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覚醒めるは古の②


 なんだアレは。

 まだ燃えている建物が、まるで積み木を崩すかのように崩れていく。あきらかに燃え落ちているには不自然な勢いで。

 その先に見えるは、さきほどの生意気な若い士官と、町の者だろう、平服の若者と兵士ひとり。

 当然ながらそれを成しているのはあの者らではない。ならばあれを成しているのはものとは······あの後ろより迫るものとは······!


 ウェラヌス総兵長は、大陸神教にきく煉獄(れんごく)さながらの光景に固唾をのむ。

 炎の海の照り返しをうけて輝くあの黒、その鎧の意匠たるや······まさに鬼!!



 転がりでるようにして町を脱出したロプスたちをとり逃がした元バーハルトは、眼前にひろがる絵──多勢の兵の居並ぶさまにしばし目測をうしなったか、呆然としているようにみえた。

 背後に赤々とたつ火柱を背にしたその姿は、数的優位にあるはずの兵たちの心胆をすら寒からしめた。



「!」

「なッ······!」


 ふたたびやつが動き出した。

 が、どうしたことかロプスたちを捨ておいて、まっすぐ我が方(ウェラヌス側)へと駆けてくるではないか!



「ちッ······捨て鉢めがッ······!!」



 それはもしやすると生前の恨みか。とにかく計算もクソもない。

 バーハルトは数の大小なぞ構いもせず、ウェラヌス軍へと剣を奮って突っ込んだ。


「ぐわッ!」

「ぎえッ!」


たちまち悲鳴が沸き起こり、まるで牛にでも突き上げられたかのように、兵士が高々と宙へ放り投げられる。



「く──化け物か!!」


「隊長! あの進路は······奴が『切り札』の方へ!」


「なにッ!?──いやまて、そうか!」



 もともとバーハルトが一世の雄であることは承知していた。手下なぞは幾らいても相手にならぬが、奴だけは厄介だ、と。

 ゆえに奥の手、かつ試験体として持ってきていた、いや連れてきていたのだ。

 我が国のあらたなる主力たり得る産物!



「好ましいとは思わんが······それでも都合はいいか。あれなら目撃者もろとも綺麗に片付けてくれるだろうよ。

 ──よし、切り札を放て!!」



 難路をわざわざ曳いてきていた護送車の檻が前面へと推しだされる。

 鋼鉄製のあげ扉がひらき、その巨体がノッソリと、正面口より這いいでた。

 バチンッ! と仕掛けのあった鉄球つきの手鎖と足枷が音をたてて地面に転がると、二体のソレ、はまるで背伸びをするかのように上半身を反らし、




「「グモォォォォォォ──────ッッッ!!!」」




と空一面に響きわたる雄叫びをあげた。



「! あれはッ!」

「何だッ?!!」



 それ、は、ダルゴーニが主家を裏切るほどに怖れた原因であり、古の罪悪の再来であった。



 異様にして威容。

 高熱すらを宿していそうな、バーハルトとはまた違う、隆々とした筋肉の鎧。

 一歩踏みだすごとに大地を窪ませるかのようなドッシリとした下半身。

 人のように二足でたち、ゆえにこそか申し訳程度の衣服めいた布切れを与えられ、されども明らかに野生のみが精神を支配しているそれ。

 おおきな拳を形成する両の手は人のごとく物をつかむことも可能にしたものであり、脚先も人と獣の中間とでもいうふうに平たく硬い蹄。

 全体を逆三角形にしたような体躯のうえにのる頭も大きく長く、鼻柱のうえには禍々しく天を突く一本の角。正面を見据えるふたつの眼も発光し、鼻の孔と牙ではない臼歯のそろった口から蒸気のような(もや)を吐いている。

 怪物らは、味方兵四人がかりで運ばれた巨大戦斧をこともなげにつかみあげ、バーハルトと対峙する。


「······なんなんだアレは!!」


「──っ。戦獣ッッッ!!」


 戦獣? 聞き馴染みのない単語だとユオルは問い返す。あんな異形、情報皆無のまま対峙するなんて絶対にゴメンだぞ。


「百年前の大戦で使われてたものだよ。いわゆる戦闘兵さ。いまもいる野生の化獣は生き延びたアレの子孫だ。私も生きてるのは初めてみたけど」


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