感触のうえ。風狼たちの背の上だ。


「······っ! おいおいおい······!」


 わかい風狼二頭は寄り添って駆けながら、荷物となった彼をのせグン、と速度をあげる。


「わほーい」


という奇声にみれば、ロプスも一頭の、気持ち体色が白い一頭にまたがっており、アスタミオも一際おおきな狼の世話になっている。


 なるほど、こりゃあ疾い。ちょっと視界が揺れて乗り心地が悪いのと振動が直にくるのを我慢できれば何とか······


「って、待て待て待て! 樹っ、樹があッ!!

 ちょ──別々に避けるなァッ、裂けるゥ!!!」


 なんの刑だ、これは!



誤字を修正しました。

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