《第二話》発端
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急遽開かれた同盟会議は紛糾した。
六国同盟盟主・サヴェリウス王、ハルキュオル・カーパルネ・グリュオム・サンタードゥルビェン・ヴロワリ・ドゥ・サルヴェンドラの呼びかけに応じ、各国がともに国の首長、もしくは全権を委任された特任大使が参じていた。
田舎町での一件はすでに世の知るところとなっていて、各国ともにそれぞれの反応でウェラヌスギアにつめ寄ったが、これに応じた同国全権特使の態度は、ふてぶてしい、という意味では見事だった。
けっきょく会議は、今後もあの忌まわしい技術を禁忌として封印する、という、きわめて政治的で無難な決議を採択して閉会した。
「陛下、お目もじいたします」
随臣をともなって議場をまっ先に退出した恰幅のよい壮年の男性に、たたずまいから騎士とおぼしき女が頭をさげて礼をとる。背後にひとり、こちらも騎士然とした恰好の随員をつれている。
王は、その一部の隙なく畏まって礼をとる彼女の美麗な姿に、頑なにしていた太い眉をほんのわずか、やわらげた。
王権の象徴たる煌めかしくもスマートな王冠に、豪奢で古めかしい、紫紺の裾のゆったりとした服。右肩口からぐるりと身体を一周してかかる毛皮のマントの下で、ぐりぐりと太い腕をまわした。
「おお、まったくだ。肩が凝ってかなわん」
王のくだけた口調に、女騎士もはにかむように麗しい口許をゆるめ、ご苦労様にございます、とねぎらった。
ひろい、しかし随所に繊細な細工のひそむ乳白色をした柱廊造りの大回廊に、ななめから晩秋のわずかな晴れ間、貴重な陽光がさし、じんわりと空気を暖めている。
このなかへたつ女騎士はまさに絵画のなかの人物、そういっても誉めすぎではなかろう。
ちょうど蝶の形にもにた陽光が好んでとまる髪は金。意志の強さを示す眉は太すぎず細すぎず緩やかな弧を描き、長い睫毛のしたから現れた瞳は清澄な氷河よりの湧水をおもわせるアイスブルーの輝きをたたえ、わずかに薄紅をひいた唇からは、おし込めてもなお隠しきれぬ艶めかしさが漂う。
恵まれた体躯に、サヴェリウス騎士団最上位の白銀甲を隙なく纏ってたつ姿は、誰もが尊敬と思慕の念を募らせるだろう。ただ、いまは各国要人のつどう場への武器の持ちこみは禁じられているため、丸腰である。
彼女、インブリット・デュ・グレスクォルは見目に違わぬ麗冷な美しい声で王へ尋ねかける。
「やはり会議のほうは大変でございましたか?」
王はうむ、と頷いて、顔半分を占める立派な栗色の髭をなでる。
「ウェラヌス特使のやつめ、あれは野良の戦獣がたまたま紛れこんだだけだだの、我が国が製造した確たる証はあるのかだの、みえ透いたはぐらかしをペラペラとほざきおる。
明るみに出ることは前提の試用であったのだろう」
あるき始めた王に合わせ、インブリットも歩調をあわせで従う。
「埋められた戦獣はディルソムが掘り起こしたと聞いています」
「うむ。だが頭部が吹っ飛んだものが一体あったきりで損傷もひどく、証拠は検出できずじまいであったらしい」
「··················」
と、インブリットは考える風。
「よほどの力であったのでしょう。陛下はディルソムもまた真相を語ってはおらぬ、とお考えですか?」
「ああ······秘匿しているであろうな。ほぼ無傷で灼かれたもう一体を。
いずれにせよあの忌まわしい技術は現世にあってはならぬものだ」
「······はい。あの技術は危険と私も愚考します。もしもあれがもっとおぞましい方向へと向いたなら──」
女騎士は己の言葉に嫌悪をしめし、最後にこう締めくくった。
「この世は地獄と化します」
「それはそうと、伯父上様」
つとめて明るく話題を切り替えるように、インブリットは口調をやわらげた。
「ロプサーヌへのご処分、撤回なされたのですよね?」
「うむ、まぁ、な。功を立てたならば、という約定であったし」
「近々帰郷も叶うのでしょうか」
「ふん······」
問われた王の表情はけして明るいものではない。インブリットにはその意志をはかりかねた。
道はいつしか回廊をそれ、中庭へと至った。
一流の大造園家渾身の工夫をこらされてしつらえられた花園には、北国の寒さにも負けぬ淡い青や桃の花々が咲き、誇らしげに競演をみせている。
たとえ、と彼女は思う。
たとえ誰に歓迎されずとも、私だけは歓迎してやろう。そして思う様褒めてやるのだ。よくやった、私も嬉しいぞ従妹よ、と。
失礼いたします、との控えめな声が、彼女を妄想よりひき戻す。あわててとり繕い、背後の従者に尋ねかえす。
「なんだ」
「これを」
といって差し出されたのは、紅く封蝋がなされた書簡とおぼしき紙片だ。
「ではな」
気を利かせてくれた王らがかるく腕をあげて去っていくのを敬礼して見送ってから、女騎士はいそいそと封を切る。
ああ、やはりそうだ、私のロプスからの書簡。どれどれ······
野にでて少々雑になった気のする、されど可愛らしい文字を嬉々として追う彼女だったが、半ばまで来たところでその表情に翳りが見えはじめ、最後まで読み終えるとまた一読。そのまましばし立ち尽くした。
「······インブリット様?」
従者が心配して声をかける。
「······だと」
「?」
「「なんだとぉぉぉぉぉぉぉっっっッ!!!」」
「インブリット様ぁーっ?!」
薄雲のたなびく空に、女騎士と従者の声が響きわたった。
やってしまった······
またもや見込み発車の自転車操業確定。
なんか書いてないと書けなくなりそう、なんて強迫観念に敗北しました。
なお、王様の名前はもっと長い模様。(略)です。
とりあえず明日は更新がございます。




