表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
Eyes  作者: 有端 燃
48/82

第四十七話

 マキの邪魔をしないよう路駐した車の横で待っていると、程無くして白いクラウンが一斗の横で止まった。

 チンピラヤクザの看板を掲げたような、一斗とさほど年が変わらない二人が乗っている。派手な刺繍の入ったジャージを着たチンピラが助手席から降り、顔が付くくらい一斗に近づいて睨付けてきた。威嚇のつもりだろうが、仁木の威圧感に比べたら大人と子供くらいの差がある。

「助手席に乗んな。てめえの車は俺が乗っていくから鍵を寄越せ」

 頷いた一斗は、家の鍵を外してから渡すと助手席に乗り込んだ。こちらの心情を悟られないよう無言を貫き、甲斐のサングラスも外さなかった。このサングラスを掛けていると、甲斐が付いていてくれるようで心強い。

真田(さなだ)の兄貴が事務所で待ってる。貴重な時間を割いてやってんだ、与太話なら殺して埋めるからな」

 真田と言うのが坊主頭の名前らしい。脅し文句には手慣れた感があるドライバーに頷き、初めて口を開いた。

「分かってますよ。自分の命がかかってるんだから、こっちもそれなりの覚悟で来ています」

「ふん。そうやって余裕ぶっこいていられるのも今のうちだからな」

 ドライバーは乱暴に発進させると、タバコに火をつけた。煙を嫌った一斗はサイドウィンドウを僅かに開ける。

「チッ」

 ドライバーが舌打ちをして一斗を睨んできたが、それ以上は何もしてこない。おそらく連れてくるまでは、余計なことをしないよう言われているのだろう。


 十分ほど気まずい時間を過ごすと、ドライバーは五階建ての古い雑居ビルの前に車を停めた。

 看板や窓のラッピングを見る限り、一階はキャバクラ、二階以上は街金や風俗店が入居している。

 二人のチンピラに挟まれるようにタバコ臭いエレベーターに乗ると、五階のボタンが押された。

 五階のフロアには監視カメラが多数設置されており、カチコミを警戒してか非常口扉には補助錠が追加されている。当然外の非常階段にもカメラが設置されているはずだ。

「連れてきました」

 インターホンに向かって話すと、真上からカメラが見張っている分厚いスチール製の扉が開き、年嵩の組員が扉を開けた。

「さっさと入れよ」

 一斗を連れてきた二人に押し込まれると、扉が重い音をたてて閉じられる。


 ここからが勝負だ。一斗は呼吸を整えるとそれとなく室内を観察した。奥の壁には神棚が設置してあり、歴代組長や上部団体の幹部との写真が額に飾られている。両袖のデスクに座るオールバックの肥満体がこの部屋でのトップだろう。その横にある皮張りのソファに並ぶ三人は、スキンヘッドにパンチパーマ、そして坊主頭の真田。

「今日はお時間を頂きありがとうございます」

 一斗はサングラスを外してそれぞれに頭を下げた。こちらからトラブルを起こすような言動は避けたい。

「こいつのボディチェックは済ませたんだろうな?」

 一斗を無視するように、デスクのオールバックがチンピラ二人を問いただした。

「申し訳ございません! これから……」九十度近く腰を曲げ頭を下げる二人が言いきらないうちに、スキンヘッドが怒鳴り付けた。

「てめえらは馬鹿か! こいつがカチコミに来た鉄砲玉だったらどうすんだコラ!」

 スキンヘッドとパンチパーマが立ち上がると、二人の腹に蹴りを入れた。

組長(オヤジ)殺された(とられた)ばかりだろうが! 若頭(カシラ)に何かあったらどうすんだ! おい!」

 倒れこんだ二人を蹴り続けながら怒鳴る。十分近く暴行されている二人を最初は呆然と見ていた一斗だが、これは自分に()()()()()のだと気づいた。下手なことをすると、今度はお前がこうなるぞという脅し。これがヤクザのやり口なのだろう。最初に恐怖を植え付けて、自分達のペースに持ち込むのだ。

「この馬鹿どもを連れていけ! 目障りでしょうがねえ!」

 スキンヘッドが怒鳴ると、年嵩の組員が奥の部屋に血まみれの二人を連れていった。


「見苦しいところを見せちまってすまねえな、兄ちゃん」

「いえ、こちらこそご迷惑をお掛けして申し訳ございません」

 何と返していいかわからないので、デスクに腰を下ろした若頭に謝罪をした。

「兄ちゃんみたいな素人が鉄砲玉とは思ってねえが、一応ボディチェックをさせてもらうぞ」

 真田が近寄ってきて、一斗のポケットを探る。財布やスマートフォンなどと共に淑華の名刺を手に取った。顔色を変えると、名刺を若頭に渡した。

「なんだ?」

 受け取った名刺を見て、若頭の顔に緊張が走る。

「兄ちゃん、楊家の世話になってるのか?」

「はい、淑華さんにですが」

「念のため確認取らせてもらうぞ」

「どうぞ」

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ