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天然要害の国①



「騎士団を創設するにあたり、まずなにが必要だと思う!?」



 追い風を帆にはらんで波を蹴たてる船上甲板にて、湖風に藁色の髪をなびかせながら、ロプサーヌ・アウルロアが声高にそう問うてきた。


「え!? なんです急に!」


 ユオル・デバルーニェもおなじ声量でかえす。

 旅装用のマントがばたばたと風にはためくため、間近にいても、どうしたって声ははりあげ気味になる。



 絶景になげていた視線をもどすと、少女の薄紅色の長袖チュニック姿が目に映えた。

 現在の彼女は、襟と袖元の詰まった衣のうえにベストを重ね着し、さらに革の胸当て。相変わらずのミニパンをベルトで締め、濃紫のタイツのはいた足元はブーツで固めるといった、時季にあわせた恰好をしていた。

 愛用の小鞄はベルトに通してナイフとともに腰の後ろへ回し、背中には当然、命の次に大切にしている半端な長さの宝槍を負っている。

 いっぽうユオルも揃いのマント姿で、長袖長裾の薄黄色チュニックと茶のズボンに足元はブーツ。腰には安価な剣を提げ、背にはもろもろの詰まったバックパックを負っている。



 航路は六大国のひとつ、大陸神教の総本山たる、神教国の領域をかすめて一路北西へ。

 風こそ少々強めなれど爽やかにして、穏やかな湖水は秋の陽にさざめき、じつに爽快だ。

 この広大な海ともみまごう湖は、ぐるりと神教国をとりまいていて、他の五国からかの国土を完全に独立せしめている。一方に偏らず、すべてに平等たれの理念をそのままに体現しているようだった。

 そういえば、神教国は島であるがゆえに、領土としては大陸中もっとも小さな国になるらしい。

 もっともバカでかいこの湖をみてもわかる通り、島、というよりは大陸がひとつポンと浮いている、といったほうが適切な表現といえるだろう。いやはや、世界とはかくも広きものか······


 ユオルはまた遠い目をして問いの答えを考えている風をみせながら、そんなどうでもいい思考をたち切るでもなくいった。



「仲間、ですかね」


 無関係のことを考えていたのだから、当然たいした思考の積み重ねをへることなく口から答えていた。

 ロプスはおおきな湖色の瞳をまんまるにする。そうして半笑いをみせ、


「······あー、うん。そうだね、仲間、ダイジ」


とカタコトに言った。



 くっそ、もっと集中して答えるんだった。生温かい視線が鬱陶しい。

 じゃあ模範解答は何ですかお嬢様、いってみろ。



「も〜っ、しょうがないなぁ。お金だよ、お金。決まってるじゃ〜ん」


「身も蓋もねーな」



 おもわずついて出たツッコミにも、この盟主国の血族たる姫さんは動じずに、半指の革グローブをはめた手をひらひらさせる。


「そりゃそうでしょ。集団をひとつ食わせていくんだよ? 配下に報酬だって与えないとなんだし」


 いや、そうですけども。あんま幼女の口からカネ、カネ聞きたくなかった。

 というか待てよ。騎士ってたしか、領地とか忠誠とか、そういった名誉を護るために剣をとるんじゃなかったか。資金で賄うんじゃ、それは傭兵団の類では?



 ロプスはむっとして、若干背伸びをしながら船壁にとりついてそのうえへ顔をだす。


「そりゃそうだけどさー、他にどうしろって? 土地をあげるーったって、私は王様でも大領主でもないんだよ?

 だいたい今の世の中、土地なんて余ってる訳ないじゃない。みーんな誰かの物なんだから」


「だから報酬金、ですか。でも団長は国許からなにがしかの収入はあるじゃないですか」


「それで維持するんじゃ、サヴェリウスの騎士団のひとつじゃん。私は私の騎士団が欲しいのっ」



 まるで上の子とは違うモノが欲しいと駄々こねる下の子だな、とユオルは心中で苦笑する。さすが大国の王族、騎士団を玩具みたいにいう。


 それはそうと、だ。自分専用の騎士団か······


 なるほど。まぁ、もろもろ心傷(トラウマ)負ったあのコドルカでの一件のように、国同士のイザコザに触れるともなれば、どこの国にも依らない立ち位置いうのは大事かも知れない。


 けどなぁ。そんなこと······本当に可能なものなのか? 後ろ盾がないってのはいろいろ不安だそ。


「キミがどー思おうが関係ない。私はやるといったらやるんだからっ」


 はいはい、そうでしたね。下僕は黙って従うのみでした。


「って、キミは私の護衛でしょー。お尻にくっついてるだけじゃ駄目だっての」



 ツッコミをはなってからロプスは船縁を離れ、あるき出す。

 船室へとかえるつもりなのだろう。ユオルも後を追った。さすが、小猿のような身軽さを誇るだけあって波の揺れにも歩調が乱れることはない。


「そのためにも、ディルソムに居座るのが最適だったんだけどなー。あの国なら考えも先進的だし、商人だって半自由競争だからいくらでも見込みがあったんだ。

 なのに······」



 突如その脚がピタリと止まる。

 とたん天を仰いで「あーっ」と奇声を放ちながら髪をくしゃくしゃやった。



「なのに今度はケシュカガへ行けだって!? まったく父上はいつもいつも! 私の邪魔して愉しんでるんじゃない!?」



 そう、現在なぜ彼女らが船に乗っているのかというと、まさにそのケシュカガへと向かうためだった。

 名目上の目的は、戦獣の実態調査。

 および人造戦獣と野生戦獣との差異についての考察。


 なるほどなあ。もっともらしく聞こえるが、体のいい妨害(クギさし)だと勘繰れなくもない······




 ケシュカガ。

 大陸の北部をしめる、一言でいうなれば天然自然の王国。とうぜん国を名乗る以上無文明という訳ではないが、自然とともに在ることを悦び、自然そのものを崇拝する国風と外へは伝わっていた。

 さらに出身の戦士たちがやたらと強壮で、いまも各国に傭兵として派遣され、稼いでいるなんて噂もある。

 まあ、機工とももに発展をめざすティルゾムとは対照的だし、賛同者(パトロン)探しという意味では、たしかに望みは薄そうだ。


「しょうがないですよ、王家(ごかぞく)からの指示なんだから。それにわざわざ指令してくるってことは、それなりに見直されたんですよ、きっと。

 それよか、奇行は程々にしてください? ヘンなのに目をつけられても困ります」


 そうなのだ。旅程は今日を含めてまだ三日ある。

 船のなかは実質密室も同様であり、警護する身としてはどうしたって不安はある。


「······コホン。そだね、ありがと。

 たしかにそうだ、令嬢が髪を乱してちゃエレガントじゃないもんね?」


「いえ、そこは(クセ)強いんであんま変わってないですよ大丈夫」

「は? なんて」


 おっといけない、口がまた勝手に。

 こちら、櫛になります、お嬢様。



ちなみにロプサーヌは母と共同で、ごくささやかな領地をもらっています。

ユオルはそこからの収入で雇われています。


誤字を修正しました。


※すすむ方角が書き手的に間違っていました。

訂正いたします。

誤字脱字を修正。

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