来たるべきもの①
秋風を旋風のごとく巻きあげて進む一団があった。
偶然にも行きあった者らは、何事かと我が目も疑ったろう。それ程に重々しく、そして古めかしい。
陽に金属の輝きを放つ一団は、これらの視線を省みることもなく、ただ一箇所を目指してつき進む。
不吉な空気を封じ込めたような檻車をひいて。
宴会はその幕を閉じるにあたり、惨劇となった。
流血に酔ったようになった町衆が肩で息をついた時、場はすでに一帯赤の海であった。
正気をとり戻すと皆、自らのしでかした事態に怖気づいて顔を青くし、沈黙する。
「いいんだ、これでいいんだ············」
棍棒をとり落とした大工の頭領が言い訳のように呟いた。
「俺たちは自分を助けただけだ。······誰も救っちゃくれなかった」
「そうだ」
顔色悪く、しかし顔役も肯定してうなずいた。
「さぁ······はやく死体を片付けるんだ。誰にも見られない所へ。巧くやれば賞金だって転がり込むぞ」
ノロノロと動き始めた町人のなかで、ユオルは愕然としてたち尽くしていた。
なんだこれは······いかにも温厚そうな人達がこうも······まるで魔獣のように······。怖気がはしる。
あれ程の威容を誇ったバーハルトも、白目をむいたまま、町人らに麦の袋のごとく吊り下げられ運ばれていく。
だらりと力なく落ちた腕が、彼の灯火が潰えたのを物語っていた。最期の瞬間、あの超技術の詰まった鬼鎧はなんの役にも立たなかったのだ。
たしかに彼らは悪党であり、散々に事をしでかした。
だがその多くは、勝手に流されたり、たまたま此方に生まれてきただけ。
世界はそれをすら許さないのか。最後の最後で彼らは拒まれたのだ。
ほんとうに、虫酸がはしる。
「なに、南から土煙?」
ただひとり、我知らずに生き残った最後の幹部は、手下からそんな報告を受けて眉根をよせた。
そんな馬鹿な。そちらは俺達の山のある方角だろう。そんな方面から『なにか』が来るなんてあり得ない。山には留守の隊もわずかに残している。連中がなにがしかの報せをよこすハズだろう。
なにかが変わった。
それも自分たちをとり巻く澄んだ流れが、いつの間にか汚泥にすり替わってしまったかのような不快感を伴って。
そうするうちにも、響くは馬蹄。そしてギラついて照り返る白──
「まさか──ウェラヌスギア!! マジで侵犯してきやがった?!」
あわてた幹部は手下全員を率いてコドルカへと押し入り、宴の会場ですべてを悟った。
いくら目を走らせても、人っ子ひとりおらず、残るはドス黒いなかに何かを引きずったり、担ぎあげたような跡だけだ。
だがこの幹部には、ここまできてもバーハルト達がいとも容易く町衆の手にかかったなどとは、到底受け容れられるものではなかった。
ただ、ここで何かが起こったことだけは確かで、なにか約定違いがあって、バーハルトらは町人を殺し回っているのだ。きっとそうだ、そうに違いない。
「やれッ!! こんなクソ町、燃やしちまえェッッ!!」
目を血走らせ、なかばヤケになったように叫ぶ。
手下らはいまだ燃えていた会場の火を手に手に、目のつく端から建物の窓を破って木切れを放りこんだ。
次第に育った火が勢い激しく屋根を突きぬけ、おりからの乾風に煽られ、たちまち町は焦熱の煉獄と化してゆく。
「おい! こっちだ!」
度外れた事態に呆然としていた元警兵の仲間に駆け寄ったユオルは、彼らの腕をひっ張りながら叫ぶ。
「馬鹿野郎! 逃げるんだよッ!!」
整々と迫ってきたウェラヌスギア軍でさえ、場の混乱ぶりには唖然とする他なかった。
それはそうだろう。彼らには町の荒廃を望む道理がない。糾合を望むのであれば、無傷で手中にせねば計画は成就たり得ないのだから。
「おのれ······」
総兵長は黒い煙が渦巻く空間を忌々しげに睨んだ。
ここまで火精が強くては······。
「いいか! 逃げだすものは皆捕らえよ! ひとりも逃がすな!!」
ユオルたち元ロスキー警兵隊の面々は逃げる。暴徒と化した町人から、侵入してきたウェラヌスギア軍から。必死に脱出口を求めて足掻き続ける。
途中、町人の一家が鬼鎧団の残党に襲われそうになっている所を、どっとおし寄せ追い散らす。
「ああ、ありがとよ······アンタ? 自警団の? だが後ろの連中ァ············」
「俺の仲間だ、味方だよ。それより逃げよう、それが先だ」
亭主を案内にその家族を囲うようにして、一行は燃える街並みの迷路を、ときに燃え崩れを迂回しながら進んだ。
「抜けた! 出られるぞッ!」
「おいあれ!」
仲間が示す方をみると、遠く、丘の上にひと塊になっている一群があった。
「ありがたい! 皆あすこにいる!」
亭主の声を背にうけ、ユオルたちはこれに合流せんとした。が──
「いたぞ、逃がすなッ!」
はりあげられた声とともに。横合いから数騎の騎馬がこちらを見つけて駆けてくるではないか。
「──走れェッ!!」
ユオルは道中拾った鋤を構えて数人と壁をつくり、その間に残りのものが婦人と子供を守りながら丘へと急ぐ。
ウェラヌス兵たちはユオルらの貧装をみて一気に襲うことはせず、馬での威圧でもってジリジリと彼らを丘へと追いたてにかかる。
このまま町人ごと抑えてしまうつもりなのだ。
くそ······わかってはいるが! どうしようもない! はぐれれば······斬られるっ······!




