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Eyes  作者: 有端 燃
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第四話

 一斗を不安にさせる生前の野村の職業、それは指定暴力団の三次団体(エ ダ)に所属する組員だった。事件当時の報道では前科もあり、その時は銃刀法違反と爆発物取締罰則違反、武器等製造法違反で懲役八年を言い渡されていた。

 住所が本当に野村家か分からないし、今も家族が住んでいるか定かではない。行ったところで家族に会えるか分からないので取り合えず日持ちのする手土産を買い、地図アプリと記憶した住所を頼りに野村宅に向かう。

 野村家は高牧駅西口から歩いて二十分ほどの、築三十年以上は経っていそうな六戸のアパートだ。郵便受けを見ても野村の名字は見つからないが、一部屋だけ名前が雑に上張りされている部屋があった。ほかの五部屋は、ごく最近張られたか劣化具合から五年以上は経っていそうだ。上張りされている部屋が野村家か野村家だった可能性が高いだろう。

 

 緊張しながら一斗は名前が張り替えられた部屋のインターホンを押した。

「はい?」

 気だるそうな中年女性の声が返ってきた。

「突然申し訳ございません。私……」

 ここでも二年前のことを伝える。元暴力団関係者だけに、後に不当な要求をされないよう警戒して、助けられた話は省いた。

 返事がないままカチリと解錠の音が響き、チェーンロックが掛けられた玄関扉が開けられた。水商売風の中年女性が一斗を一瞥すると「入んな」とチェーンロックを外した。

「失礼いたします。あの、つまらないものですが……」

 狭い玄関で靴を脱ぐと、女性に続いて室内に入り手土産を渡した。

「ありがとう。子供が喜ぶよ」

 仏壇に一斗を案内すると、ライターが渡される。

「ロウソクなんて置いてないから、気にしないでそれで火をつけてね」

 一礼すると、いつから置きっぱなしになっているか分からない線香に火をつけ香炉にさす。仏壇の遺影を目にした刹那、頭の中で光が弾け、悪夢のシーンが一瞬よぎって消えた。


「こんな物しかないけど」

 勧められるままキッチンの椅子に座ると、缶コーヒーが出された。

「いただきます」

 一斗の正面に座った女性はマキとだけ名乗った。

野村(あの人)が関わった事件で大ケガをしたんだよね? それなのに何でわざわざ線香をあげになんか来たのさ? 普通は恨んでいるんじゃないのかい?」

 マキの疑問はもっともだ。一斗が同じ立場でもそう思うだろう。

「実は頭を打ったせいか、二年前の事件以前の記憶が全く無くて……。怪我も治ってようやく動けるようになったら、自分で色々確かめたくなったんです。生き残ったのは自分だけですし、まずは亡くなった方のご冥福をお祈りしてからと思いました」

「そう……。お線香をあげるくらい構わないけど、あんた変わってるね」

 マキが初めて笑顔を見せた。少しだけ若返ったように見える。

「突然お伺いしてすみませんでした」

 コーヒーを飲み終えた一斗は席を立った。

「気にしないで。それより、あの人にお線香をあげにきてくれてありがとう」

 ドアを開けてくれたマキは一斗を見送りながら続けた。

「あんたみたいな素人(カタギ)が首を突っ込んでいいことじゃない。せっかく助かったんだから、命を粗末にするんじゃないよ」

 先ほど見せた笑顔とは打って変わって真剣な表情だった。

 

 自分は野村のことを知っている。一斗は遺影を見た瞬間、そう感じた。だが、今までの人生で自分と暴力団組員の野村が交わることなど無かったはずだ。意識が戻った後に行われた警察の事情聴取でも、一斗と事件関係者に繋がりは見つからなかったと言われていた。つまり、野村を知ったのはDメッセでの事件でだ。ただし、まだ事件と悪夢の関係は分からない。

 高牧駅へと戻る道中、一斗の意識は野村との関係に集中するあまり、黒光りするアルファードが横付けしてきたことに直前まで気づかなかった。

 助手席から屈強そうな坊主頭が降りると素早くスライドドアを開け、一斗の胸ぐらを掴んだ。呆気にとられた一斗は無理やり押しこまれる。男が助手席に戻ると、運転手はアルファードを発進させた。

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