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惨劇②


「······降伏、いたします」


 山砦までやってきたコドルカの顔役たちが、頭を垂れた。とうとう折れのだ。

 バーハルトとその腹心たちは心中にひろがる勝利の笑みを噛み殺す。はじめは突然の心変わりに、怪しむところもないではなかった。

 が──


「領主様におすがりしても無しの(つぶて)。町の衆をこれ以上傷つけないという約束を守って頂けるなら······」


顔役の弱りきってはいた本音。この言葉が最後にのこった疑念をも吹き飛ばした。


「勿論だ。我々はなにも非道なことはしない。味方であってくれればな」




 町へと帰る顔役らに請われ、ともに入境することになったバーハルトらは、口許が自然にほころぶのを止められない。

 ダルゴーニがうまく手を回してくれた。つまりは、俺たちにあの(コドルカ)をくれてやるぞという、そういうことなのだ。


 それはそうだろう、と彼らは自信に胸をふくらませる。


 周囲に我らに適う騎士団がいようか。


 度胸はもちろん、実戦力も充分。

 つい先だっても、他国の正式な軍隊を蹴散らした。それもこの(ディルソム)のために。

 いってみれば、迎え入れられて当然の武功をたてたのだ。ダルゴーニにかぎらず、どの領主であれ俺達を囲いたいと思うだろう。

 ツキが戻った。絶好調、快進撃の勢いをこちらにきてとり戻したのだ。

 鬼鎧団の面々は信じて疑わなかった。






「なんだって!? 降伏?!」



 ユオルは報せをもたらした男に食ってかかった。



「本当なのかそれは!」

「しら······ねェよッ!!」



 若者は怒りの声をあげてその腕を振りほどく。


「上の方でそう決まったんだろうよ! 仕方ねぇだろ?!」


 またも、またしても裏目。どこまでも逆巻く運命に、ギリッとユオルは歯を食いしばる。


 こんなこと······仲間を助けるどころかの話だ······!





 下っ端同士で怒鳴りあっていても意味がない。

 いったん頭にのぼった血を冷ますと、ユオルは話しあいがもたれているという町議堂へ忍んでいった。


 町議堂は教会とはまた違う建物だ。木造の、歴史だけはついたなんとかいう建築方式の建物で、裁判のための前庭が付属している。

 建物の陰からこっそりと様子をうかがうと、その前庭では交渉とは名ばかり。なんと歓迎の宴会が繰り広げられていた。

 賊団の主だったところがほとんど揃って、野天に設けられた席で貴族ばりの饗応をうけていた。

 あの鎧男、バーハルトも、両脇から町娘ふたりにはさまれて甲斐甲斐しく世話をされている。

 そんななかでも、うち解けた雰囲気で、隣に陣取った顔役と意見を交わしているらしい。何事か口をひらき、うなずき合う。



 ······いるのは幹部連中ばかり、だな············。


 ユオルは忌々しい思いで饗宴をみていたが、それならばと(きびす)を返した。





 町の外へ出ると、案の定、鬼鎧団の兵が町を囲むようにして待機していた。勝ち誇ったように、賊旗が風に音をたててたなびいている。

 その中にいるだろう見知った顔を探して、彼は、気を利かせて饗応のおこぼれをはこぶ町人らにまじって近づいていった。



「······オイ······オイっ」


「? ──お前············デバルーニェか!?」

「······ユオル!」


 元ロスキー警兵の者達は仰天して、しかしすぐに声をおし殺す。とりあえずは無事な様子の仲間たちにユオルはひとまず安堵したのだが······


「良かった、無事か」


「······無事? 無事なもんかッ」


まったく思慮外の、非難の視線がこちらを射抜いた。


「死んだと知らされた、それで納得しようとした!

 だがなんだ?! やっぱり逃げていやがったのか、お前もマズノルも! お前達のせいでなぁッ············!!」


 すごい剣幕に、さすがにユオルはたじろぐ。


「しかし、しかし俺らはお前たちを助けようと思って──」


「いらん世話だ!! だいたいどう助けようってんだ? コドルカの連中だって降伏した!

 ありがとよ、これで俺達はもう一生盗賊だ!!」



 ドンッと突かれ、ユオルは力なく尻餅をついた。見上げた仲間たちの眼は怒りと哀しみに燃えたっている。

 暗い、昏い絶望の炎。

 これを覆す言葉などあるはずもないように思える。だが。



「······それでも、俺は」


ユオルは立ちあがると、町の中へと歩をかえした。


 俺にはもう、お前たちしかいないんだ······!





 はじめは警戒していた鬼鎧団の面々も、町人の胸襟(きょうきん)を開いた歓待にすっかり気を許していた。

 こうして新たに勝ち()った勝杯を、功労者たるバーハルトに捧げ、グラスを鳴らし、重ねる。

 料理も山砦のそれとは雲泥の差に気が利いていて、否が応でも高揚する。


「いや、初めはどうなることかと思ったが······これで俺たちも安泰だな!」


「おうとも! 晴れてお抱えの正式な騎士団だ!

 ウェラヌスの連中も歯噛みして悔しがるだろうぜ、アハハハハッ!!」


 気分が良い、これでまた生き延びた。

 俺たちはやはりこの世に必要な存在だ。こうしてクソな世界だって変えてやるのだ。

 だが······あまりにも興が乗ったせいかな、今日はやけに酒の回りがはやい──





 一時の後。


 宴会場はすっかり静まり返っていた。

 聞こえるのは、鬼鎧団が卓につっ伏し、あるいは椅子に()け反ってたてる寝息の音だけ。呑んだ者らはいざ知らず、下戸の者までご馳走の皿に豚のように顔を突っ込んだままに············


 カタリと椅子を揺らして顔役は席をたつと、音を殺してその場を離れる。

 そうして無言で右手をあげ、サッと鋭くふり降ろす。



 不気味なほどの静寂に、靴音と得物の鳴りのみをさせて。

 手に棍棒や農具をもった者らが会場に躍りこんだ。



誤字を修正しました。


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