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覚醒めるは古の⑤


 うう······まったく気味が悪い。

 いまのこの俺の有り様はなんだ。


 この世の常識外にある呪われた鎧を、いけ好かないとはいえ亡者(バーハルト)からひっ剥がしているのだ、正気の沙汰じゃない。

 いや、鬼鎧団から逃げる時いちど経験ずみだが、あのときは恐慌状態で麻痺していた。



 追い剥ぎとか。とうとう落ちる所まで落ちたな、俺······。

 これで、ごめん方弁だった、とかいわれたら本当に鬼になって恨むぞ!!



 葛藤を怒りに()べながら、ユオルは動きをとめた鬼鎧に手をかける。


「急に動かないでくれよぉ············」


 ギロリ、と目玉がこっちを見る。

 くそ、それを止めろこの野郎!



「──まだッ?! 早くして!!」



 徐々に身体が暖まってきたか戦獣の動きが鋭さを増す。二体を一身にひき受けるロプスが荒れた地面に足をとられ、これを躱しきれず、やむなく白槍で受ける。

 瞬時、槍より目も眩むばかりの光が迸り、あの細身で巨斧をおし留める。



「早くッッ!!」

「ちくしょォォォォォォッッ!!!」



 もうヤケだ!

 ユオルは脇から蓋を開けるように分かれた胴部分に左腕を滑りこませた。とたん、鎧がガチリと閉じ、まるで彼の身体に合わせるようにちぢみ、馴染む。

 残りは四肢の部位······ええい、腕のだけでいい!


 振り返ると、直後、またもやロプスが一撃捌いて体勢を崩した。

 危ない!



「ぬぅぅぅわぁぁッッッ!!!」



 間一髪。

 両者の間に割って入ったユオルの身体に、獣の凶刃が振りおろされ、とてつもない重圧が肩口から足へと駆け抜けた。



「「ッッッ!! だ、大丈夫だなくそっ!!」」



驚くべきことに鎧には凹みがすこしついた程度だった。本来なら腰から砕けて潰されかねないというのに。

 とっさに戦獣の丸太のような腕に組みつく。



「これでいいんだろ!? 早くッッ!!」



 なんと怖ろしい感触だ。

 筋肉とはこうまで凶悪になりえるのか。奥底からの脈動ではじけんばかりだ、一秒だって触れていたくない。


 たしかに鬼鎧のお陰で護りの面はぎりぎりながら問題ない。

 だが腕力となれば話は別。

 神具だか呪具だか知らないが、これを纏ったからといって怪物を押しこめる剛力までが身につくという話ではないのだ。

 振りほどかれ、打ち捨てられてもまた組みつく。必死に新たな主を信じて時を稼ぐ。




「······! よくやったよ! それでこそ私の家臣第一号だ!!」



 風鳴りとともにロプサーヌが片腕で槍を繰る。



 槍が軽い······まるで体の一部であるかのように。



 白槍はいまや、完全な真の姿をさらけ出す。

 みずからを光で再構築していく柄はまさに槍のそれ。

 かがやく刃の面には正体不明の刻文字がうかび、主の足下に光の渦を生じる。

 周囲のあまねく輝き──それは自然にあるものだけではなく、彼女に味方せんとするユオルからも大地を通じて集まり、恒星のような大円の輝きのまわりに、ひとつ星を描きだす。

 もう一体の攻撃を華麗なステップを踏みながら避ける唇が紡ぐ言霊に反応して、ふたつの星は回転し、輝きを増していく。




『いくよッ! 戦乙女ッッ!!』




 ジュバッッ!!



 振るわれた槍から幾筋もの光が空気を灼く音とともに宙を駆け抜け、目前の巨軀の至る所を貫いて過ぎた。


「!」


 だが怪物は一体ではない。一気に脅威と化したロプスまでの道を塞ぐユオルを排除しようと、断末魔の力を振り絞る。


「──あぶッ!?」

 ついに限界がきてユオルが振りほどかれ、後ろへとつき飛ばされる。


 と。



「まかせろ、相棒っ」



 スパンッ、と白の一閃が一本角の眉間を射抜いたとみる様、肩のうえで声がした。軽やかにユオルの肩をステップに、ロプスが宙へと舞う。




「「ブモォォォォォォォッッッッ!!!!」」




 死力を尽くした一撃がちいさな陰を真っ二つにせんと狙う。




 だが、その刃は届くことなく。


 駆け抜けた一閃の軌跡をなぞるように。


 みずから加速した光の槍は、狙いあやまたず怪物の眉間を差し貫き──穿つ、などという慈悲すら感じさせぬ、爆散という形をもって、この哀しき異形を地に沈めたのだった。


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