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覚醒めるは古の①


 みょうに歯切れの悪いコドルカの民の口を割らせ、ロプスたちは町外れにある、石造りの倉庫の前にやってきた。



 ──ハーバルトはすでに死んでいる。


 そうユオルからも聞かされたときも、ロプスが何かを言うことはなかった。ただ、複雑そうに眉根を寄せただけだ。


 顔役が無言で若い衆にうながし、重い扉を開かせる。

 まったく日の差し込む隙のない室内は、見通せぬほどに暗く、灯りをもった三人ほどが首領の亡骸をひきだしに入っていくのを、皆してじっと見守った。



 唐突に事は起こった。

 稲妻が空を裂くかのような、だし抜けの轟音。

 石積みの横壁がゴロゴロと崩れたかと思うと悲鳴がこだましてもれ響いた。

 戦慄した者たち皆驚いて身構えるなか、ザリッ、ザリッ、っと地を踏む音がゆっくりと近づいてくる。



「······な······バカ、な············」



 ユオルは青ざめて口ごもる。いや、誰もが思ったろう。おなじく血の気も引いたろう。



 その男、バーハルトは──歩いていた。

 ぴくりともしない若衆ふたりを両手に引きずりながら、歩いていた!

 光を宿さぬ眼差しはつねに天井をむき、開いた口を閉じようともしない。血の気の失せた肌からもそれはわかる。たしかに彼の魂は、もうあそこにはいない! にも関わらずだ!


 ······たしかに死んでいる。なのに──いや、それよりも······!


 ロプスの眼差しは、蒼い顔のバーハルトではなくその下、身をいまだ包む鬼鎧へと注がれている。



「?」


 ふと微弱な鳴動に気づく。肩先を見ると、



「······光って、る······?」



 背負っていた白槍が。

 これまでまったくらしからぬ、棒同様であった白の宝槍が。なにかを報せるように、白の輝きを薄暗がりに放っている。



「じゃああれは······やはり異空より来たりし武具······!」


「わかるのか? そうだ、アレはこの世のモンじゃない! 奴──バーハルトは転生者であの鎧はおそらく······超越した何かからの贈り物だ!」



 さすがの恐れ知らずの少女もこれをきくと、気圧されたように一歩後ずさった。緊張のためか、ぺろりと唇をなめる。



「······なるほどぉ? じゃああれも神具ってワケ」


「だが······だが何故? 鎧ったって所詮は鎧だろ?! 勝手に動くなんて······どうみたって奴は死んでる!」


「······そうだね、間違いないと思うよ。

 だとすると、この挙動はあの神具にもともと備わっていた力か、それとも暴走············ううん、あるいは、まさか············」



もうひとつの可能性に思い至り、だが確証もないゆえにロプスは口をつぐむ。



 ブンッ、と腕を交互に振って、バーハルトだったモノは両腕の荷物を放り投げた。

 若衆たちは恐ろしい勢いで人の間をぬけ、ひとりは建物の残骸に突っ込み、またひとりははるか遠くに着地したが、それでも動く気配はなかった。



「どちらにしてもアレを止めるしかない! あの鎧がある以上、ウェラヌスの連中にひき渡すなんて出来ないよ! 構えッ!!」



 ロプスの号令に護衛の兵らはいっせいに抜剣する。ユオルもなけなしの武具、(スキ)を構えながら、一目散に逃げだした顔役への進路を阻むようにしてたった。

 応じてバーハルトも剣を抜くと、生前と変わらぬ、いやそれ以上の動きで一気に間合いを詰めてくる。


「ギャッ!」


 剣対剣。ただ受けただけ。それでもその一撃は兵のひとりを裕に弾き飛ばす。

 隙を逃さず斬りかかったもうひとりは、右の拳──それも信じられないことに拳が接する直前に、身体をくの字に曲げるようにしてふっ飛ばされた。

 まったくの無作為に次の標的にされたロプスへと、凶刃が迫る。



「!!?」



 はたしてあの体躯差で受け切れるのか、いやそもそも大の男でさえあの様なのだ、潰される!

 ──と思われたが、輝く白槍はガッチリとこの刃を受けとめ、微塵も流れない。


 だが。



 ······ッ! 折れない······ッ、たかがフツーの、剣なのにッ············!



 たいして銘刀ともいえないかの剣と、国宝級の槍先とでは優劣は明らかであろう。

 たが無骨なだけの鋼製の剣は、彼女の槍がそうであるように神具の力でなんらかの補助を受けているらしく、腕力ひとつで互角以上に槍先を押し込んでくる。


「ッ、一時撤退!!」


 ギチィンと圧迫を逸らしながら刃絡みを解いたロプスがたまらず叫んだ。



宝槍「戦乙女」


我が国の宝物殿のなかでも、特筆すべき武具といえるだろう。

サヴェリウス中興の祖、「湖の聖女」様が振るったとされる槍である。

だが、ながき王家の血統をもってしても使いこなせた方は数少ない。

これは私見だが、もし自在に振るえる方がいるとするなら、それは聖女様の······


サルヴェンドラ王家・宝物殿所属侍中の記録。



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