表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
12/75

惨劇①


 辺境の町、コドルカ。

 ゆるやかな丘陵のなかにあるこの集落は、半農半牧の、いってみればなんの変哲もない町である。

 町、といったって、せいぜい村よりは規模があるといった程度で、さしたる産業があるわけでもない。

 自慢といえば町をぐるりと囲む、旧時代の堅牢な石積の壁くらいだろう。

 そんな田舎町がいま、危急存亡の危機にさらされていた。




 町の教会堂。

 自衛団本部も兼ねた堂内は、空気が重く沈んでいた。


 憂鬱(ゆううつ)の種は、もう幾度目になるのか分からない、鬼鎧団からの投降要請。領主様へ嘆願しても、「今は待て、良いようにする」の一点張りでいっこう要領を得ない。

 田舎町ではあるが、住民の年齢層は若いほうだ。

 働き手はそれなりに揃っているので、これが力任せならある程度は防ぐことも適おうが、いかんせん平和になってから百余年。

 民兵として戦に赴いていた世代はすでに亡く、荒事に慣れた者もいない。いたとしても全員奴らの方へ鞍替えしていたことだろう。


 皆が眉をしかめて床ばかり見つめていたその時だ。教会堂の扉が開いてひとりの男が入ってきた。

 まだ若く、背はそこそこだが痩せていて、しかも身形はひどくお粗末だった。最下層民、物乞いの一歩手前といった所だ。



「失礼します」

 だが見目に反して、その男はしっかりとした口調でいった。

「こちら、自衛団の詰め所ときいたのですが······」



 みなは顔を見合わせ、誰かこの若者を見知っているかと無言で問いあう。


「あー、何だねお前さん」


「入団を希望したいのです」


(ココ)の人間かね、見ない顔だが」


「いえ······でなければ入れませんか」


「いや、そうと決まってはいないが············入団ってお前さん、今この町がどんな状況にあるか解っているのかね」


「承知しています」



 ユオルは鋭い意志のこもった瞳でうなずいた。これをみて、ジロジロと彼を観察するように寄ってきた、大工の頭領らしき逞しい中年男が問う。


「······お前さん、経験は」


「警兵隊にいました」


「ホゥ! それはいいじゃないか! 是非、いろいろ指図を仰ぎたいものだな」


 町の顔役だろう、すこし太めの爺様のいうやつを、頭領がジロリと視線をおくって制した。


「まあ、知恵(ノウハウ)はありがたく借りるとして······それでも差配を任される訳にゃいかん。どこの誰とも知れん奴だぞ。もしも金目当ての傭兵きどりなら······」


「勿論です。別に加えてくれるだけでいい。知っていることは伝えましょう。

 若輩なんでたいして役には立たないでしょうが············」


フン、と頭領は鼻を鳴らすと、またみなの輪のなかへ戻っていった。



 ユオルはちいさな教会堂の神像をあおぐ。

 上々だ、むしろ指揮なんて押しつけられても困る。



「······待ってろ皆、かならず逃してやるからな」



 胸に宿るのは、置いてきた仲間たちのこと。

 効果は期待できるだろう。もしも幸運にも再会できたなら、みなこちらへと付くはずだ。それは、賊団からわずかなりとも人数をひき抜くことにも繋がる。

 三首竜紋章のお嬢様はクサしていたが、それでもいまだに俺は、マズノルには一定の感謝をしている。たとえ奴にどんな心算(つもり)があったろうが、こうしてここに俺がいられるのは、やはり奴のお陰でもあるのだから。

 だから──今度は俺がやる······!




 お偉方の輪のなかへもどった頭領は、いまだ訝しげな目を闖入者(ユオル)へとやりながら、声を潜める。


「で? 領主様からの指令は、そのままなのですな?」


「うむ、そうだ」


 顔役は若干青ざめた(かお)でうなずく。


「そうですか。······なぁに、ヒビるこたぁない。なんせ俺達は『降伏』するんですからな。盗賊どもも馬鹿な真似は出来やしない。

 あとは······領主様がうまくやって下さるでしょうさ」


評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

↑ページトップへ