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Eyes  作者: 有端 燃
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第四十三話

 アレンの世話があるからと帰る、有希子と柊木を仁木は見送った。

 次に来る時は、駅で尾行を撒いてからタクシーを使うように言っておいた。柊木に運転させたら何をするか分からないし、車で撒くよりは簡単だからだ。

 もっとも、警察がタクシー会社に聞き込むのは間違いなく、車内を撮影しているドライブレコーダーの画像を確認されれば、いずれはバレるだろう。


「二人のことが心配?」

 淑華が冷蔵庫から二本の缶ビールを出しながら聞いてきた。一本を仁木に渡す。

「ああ。二年前の事件で死んだ同期の妹と、巻き込まれた被害者だからな。おまけに後藤組の組員に会うとか言ってやがるし」

 匿ってくれている淑華には、二年前の事件と追われている状況について、ある程度の説明はしてあった。

「あの男の子、やっかいだよ。大人しい顔をしているけれど、こうと決めたら躊躇わないタイプに見えるし、彼女にぞっこんでしょ。早死にする典型だね」

 生まれたときから裏社会で育ってきた淑華の見る目は確かだ。

「第一、後藤組に何しに行くのよ? 本部が爆破された上に組長が殺されてるし、タイミング的には最悪だと思うけど」

「後藤が殺される直前、アイコウって言っていたんだが何のことだがわからなくてな。側近の組員だったら知っているかもしれないから聞きに行くそうだ」

「彼、後藤組に知り合いがいるの?」

「前に一度拐われかけているから、いないわけじゃないな……」

 仁木は渡されたビールのプルトップを開けた。

「それ、普通知り合いって言わないよ。筋金入りの馬鹿じゃない、最高ね。達哉から乗り換えようかしら」

「俺はお前に乗られたことも乗ったこともないぞ」

 実際、淑華を抱こうと思えばいつでも抱けただろうと思う。仁木のことを憎からず思っているのも分かっている。それに父親も台湾マフィアの大物で、夫と死別している淑華は縄張りにしている歓楽街も多い。金・コネ・美貌の三拍子が揃っているため、淑華を狙っている男は数知れない。だが、娘の入学式が終わるまで逮捕を待っただけのことで抱くのは、恩着せがましいようで仁木の矜持に反している。


「筋金入りって意味じゃ、達哉も相当なお人好しだよね。私が刑務所に入っている間、娘が狙われないか気にかけていてくれたでしょう」

 淑華が刑務所にいる間に再び娘が狙われることを恐れていたが、すぐに杞憂だと知った。淑華に任せていた県内の歓楽街だけでなく、息子たちに都内や埼玉、神奈川の縄張りを持たせている父親が直接乗り込んで、ガードを固めていたのだ。

「まさかお前の親父さんが台湾マフィアの大物だなんて知らなかったからな。何度かこっそり見に行ったら敵対マフィアに間違えられて、えらい目にあったぞ」

「当時の達哉はどう見ても反社(こっち側)にしか見えなかったからね」

 淑華が笑ってビールを呷った。

「あとで着替えも届けるから、風呂にでも入って少し休んだ方がいいよ」

「淑華」

 出ていこうと立ち上がったところに声をかけた。

「なに?」

「……いや、何でもない。悪かったな」

「何でもなくないでしょ? 達哉ことならお見通しよ。何を迷っているの?」

 琥珀色の瞳は、全てを見透かしているようだ。

「どうしたらいいか分からねえんだよ。いや、違うか。何が正しいか分かってはいるが、いろんな感情がごちゃ混ぜになっているんだ」

「達哉の道は二つ。自分が正しいと思う道を貫くか、それができないなら……」

 淑華が一度言葉を切った。

()()()私が食べさせてあげる。偽造パスポートや身分証は用意するから、しばらく台湾でほとぼりを冷ませばいいわ」

「悪いな。ちょっと考えさせてくれ」

 うなずく淑華がドアノブに手を掛けたところで振り向いた。

「私の性格、知ってるよね?」

「当たり前だろう。何年付き合っていると思ってる?」

「それならいいんだ」

 

 淑華が出ていくと、湯船に湯を張り肩まで浸かった。これからどうするかを考える。

 柊木は近いうちにIDとパスワードを突き止める気がする。甲斐の記憶云々はともかく、柊木は切れるし思いきりもいい。

 アイコウについても、案外上手く言いくるめてくるかもしれない。柊木のようなタイプが相手では、後藤組の連中も調子が狂うだろう。

 問題は事件の謎が解けた時だ。甲斐が残した証拠をどう使うかによって、運命は変わる。仁木は少しだけ甲斐の気持ちが分かったような気がした。自分は甲斐と同じように、正しいと思える道を貫けるだろうか。

 弱気になっている自分に渇を入れるよう、湯船から出ると冷たいシャワーを浴びた。

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