惨劇①
辺境の町、コドルカ。
ゆるやかな丘陵のなかにあるこの集落は、半農半牧の、いってみればなんの変哲もない町である。
町、といったって、せいぜい村よりは規模があるといった程度で、さしたる産業があるわけでもない。
自慢といえば町をぐるりと囲む、旧時代の堅牢な石積の壁くらいだろう。
そんな田舎町がいま、危急存亡の危機にさらされていた。
町の教会堂。
自衛団本部も兼ねた堂内は、空気が重く沈んでいた。
憂鬱の種は、もう幾度目になるのか分からない、鬼鎧団からの投降要請。領主様へ嘆願しても、「今は待て、良いようにする」の一点張りでいっこう要領を得ない。
田舎町ではあるが、住民の年齢層は若いほうだ。
働き手はそれなりに揃っているので、これが力任せならある程度は防ぐことも適おうが、いかんせん平和になってから百余年。
民兵として戦に赴いていた世代はすでに亡く、荒事に慣れた者もいない。いたとしても全員奴らの方へ鞍替えしていたことだろう。
皆が眉をしかめて床ばかり見つめていたその時だ。教会堂の扉が開いてひとりの男が入ってきた。
まだ若く、背はそこそこだが痩せていて、しかも身形はひどくお粗末だった。最下層民、物乞いの一歩手前といった所だ。
「失礼します」
だが見目に反して、その男はしっかりとした口調でいった。
「こちら、自衛団の詰め所ときいたのですが······」
みなは顔を見合わせ、誰かこの若者を見知っているかと無言で問いあう。
「あー、何だねお前さん」
「入団を希望したいのです」
「町の人間かね、見ない顔だが」
「いえ······でなければ入れませんか」
「いや、そうと決まってはいないが············入団ってお前さん、今この町がどんな状況にあるか解っているのかね」
「承知しています」
ユオルは鋭い意志のこもった瞳でうなずいた。これをみて、ジロジロと彼を観察するように寄ってきた、大工の頭領らしき逞しい中年男が問う。
「······お前さん、経験は」
「警兵隊にいました」
「ホゥ! それはいいじゃないか! 是非、いろいろ指図を仰ぎたいものだな」
町の顔役だろう、すこし太めの爺様のいうやつを、頭領がジロリと視線をおくって制した。
「まあ、知恵はありがたく借りるとして······それでも差配を任される訳にゃいかん。どこの誰とも知れん奴だぞ。もしも金目当ての傭兵きどりなら······」
「勿論です。別に加えてくれるだけでいい。知っていることは伝えましょう。
若輩なんでたいして役には立たないでしょうが············」
フン、と頭領は鼻を鳴らすと、またみなの輪のなかへ戻っていった。
ユオルはちいさな教会堂の神像をあおぐ。
上々だ、むしろ指揮なんて押しつけられても困る。
「······待ってろ皆、かならず逃してやるからな」
胸に宿るのは、置いてきた仲間たちのこと。
効果は期待できるだろう。もしも幸運にも再会できたなら、みなこちらへと付くはずだ。それは、賊団からわずかなりとも人数をひき抜くことにも繋がる。
三首竜紋章のお嬢様はクサしていたが、それでもいまだに俺は、マズノルには一定の感謝をしている。たとえ奴にどんな心算があったろうが、こうしてここに俺がいられるのは、やはり奴のお陰でもあるのだから。
だから──今度は俺がやる······!
お偉方の輪のなかへもどった頭領は、いまだ訝しげな目を闖入者へとやりながら、声を潜める。
「で? 領主様からの指令は、そのままなのですな?」
「うむ、そうだ」
顔役は若干青ざめた貌でうなずく。
「そうですか。······なぁに、ヒビるこたぁない。なんせ俺達は『降伏』するんですからな。盗賊どもも馬鹿な真似は出来やしない。
あとは······領主様がうまくやって下さるでしょうさ」




